第五十六話 各個撃破(中編)
---主人公視点---
……、前方に敵の姿が見えるわ。
見た感じ数百、いえ数千人以上は居そうね。
でもその方が好都合よ。
ここから攻撃魔法を放って、
敵の殿部隊に大打撃を与えてみせるわ。
「――『魔力覚醒』っ!!」
私は職業能力『魔力覚醒』を発動。
私の魔力と攻撃魔力が一気に倍増して、
私の周囲が目映い光で覆われる。
「はあああぁっ!! 『能力覚醒』っ!!」
私は今度は職業能力・『能力覚醒』を発動させた。
それによって五分という時間限定だけど、
私の能力値が強化された。
だけど『魔力覚醒』と『能力覚醒』の発動時間は五分間のみ。
だからこの五分間で一気に敵を叩き潰してみせるわ!!
「ランディ、行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解だ、リンク・スタートォッ!!」
そして私とランディの魔力が混ざり合い、
私の能力値と魔力が更に跳ね上がった。
この力ならこの距離からでも敵を倒せるわ。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『シャイニング・ティアラ』ッ!!」
私は両手に魔力を集中させて、大声で砲声する。
次の瞬間、私の両掌から眩く輝いた光炎が放出された。
聖人級の光と炎の合成魔法。
更にソウル・リンクで威力が強化された渾身の一撃。
その光炎が激しく渦巻いて、
700メーレル(約700メートル)先の地面に着弾。
すると「どごおおおおん」という爆音と爆風と共に、
大地震でも起きたかのように、大地が激しく振動する。
「……ランディ、今のでどれくらい倒せたかしら?」
「消えた魔力反応は……200、300人といったところだな。
どうやら敵も咄嗟に対魔結界を張ったようだ」
「そう、でも一撃で200、300人倒せたら上出来だわ。
良し、ならばここでダメ押しの一撃を放つわ!」
そして私は左手を頭上にかざして、再び呪文を唱える。
「我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンよ! 我は大地に祈りを捧げる。 母なる大地よ、我が願いを叶えたまえ!」
私がそう呪文を紡ぐと、左掌の上に強力な魔力を帯びた緋色の炎が生じた。
そこから私は全身から魔力を放ちながら、呪文を更に唱えた。
「そして天の覇者、炎帝よ! 我が身を炎帝に捧ぐ! 偉大なる炎帝よ。 我に力を与えたまえ!」
次の瞬間、私は左腕を力強く引き絞った。
攻撃する座標地点は、先ほど合成魔法を放った地点に狙いを定める。
そして私は右手で素早く印を結んで、声高らかに叫んだ。
「炎よ、敵を焼き尽したまえっ! ――炎殺っ!!」
次の瞬間、私の左手から緋色の炎が連続して発射される。
半瞬程、間を置いてから、先ほどと同じ地点に着弾する。
神帝級の炎属性の攻撃魔法。
更には先程の合成魔法で炎属性と光属性が交わった状態で、
緋色の炎が加わり、魔力反応「核熱」が更に強まった。
ごおおおん、という轟音を轟かせながら、
放たれた緋色の炎が敵集団を呑み込んだ。
一瞬、球形に膨れ上がった炎が、たちまち激しい爆発を引き起こす。
だが私は手を休めるどころか、更に両手から炎の塊を連射する。
「燃え尽きろぉっ――――!!』
次々と新しい炎の塊が前方の敵集団に襲い掛かる。
その度にドオオオン、という爆音と爆風が鳴り響く。
炎殺という名の通りまさしく炎で殺す攻撃魔法。
高い火柱が起こり、敵集団は緋色の炎の餌食となった。
「ハア、ハア、ハアァッ……」
だが気が付けば私は肩で息をしていた。
強烈な魔法にはそれ相応の魔力が伴う。
たった数発だけど、聖王級の合成魔法と神帝級の攻撃魔法。
このクラスの魔法をを連射すると、
戦乙女でもこんなに魔力を消耗するのね。
