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第五十七話 各個撃破(後編)


---三人称視点---


 

 突撃部隊であるリーファ達が味方に合流すると、

 総司令官のシャーバット公子は本陣に各部隊の司令官を集めた。

 リーファとその盟友、教会騎士団総長のチェンバレン。


 猫族ニャーマンの司令官ニャールマン。

 それと兎人ワーラビットのジュリアス将軍といった

 面々が床几しょうぎに腰掛けたシャーバット公子の

 周囲を囲むように、立ち尽くしていた。


「どうやらファルス丘陵地帯での戦闘は避けられないようだワン。

 我が軍の大半が獣人部隊、更には高低差もある。

 これは厳しい戦いになりそうワン」


 渋面で唸るシャーバット公子。


「ファルス丘陵地帯を迂回するのは無理なんでしょうか?」


「そうですね。 東の方には平野部があり、

 迂回する事自体は可能ですが、道らしい道がないので

 敵の魔導師部隊や砲兵隊に狙い撃ちされる可能性が高いです」


 ジュリアス将軍の問いにそう答えるチェンバレン総長。

 

「ならば丘陵地帯で戦うしかないニャン」


 と、司令官ニャールマン。

 周囲の者もそれを悟って、小さく相槌を打った。


「数の上では我が軍と敵軍は互角だワン。

 だからここは部隊を二手に分けて、

 本陣である第一軍は攻撃重視、

 第二軍は守備重視で戦おうと思うだワンが

 皆の意見の聞かせて欲しいワン」


「そうですね、この限定された戦場では

 あまり部隊を細かく分けない方がいいでしょう。

 なので私も二部隊編成には賛成です」


「自分もチェンバレン総長と同意見です」


 と、ジュリアス将軍。


「同じく同意見だニャン」


「うむ、では二部隊の編成を決めたいと思うワン。

 第一軍は私、ジュリアス将軍。

 第二軍はチェンバレン総長とニャーマン司令官。

 全軍を半数に分けた各部隊二万の兵を持って戦いを挑むワン」


「「了解しました」」「了解だニャン」


 この部隊編成に関しては妥当と言えた。

 だが主力になり得るリーファ達の名がなかった。

 それに気付いたジュリアス将軍が控えめにシャーバット公子に問うた。


「それはそうと戦乙女ヴァルキュリア殿とその盟友の方々は

 どちらの部隊に配置されるのでしょうか?」


「うむ、よく聞いてくれたワン。

 リーファ殿とその盟友は、基本的に第一軍に配置するが、

 戦況次第では第二軍、あるいはまた第一軍。

 といった感じで二部隊を行き来して、

 攻撃魔法で敵戦力を削って欲しいだワン。

 リスクはあるが、そこは耐えて欲しいワン。

 という訳だがリーファ殿の意見を聞かせて欲しい」


 リーファの火力を考えての采配であった。

 そしてリーファ自身もその采配の意味を理解していたので、

 この場はシャーバット公子の言葉に「はい」と頷き――


「私は公子殿下の指示に従います」


「うむ、そう言ってくれると助かるワン。

 よし、ならば善は急げだ。 今夜はラルクト平原に

 野営陣を敷いて休もう。 一応敵の奇襲には気をつけるだワン。

 明日からは厳しい戦いになるから、

 今夜だけでもゆっくり休むだワン」


「「「はい」」」「分かったニャン」


---------


 翌日の8月18日。

 ファルス丘陵地帯は標高が高く、高い山や丘が連なっていた。

 エレムダール連合軍は、ファルス丘陵地帯の近くまで行くと、

 作戦通りに部隊を二部隊に分けた。


 北へ続く街道の西側にシャーバット公子が率いる本隊の第一軍。

 東側にチェンバレン総長率いる第二軍に分かれて隊列を組んだ。

 このファルス丘陵地帯を超えたら、

 ファーランド領の都市ビルザイムがあり、

 その先に都市ドラグマ、そして王都エルシャンがある。


 それ故に帝国軍としても、

 このファルス丘陵地帯に防衛戦を敷いて、

 連合軍の侵攻を食い止めなくてはならなかった。


 連合軍は各部隊の指揮官や各部隊の主力級のリーダーに

 魔道具『携帯石版』や『耳錠の魔道具(イヤリング・デバイス)』を渡して意思の疎通を図った。


「連合軍第一軍、前進開始! 

