第五十四話 懸軍万里(後編)
---三人称視点---
「ヴォーパル・スラストッ!!」
「ヴォーパル・ドライバーッ!!」
「ブーメラン・トマホークだワンッ!!」
迫り来る魔物、魔獣に対して、
チェンバレン総長、アストロス、ジェインが迎え撃つ。
だが敵の魔獣ガルムが味方をくぐり抜けて、
中衛に陣取るエイシル目がけて襲いかかった。
「き、きゃあっ!?」
「――させないわ! ローリング・ソバットォォォッ!!」
エイシルを救うべく、
リーファがガルムの首目がけて、ローリング・ソバットを放つ。
「ギ、ギャインッ!」
リーファのローリング・ソバットがガルムの首を蹴り抜き、
次の瞬間、ガルムの首がとんでもない方向へ曲がる。
「エイシル、大丈夫?」
「リーファさん、大丈夫です!」
「なら良かったわ、エイシル。 貴方は中衛から攻撃魔法で応戦して!」
「はいっ!」
「お姉ちゃん、前から熊が来るよ!!」
「えっ!?」
ジェインに言われて、リーファは視線を前方に向ける。
するとそこには首に漆黒の首輪がはめられた大熊の姿があった。
「アレは魔物や魔獣を調教する魔道具『テイム・チョーカー』です」
と、エイシル。
「『テイム・チョーカー』ね。 つまりあの大熊は敵の操り人形ならぬ、
操り熊という訳なのね」
「……お嬢様、どうなさいますか?」
と、アストロス。
急な展開に周囲の仲間達も色めきだつ。
だがリーファは冷静を保ちながら、守護聖獣を召喚する。
「――我が守護聖獣ランディよ。 我の元に顕現せよっ!!」
彼女がそう呪文を紡ぐと、
ポンという音を立てて、守護聖獣ランディが現れた。
「――ランディ! あの大熊の分析を頼むわ!」
「了解した。 ――分析開始!」
するとランディの両眼が眩く光り、その身体も目映く輝きだした。
「とりあえず私とチェンバレン総長とアストロスは前衛に!
ジェインとエイシルは中衛待機して、魔法攻撃で応戦して!」
「了解した!」「「はい!」」「わかったワン!」
「リーファ殿。 あの熊の名前はブルーティッシュ・ベア。
なかなか強いぞ。 だが知力は低く、対魔法防御力も低い。
だから前衛が奴を食い止めて、魔法攻撃で攻めるが良い!」
ランディは分析を終えるなり、そう告げた。。
そしてリーファとランディの意識が共有化されて、
眼前の大熊の能力値の数値が露わになった。
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名前:ブルーティッシュ・ベア
種族:魔獣♂
ランク&レベル:Aランク、36
能力値
力 :1364/10000
耐久力 :1732/10000
器用さ :373/10000
敏捷 :1881/10000
知力 :223/10000
魔力 :167/10000
攻撃魔力:31/10000
回復魔力:27/10000
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力と耐久力、敏捷の能力値はかなり高いが、
それ以外の能力値はさほど高くない。
ここは接近戦より中距離、遠距離で遠隔攻撃するのが妥当だ。
リーファは瞬時でそれを悟った。
「周囲の弓兵、狙撃手の皆さん!
あの大熊を矢や銃弾で狙い撃って!
ある程度弱体させたら、後は私達が何とかするわ」
「了解です!」
返事をするなり、周囲のヒューマンやエルフ族の弓兵達が
宙に飛んで木の枝に乗り、身体を捻って鉄の矢を放つ。
鉄の矢は綺麗な軌道を描いて、眼前の大熊に命中。
「ガ、ガアアアアァ……アァァァッ!!」
大熊の群れは体中の至る所に矢を生やしながら、悲鳴を上げる。
だが止めを刺すまでには至らない。
大熊の群れは怒りで我を忘れて、前衛のリーファ達に襲いかかる。
「下がるぞ、リーファ殿」
「チェンバレン総長、了解です」
「皆さん、ここはボクに任せてください!
――我が守護聖獣フェーレよ。 我の元に顕現せよっ!!」
エイシルがそう言って自身の守護聖獣を召喚する。
するとポンという音が鳴って、彼女の守護聖獣が現れた。
その守護聖獣は、体長40セレチ(約40センチ)くらいのアルビノのフェレットであった。
そして実体化するなり、
アルビノのフェレットがエイシルの左肩に飛び乗った。
「フェーレ、ソウル・リンクするわよ!