……今後は気をつける事にするわ。
と私がそう思っていると――
「お嬢様、私の魔力をお使いください。 『魔力パサー』っ!!」
「!?」
絶妙のタイミングね。
流石はアストロス、やることに無駄がないわ。
そして私はアストロスから魔力を受け取った。
「……とりあえず呼吸は整ったわ。
でもこの後、攻撃するのは厳しそうね」
「ならば後はボク達に任せてください。
ボクらもリーファさんの盟友ですから!」
「ウン、お姉ちゃんは少し休んでてよ!」
「そうね、ここは貴方達に任せるわ」
流石にこの状態で魔法の連発はきついわ。
だからこの場はエイシルとジェインに任せましょう。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『トルネード』!!」
エイシルが呪文を詠唱すると、前方の敵の周辺の大気が激しく揺れた。
そして風が生まれ、砂がうねり、竜巻状に激しく嵐のように渦巻いた。
生み出された砂嵐は前方の敵を乱暴に包み込み、暴力的に渦巻く。
確か「トルネード」は聖王級の土と風の合成魔法。
このような平原では非常に効果的な魔法の一つよ。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『サイキック・ウェーブ』!!」
後に続かんと、ジェインも魔法攻撃を仕掛ける。
するとジェインの両手の平から念動波が放出される。
だが次の瞬間、エイシルの起こした砂嵐はあっさりと吹き散らされた。
恐らく敵の魔導師が上級以上の風魔法を使い、
エイシルの砂嵐をレジストしたのでしょう。
上級以上の風魔法は強烈な風を生み出し、
水魔法や土魔法で引き起こした現象を消し飛ばせる事が可能よ。
このように魔法で魔法を防ぐ事をレジストと呼ぶわ。
「ランディ、敵の被害状況は分かるかしら?」
「……今、探索するよ」
「早い目にお願い!」
「……おおよそだがリーファ殿の攻撃と合わせて、
敵軍の一千人以上の戦死者、負傷者が出たようだ。
だが敵も魔力を高めている、深追いは禁物だ」
と、ランディ。
「そうね、とりあえず現時点ではこれぐらいで満足しておくべきだわ」
「……自分も同感です。 ただ敵を楽に撤退させる必要もありません。
ですのでこの距離から遠隔魔法攻撃を仕掛けて、
一人でも多くの敵を倒すべきでしょう」
と、チェンバレン総長がこちらを見て言った。
総長の言う事も一理あるわ。
そうね、ここは安全圏から魔法攻撃を仕掛けるとしましょうか。
「……では敵との距離を700メーレル程、保って攻撃魔法。
そして敵が攻撃魔法を放ってきたら、レジストか、
対魔結界で防ぎましょう」
「はいっ!!」
こうして更に魔法攻撃による追撃戦が始まった。
私達は馬に乗って、敵の殿部隊に魔法攻撃を仕掛けた。
だが敵もレジストや対魔結界を駆使して、
こちらの追撃を防ぎ、更に大量のゴーレムを召喚して丘陵地帯まで撤退した。
私達はとりあえず眼前のゴーレムを魔法攻撃で各個撃破していったが、
気が付けば空が黄昏色に染まりつつあった。
「……そろそろ日が暮れるわね。
これ以上の追撃は危険だわ」
「そうですな、ここは一旦引きましょう。
そして味方部隊と合流して、
シャーバット公子殿下の指示を仰ぎましょう」
と、チェンバレン総長。
「ええ、そうしましょう」
とりあえずここは一旦出直すべきね。
でも一千人以上の敵兵を倒せたのだから、
悪くはない展開だわ。
とはいえ次からは敵も対策してくるでしょう。
だからこちらも作戦を練り直す必要があるわね。
私はそう思いながら、味方部隊と合流すべく白馬を走らせた。
次回の更新は2023年4月26日(水)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。