表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/379

第五十八話 精神一到(前編)


---三人称視点---


 翌朝の8月19日。

 両軍共に野営陣を敷いて、奇襲らしい奇襲は行わず、

 交代制で見張りを置いて、兵士達に四時間から七時間の睡眠を取らせた。


 それによって両軍の兵士達も最低限戦える状態を保つ。

 そしてたっぷりと八時間の睡眠を取ったリーファ達も再び最前線に立った。

 

 昨日同様に飛行魔法『フライ』で宙に浮かんで、

 リーファを中心に魔法攻撃で敵戦力を削っていく。

 対する帝国軍も弓矢や銃弾、砲弾で反撃するが、

 エイシルを中心としたリーファの盟友及び護衛部隊が

 障壁バリアや対魔結界を張って、敵の反撃を防ぐ。


 そして相手が怯んでいるうちに、

 第一軍の総司令官シャーバット公子は、

 シェパード部隊やドーベルマン部隊を先行させて、全軍に前進を命じた。


 その間にもリーファ達、突撃部隊は空から帝国軍の魔法攻撃を仕掛ける。

 魔力切れを起こさないように、交代制で攻撃魔法を放つ役。

 障壁バリアや対魔結界を張る役に分かれて、

 相手に休ませる余裕を与えず、ひたすら相手戦力を削っていく。


「ふう、こうして連戦を重ねると精神的にキツいわね」


「無理もありません、お嬢様。

 いくら魔力を補充しても、精神面の疲労は残りますから」


 と、アストロス。


「ぼ、ボクもそろそろキツいです。

 この状態で魔力補充し続けたら、魔力酔いを起こしそうです」


 苦しそうな表情でそう言うエイシル。

 魔力酔いとは、自身が保有する魔力に対しての抵抗力が

 下がった時に起こる症状である。

 この状態になると戦闘は当然として、歩行する事すら厳しくなる。


「確かにこのままだとジリ貧よね。

 分かったわ、ここはシャーバット公子殿下に、

 貴方達に一時的な休養を取るように上申してみるわ」


「……お姉ちゃんはまだ戦うの?」


 ジェインの言葉にリーファは「ええ」と頷いた。


「流石は戦乙女ヴァルキュリアというべきかしら?