はああァ……あああぁっ!『ソウル・リンク』ッ!」
「了解だよん、リンク・スタートォッ!!」
そしてエイシルとその守護聖獣の魔力が混ざり合い、
エイシルの能力値と魔力が急激に跳ね上がる。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『ワールウインド』!!」
エイシルは素早く呪文を紡ぎ、左手から中級風魔法を放った。
放たれた旋風が、ブルーティッシュ・ベアの身体に絡みつく。
「――ウインド・カッタ-」
今度は短縮詠唱で初級風邪魔法を唱えた。
風の刃が大気を裂いて、大熊の眉間に命中する。
「ギ、ギアアアァ……アァァァッ!!」
熊の弱点である眉間の狙い撃ちに成功。
すると大熊は眉間から多量の血を噴出して、背中から地面に倒れ込んだ。
同じ要領でエイシルが大熊を二体、三体と倒す。
それによって周囲の仲間も落ち着きを取り戻す。
そして今度はジェインが守護聖獣を召喚する。
「オイラもやるだワンッ!
――我が守護聖獣カーシンよ。 我の元に顕現せよっ!!」
ジェインがそう叫んで、守護聖獣を召喚する。
するとポンという音と共に、ジェインの守護聖獣が現れた。
ジェインの守護聖獣は、体長60セレチ(約60センチ)くらいの
全身に長い緑色の毛を生やして、
丸まった長い尾を持つ犬の姿の妖精カーシーであった。
カーシーは実体化するなり、
ジェインの頭上でふわふわと宙に浮いて、主の言葉を待つ。
「カーくん、ソウル・リンクするワン!
行くワン! 『ソウル・リンク』ッ!」
「了解だワン、リンク・スタートォッ!!」
そしてエイシルと守護聖獣カーシンの魔力が混ざり合う。
その結果、ジェインの能力値と魔力が急激に上昇する。
するとジェインは片手で綺麗な印を結んだ。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 行くワンッ!! 『サイキック・ウェーブ』」
ジェインが放った強力な念動波が命中するなり、
大熊は両眼と両耳から血を吹き出して、
もんどり打って、背中から地面に倒れ込んだ。
これで残された大熊は二匹。
こうなると周囲の者達も俄然やる気を出して、
木々の枝や木の陰に隠れた弓兵や銃士が
矢や銃弾を大熊に夕立のような集中砲火を浴びせた。
「ガ、ガ、ガアアアアァ…」
最後の一匹が低いうなり声を上げて、地面に倒れ込んだ。
「よし、残すは雑魚のみだ!
前衛部隊、前進せよ! 中衛部隊は魔法で支援せよ!」
チェンバレン総長の声に周囲の者達も「はい!」と大きな声で返事する。
そこからはチェンバレン総長率いる教会騎士団や
リーファとその盟友も獅子奮迅の働きで、
周囲の獣、魔物、魔獣を次々と撃破していく。
そして連合軍の左翼、右翼部隊も同様の戦術で、
敵を各個撃破していき、勢いに乗ったまま北上する。
だが左翼の猫族部隊が森の中で
猫族の大好物である魔タタビを見つけるなり、異変が起きた。
「ウニャニャ……タビだニャン!」
「ニャハハハッ! こいつは効くニャン!」
「ニャオーン!! 最高にハイだニャン!」
何と一部の兵士達が戦場で魔タタビパーティーを始めたのである。
これには司令官ニャールマンも激怒したが、
魔タタビでトランスした猫族達は、
戦場における恐怖心を失い、トランス状態で敵と交戦する。
その結果、勢いに乗った左翼の猫族部隊が
帝国軍の右翼部隊である総督府の帝国軍を圧倒した。
それに負けじと中央、右翼部隊も果敢に敵を攻め立てた。
十数時間を超える大激戦が繰り広げられて、
帝国軍の左翼、中央、右翼部隊は後退を余儀なくされた。
その後、連合軍は大森林地帯で野営陣を敷いた。
見張り役を立てて、全軍で六、七時間の睡眠を取り、
朝食もきちんと摂って、体調を万全にする。
対する帝国軍は、魔導師にゴーレムを召喚させて、
前線に放り込んで、北上してラルクト平原まで撤退する。
そこで帝国軍も野営陣を敷いて、休息を図るが
既に全軍の士気は低下気味であった。
だが総司令官ラング将軍はその状態で兵士達を戦わせた。
ゴーレム部隊を前衛に押し出し、
戦士や騎士が防御役を務め、
中衛にレンジャーや弓兵や魔導師を配置して、
反撃を試みるが、血気盛んな連合軍はゴーレムや帝国兵を
次々と撃破していき、大森林地帯の出入り口付近まで接近する。
「くっ、仕方あるまい。 こうなったら全軍を撤退させて、
ラルクト平原で敵を迎え撃ち、丘陵地帯まで誘い込むぞ!」
ラングは周囲の部下達にそう命じて、全軍を撤退させた。
こうして後に「バルラモッタの戦い」と呼称されるこの戦いでは
連合軍が死傷者2678人、帝国軍が5813人という結果に終わり、
帝国軍が突然撤退したことにより、連合軍の局地的な勝利となった。
だがこの勝利はあくまで局地的なもの。
そして連合軍は大森林を抜けて、ラルクト平原に到達。
帝国領のファーランド領ラルクト平原。
その平原地帯で連合軍と帝国軍の新たな戦いが始まろうとしていた。
次回の更新は2023年4月22日(土)の予定です。
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