 丘を駆け上がった後は、ゆっくり進むだワン!」


 シャーバット公子がそう言って指示を出した。

 第一軍には犬族ワンマン部隊、ジュリアス将軍率いる兎人ワーラビット部隊。

 それとリーファとその盟友、

 またヒューマンとエルフ族の冒険者及び傭兵部隊などが組み込まれている。


 前衛はヒューマンやエルフ族の戦士、騎士ナイトで固めて、

 中衛には弓兵アーチャー銃士ガンナーなどの狙撃部隊。

 魔法剣士やレンジャー、吟遊詩人バード宮廷詩人ミンストレルなどを配置。

 そして後衛魔導師職や僧侶プリーストなどの回復役ヒーラーを置いた正攻法な布陣を組んだ。


 第一軍は隊列を崩さず、丘の上を駆け上る。

 その最中に落とし穴や、山頂付近から丸太を転がすといった罠があったが、

 斥候役を務めたレンジャーや盗賊シーフが事前に罠を見抜き、

 魔導師部隊が火炎魔法で丸太を燃やして、事なきことを得た。


 すると今度は矢や砲弾が飛んできた。

 だが射程圏外であったので、殆ど命中する事はなかった。


「恐らく敵の威嚇攻撃だワン。

 慌てる事なく、射程圏内に入ったら、

 魔導師部隊が障壁バリアを張って、

 こちらも弓兵アーチャー銃士ガンナーで応戦するワン」


 シャーバット公子の指示によって、第一軍は平静さを保てた。

 対する帝国軍は、丘陵地帯の頂上に総司令官のラング将軍が本陣を置き、

 連合軍と同様に部隊を二部隊に分けて、連合軍の侵攻を食い止めようとする。


 高い山や丘が連なっている西側にレイ将軍が率いる本隊の第一軍。

 街道沿いの東側にタファレル将軍が率いる第二軍を置き、

 副隊長レネオス・カルミナーが率いる『帝国鉄騎兵団ていこくてっきへいだん』を加えた

 二万五千人を超す大軍で連合軍を迎え撃とうとしていた。


 この連合軍の第一軍と帝国軍の第二軍の戦いが

 この丘陵地帯での戦いの鍵を握っているといっても過言はなかった。

 それ故に両軍共に士気を高めて、戦いに挑んだ。


 街道に沿って前進する連合軍の第一軍。

 それに対して帝国軍の第二軍は弓矢や大砲の砲弾。

 そして魔導師部隊による魔法攻撃で相手の前進を阻もうとした。


 だがシャーバット公子は、随所随所で的確な指示を出して、

 障壁バリアや対魔結界を駆使して、

 敵の攻撃を防ぎながら、丘を目指して街道を突き進む。


「公子殿下! 敵の攻撃が強まってきましたワン」


 チワワの副官エーデルバインがそう告げる。

 するとシャーバット公子は胸の前で両腕を組みながら――


「うむ、そろそろ敵との距離が狭まってきたワン。

 ならば先の戦いのように、リーファ殿を中心とした突撃隊を編成する。

 リーファ殿、魔力が尽きない範囲で魔法攻撃を頼むだワン」


「了解ですわ、公子殿下」


 そして一千人に及ぶ突撃隊を編成して、

 リーファを先頭にして、突撃部隊が前進する。

 数は一千人だが、精鋭揃いの突撃部隊は獅子奮迅の働きをした。


 リーファとエイシルは飛行魔法『フライ』で空に上昇して、

 そこからリーファは攻撃魔法のスターライト、ライトニングバスター。

 エイシルはこの丘陵地帯で木々が燃えたら、

 進軍もままならなくなるので、トルネードを中心に、

 炎属性を除いた魔法攻撃で前方の敵に集中砲火を浴びせた。


 最初のうちは守護聖獣も召喚せず、

 リーファは職業能力ジョブ・アビリティ『能力覚醒』と『魔力覚醒』も

 使わず、素の能力でひたすら攻撃魔法を放った。


 だが素の能力でもリーファの魔法攻撃は一級品であった。

 気が付けば、次々と敵兵を撃破していき、

 敵の矢や銃弾、砲弾は『フライ』で空中内を自由に駆け回り、回避する。


 そして時折、地面に着地してアストロスや魔法剣士から魔力を受け取る。

 そこからまた『フライ』で空中に浮遊して、

 魔力が尽きるまで魔法攻撃を浴びせ続けた。


 それによって敵の第二軍は大きな損害を受けた。

 それと同時に連合軍の第一軍は速い足取りで進軍。

 そこでリーファ達『突撃部隊』は東進して、

 連合軍の第二軍に合流。


 そこから先は同じ要領で魔法攻撃を敵部隊に浴びせた。

 十時間に及ぶ戦闘が続いて、

 連合軍もそれ相応の被害が出たが、

 帝国軍の被害は連合軍の倍以上の数字であった。


「ふう、かなり疲れるわね」


「無理もないですよ、リーファさんはずっと魔力を消費してますし、

 このままだと精神疲労で倒れちゃいますよ」


 と、エイシル。


「そうね、シャーバット公子殿下に、

 少し休ませてもらうように進言してみるわ」


「それが良いと思うよ」


 と、ジェイン。

 その後、リーファはシャーバット公子に休養を求めた。

 それに対してシャーバット公子は――


「うむ、では君達には八時間の睡眠時間を与えるワン。

 ゆっくりと休んで、次の戦いに備えてくれたまえ!」


「……はい」


 そしてリーファ達は、この丘陵地帯の街道沿いに、

 人数分のテントを立てて、軽い食事を摂って八時間ばかり眠りに就いた。

 こうしてファルス丘陵地帯の戦いの初日が終わった。



次回の更新は2023年4月29日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 帝国鉄騎兵団←この字面の格好良さよ! 敵なんですけど、なんだろ……強さの真髄を見せてくれ!とも思ってしまいました^^;
2023/04/26 12:48 退会済み
管理
[一言] 更新お疲れさまです。 休みが8時間とは...リーファも少し納得していないような返事を。 戦乙女として利用されている感じが出てきてしまっている... これは、裏切り展開あるぞ... リーフ…
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