第五十九話 精神一到(中編)
---三人称視点---
「我が守護聖獣ランディよ。
我の元に顕現せよっ!!」
リーファがそう叫ぶなり、「ポン」という音を立てて、
光り輝いたジャガランディの守護聖獣ランディが現れた。
前方には『帝国鉄騎兵団』の重装歩兵や重装騎兵の姿が見える。
敵は重鎧や全身を保護するプレート・アーマーを装着して、
馬に乗りながら、手にした長槍やメイス、フレイルで周囲の味方を攻撃している。
――前方の味方部隊が邪魔ね。
――ならば!
「――フライッ!!」
リーファは咄嗟に飛行魔法「フライ」を唱えて、空中に飛び上がった。
そしてそこから職業能力『魔力覚醒』を発動させる。
「――『魔力覚醒』っ!!」
リーファの魔力と攻撃魔力が一気に倍増して、
リーファの周囲から目映い光が発せられる。
――ここは『能力覚醒』は温存すべきね。
――ならばここで『ソウル・リンク』して敵を一掃してみせる!
「ランディ、行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解だ、リンク・スタートォッ!!」
そしてリーファとランディの魔力が混ざり合い、
リーファの能力値と魔力が更に跳ね上がった。
そしてリーファは左手を頭上にかざして、呪文を唱え始めた。
「我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンよ!
我は大地に祈りを捧げる。 母なる大地よ、我が願いを叶えたまえ!」
リーファがそう呪文を紡ぐなり、
リーファの左腕に強力な魔力を帯びた光の波動が生じた。
そしてリーファは全身から凄まじい魔力を放ちながら、呪文を更に唱える。
「そして天の覇者、光帝よ! 我が身を光帝に捧ぐ!
偉大なる光帝よ。 我に力を与えたまえ!」
次の瞬間、リーファは左腕を力強く引き絞った。
攻撃する座標地点は、前方の敵部隊の中心部に狙いを定める。
そしてリーファは右手で素早く印を結んで、声高らかに砲声する。
「光よ、敵を貫きたまえっ! ――ライトニングバスターッ!!」
次の瞬間、リーファの左手から迸った光のビームが放たれて、
半瞬程、間を置いてから、敵部隊の中心部に着弾。
神帝級の光属性の攻撃魔法。
着弾した光のビームはドーム状に膨れ上がって、
鼓膜に響く爆音と爆風と共に、
大地震が起きたように大地を乱暴に揺らせた。
「ぎ、ぎゃあああ……あああぁっ!?」
「に、逃げろぉ! とんでもない威力の魔法だぁっ!!」
「た、対魔結界を……うあああぁっ……あああっ!」
前方の至る所から、悲鳴と絶叫が上がり、
帝国軍の重装歩兵や重装騎兵が光の波動によって、
鎧ごと蒸し焼き状態にされて、次々と絶命する。
今の一撃だけで二百人以上の敵兵を倒す事に成功。
だがそこで追い打ちをかけるべく、エイシルが追撃する。
「ボクが追撃します! 『フライ』ッ!」
リーファ同様に飛行魔法で空中に浮遊するエイシル。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『トルネード』!!」
そしてエイシルが呪文を唱えると、
前方の敵部隊の周辺の大気が激しく揺れた。
すると風が発生して、砂がうねり、竜巻状に激しく嵐のように渦巻いた。
生み出された砂嵐は前方の敵部隊を力任せに包み込み、暴力的に渦巻く。
「トルネード」は聖王級の土と風の合成魔法。
先程、リーファが放った光属性のライトニングバスターと交わり、
魔力反応『神砂嵐』が発生。
それによって魔法攻撃が更に強化されて、
先程の一撃と合わせて、三百人以上の敵兵が一瞬で絶命する。
「凄いだワン」
「……確かにこれは凄い」
尋常ならざる一撃を前にして、ジェインとアストロスも息を呑む。
すると周囲の味方部隊の魔導師達が我に返って――
「――ワールウインドだワンッ!」
「――アイスバルカンッ!!」
「――ストーンシャワーッ!」
各々がそれぞれ攻撃魔法を放って、
前方の敵部隊に対して追い打ちをかける。
これによって敵部隊は更なるダメージを受けた。
だがしばらくすると敵兵も我に返って、
味方の魔導師達に対魔結界を張らせて、敵の攻撃を防いだ。
そして玉砕覚悟で『帝国鉄騎兵団』の重装歩兵や重装騎兵が突撃をかけてきた。
対する連合軍の第一軍の前衛部隊も
アストロスを先頭にして、接近戦で相手を迎え撃った。
「エンチャント・オブ・ライト」
そしてアストロスが光の付与魔法を発動させた。
彼が叫ぶなり、右手に持った白銀の刺突剣が光で覆われた。
白銀の甲冑の大群が突貫してくるありさまを、
魔法剣士アストロスは冷然と眼で追いながら、数歩前に進んだ。
地鳴りをあげながら次々と、
襲い掛かってくる帝国兵達を真正面から迎え討つ。