 多少、頭が痛いけど、まだまだ戦う事は可能だわ」


「ならば私もお供します」


「オイラも!」


 アストロスとジェインがそう言う。

 するとエイシルも彼等に同調した。


「ならばボクも戦います。

 ボク一人だけ休むなんて真似は出来ません」


「いえ、エイシル。 貴方は少し休みなさい。

 そうじゃないと戦場でまともな判断と行動は出来ないわ」


「し、しかし……」


「いえ私の言うとおりになさい。

 大丈夫、私も無理するつもりはないわ。

 第一軍の前線部隊に合流して、彼等と共に戦うわ」


「……了解しました」


「なら善を急げよ、一度後退して、公子殿下の本隊と合流するわよ」


「「はい」」「ウン」


 そしてリーファ達、突撃部隊は後退して本隊と合流を果たした。

 リーファの上申に対して、シャーバット公子は――


「ウム、確かに君達は充分働いたからな。

 だから数時間ほど、休養するが良いだワン。

 その間に我が軍を前進させて、丘を越えるだワン」


「……お気遣いありがとうございます」


 そしてシャーバット公子は護りを固めながら、

 第一軍を目の前にある丘を超えるべく、前進させた。

 それに対して帝国軍の第二軍は、

 高低差を生かして、弓矢や銃弾、砲弾を放って第一軍の進軍を阻んだ。


「慌てる必要はないだワン。

 きちんと障壁バリアや対魔結界を張れば、相手の攻撃は防げる!」


 シャーバット公子は多少被弾しても怯まず、

 部隊を前進させて、何とか丘を乗り越えた。

 これによって高低差もなくなり、状況的に相手と互角となった。


 だが帝国軍もそんな事は理解していた。

 第二軍を指揮するタファレル将軍は、

 弓兵アーチャー銃士ガンナー狙撃手スナイパー

 中衛に配置して、前衛部隊にレネオス・カルミナーが率いる

 『帝国鉄騎兵団ていこくてっきへいだん』の重装歩兵や重装騎兵を

 配置して、真正面から戦いを仕掛けてきた。


「奴等が力業の戦いを挑んできたワン。

 ここは獣人部隊は後退して中衛に、

 ヒューマンとエルフ族の前衛職や攻撃役アタッカーは前線に出るだワン。

 ここを持ちこたえないと、この戦いの勝機を失うワン」


 凜とした声でシャーバット公子は、周囲にそう指示を出した。

 その指示に従うべく、ヒューマンとエルフ族で構成された冒険者及び傭兵部隊が

 前線に躍り出て、『帝国鉄騎兵団ていこくてっきへいだん』の兵士達と接近戦を繰り広げた。


「――連合軍など蹴散らせてくれるわぁっ!」


「――ここが稼ぎ時だ。 お前等、気合い入れていくぞぉっ!!」


 両軍の頭目がそう叫んで、

 手にした武具を振るい、血生臭い超接近戦を演じた。

 だが相手は帝国軍でも名の知れた『帝国鉄騎兵団ていこくてっきへいだん』。


 気が付けば、帝国軍の兵士達の猛攻を前にして、

 連合軍の兵士達が次々と急所に斬撃を喰らい、断末魔を上げていく。


「ぎ、ぎゃあああ……あああぁっ!!」


「――貴様等なんぞ物の数ではないわぁっ!!」


 漆黒の甲冑を纏った重装歩兵や重装騎兵達は、

 戦斧や長槍、フレイル、メイスなどの武器を駆使して、

 眼前の敵を次々と倒していく。


「公子殿下、旗色が悪いですワン!

 このままだと味方前衛部隊がやられるのは時間の問題です」


 チワワの副官エーデルバインがそう上申する。


「うむ、確かにこのままではやられるのは時間の問題だワン。

 仕方ない、ここはまた戦乙女ヴァルキュリア殿の力を借りよう」


「はい、それが妥当と思います」


 そう言葉を交わして、

 シャーバット公子は『耳錠の魔道具(イヤリング・デバイス)』でリーファに指示を出す。


戦乙女ヴァルキュリア殿、聞こえているかい?』


『……公子殿下、聞こえていますわ』


『悪いがまた前線に出て、敵部隊を倒して欲しいだワン。

 敵は重装歩兵に重装騎兵、魔法攻撃で倒してくれだワン。

 但し火炎属性魔法は控えて欲しい。

 周囲が炎で燃えたら、進軍する事もままならいワン』


『了解しました』


 そう交信を終えると、リーファは表情を引き締める。

 そして周囲の仲間に凜とした声で告げた。


「今から前線に出て、敵の前衛部隊と戦うわよ。

 但し火炎属性魔法は厳禁、それ以外の属性で攻撃するわよ」


「了解です」「了解だワン」


「お嬢様、一言宜しいでしょうか?」


「アストロス、何かしら?」


「……お嬢様は魔法攻撃に専念してください。

 もし敵の大将格たいしょうかくが出てきたら、私が闘います!」


 そう言うアストロスの表情は真剣そのものだ。


「……貴方に任せて大丈夫なの?」


「お嬢様、私を見くびらないでください。

 私はお嬢様の執事兼盟友であります。

 大将格たいしょうかくの一人や二人、この手で倒して見せますよ」


「……分かったわ、では貴方に任せるわ」


「ええ、お任せください」


 話合いが終わり、リーファも真剣な表情を浮かべた。

 そして周囲の盟友、仲間に高らかに宣言する。


「今から最前線に行くわよ!

 私とエイシルの攻撃魔法で敵を撃滅するから、

 打ち漏らした敵の掃討をお願いするわ!」


 リーファの声に周囲の者達も「おお」と声を上げて呼応する。

 そしてリーファは微笑を浮かべながら、

 白馬を走らせて、丘の上へと向かった。



次回の更新は2023年4月30日(日)の予定です。


ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、

お気に召したらポチっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

宜しければこちらの作品も読んでください!

黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れさまです。 ついにアストロスに出番が。 前衛にいるレネオス・カルミナーとの戦いになりそうですが... 地元に帰らなくても土に還っちゃうというに選択肢もあったのか... って、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