敵兵が振り下ろした戦斧を容易に交わすと、
兜と鎧のつぎめを薙ぎ払いで切断した。
むき出しになった頚動脈が網膜に映ると、
白銀の刺突剣で切り裂き、完全に生命を絶つ。
アストロスの長剣が縦横に振るわれて、
秒単位で帝国部隊の死体の山を築き上げる。
致命傷を受けて地べたに転がった半死の帝国兵の頸部を、
長剣で一閃して喉元を綺麗に切り裂いた。
それによって前方から怒りと憎悪の声が沸きあがる。
だがアストロスの表情には変化はない。
ただ冷然たる蒼い瞳で前方を見据えた。
冷やかな殺気と威圧感に押されながらも、
歴戦の猛者である帝国兵は果敢に前へ出る。
アストロスは四肢と五感と愛用の長剣に全神経を集中させ、
一方向に単一の敵をおいて、一方的な斬撃と刺突を繰り返し、
確実に敵兵を戦闘不能の状態につきおとしていく。
アストロスは人血で磨きあげられた白銀の長剣を軽く挑発気味に一振りする。
闘争本能と復讐心を煽られた『帝国鉄騎兵団』の副隊長レネオス・カルミナーが仲間を押しのけ前に出た。
細身のアストロスとは対照的に、鍛え抜かれた肉体を見せつけんばかりに
肩をいからせて、手にした戦斧を威嚇するかのように乱暴に二、三度振った。
「やるじゃねえか……。連合軍にも貴様のような男が居たとはな。
こちらとしても戦い甲斐があるぜッ!
オレの名は、『帝国鉄騎兵団』の副隊長レネオス・カルミナー!
小僧、貴様の名前は?」
「……アストロス・レイライム。
戦乙女の盟友の一人だ」
「成る程、そういう事か。
どうりで腕が立つ訳だ、面白い。
剣士レイライムよ、オレは貴様との一騎打ちを望むっ!」
「……良かろう、受けて立つ!」
「……他の者は手を出すなよ?」
副隊長カルミナーはそう口にするなり、
兜のバイザーを閉じ、ジリジリと間合いを詰める。
「アストロス、無理はしないで!」
「お嬢様、大丈夫ですよ。 私は負けませんよっ!」
「……ランディ、あの副隊長の能力値を分析して!」
「了解した! ――分析開始っ!!」
数秒ほどの時間をかけて分析を終えたランディ。
「リーファ殿、分析は完了だ。 あの男なかなか強いぞ!」
そしてリーファとランディの意識が共有化されて、
カルミナーの能力値の数値が露わになった。
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名前:レネオス・カルミナー
種族:ヒューマン♂
職業:ウォリアー レベル38
能力値
力 :924/10000
耐久力 :1132/10000
器用さ :573/10000
敏捷 :994/10000
知力 :271/10000
魔力 :381/10000
攻撃魔力:193/10000
回復魔力:174/10000
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「典型的な前衛タイプね。
でもなかなか数値は高いわ。
ランディ、アストロスの分析もお願い!」
「分かったぁ! ――分析開始っ!!」
再び分析を始めるランディ。
そして数秒後に分析を終えて、
リーファとランディの意識が再び共有化されて、
アストロスの能力値の数値が表示された。
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名前:アストロス・レイライム
種族:ヒューマン♂
職業:魔法剣士レベル33
能力値
力 :493/10000
耐久力 :750/10000
器用さ :474/10000
敏捷 :857/10000
知力 :389/10000
魔力 :1308/10000
攻撃魔力:675/10000
回復魔力:231/10000
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こうして数値化してみると、
二人の能力の差は想像以上に大きかった。
アストロスがカルミナーを上回っているのは、
知力、魔力、攻撃魔力、回復魔力といった魔法がらみの数値のみ。
身体能力の数値に関しては、相手が完全に上回っている。
「アストロス、そいつはかなり強いわよ。
身体能力の数値じゃ貴方よりずっと上よ!」
リーファは必死な声でそう叫んだ。
だが当のアストロスは冷静な表情で――
「大丈夫です、お嬢様。
私を信じてください、必ず勝ってみせますので!」
「アストロス……」
そう言葉を交わして、
アストロスは腰を落として両手で白銀の長剣を構えた。
そしてアストロス対カルミナーの戦いが今始まろうとしていた。
次回の更新は2023年5月3日(水)の予定です。
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