第五十三話 懸軍万里(中編)
---三人称視点---
ファーランド領の南部に広がるバルラモッタ大森林地帯。
その鬱蒼とした大森林で連合軍と帝国軍の戦いが広げられていた。
広い森林地帯には野生の獣や魔物、魔獣が徘徊しており、
敵軍だけでなく、それらの獣や、魔物、魔獣の対応にも追われた。
だが森という戦場は獣人の領域であった。
まず連合軍は獣人部隊の弓兵や銃士に、
ジャンプ力が大幅に上がる魔道具『フェザー・ブーツ』を装備させて、
森林内の木の枝に登り、敵の死角をついて狙撃を行った。
「くっ、見えない所からの射手が狙い撃ちしてやがる!」
「気をつけろ、矢に毒が塗られている……ぐはぁっ!?」
「トーマスッ!!」
兎人の射手が放った矢が前方の帝国兵に命中。
鏃の先端に毒蛇の猛毒が塗られており、
矢の攻撃に加えて、毒という追加効果で敵兵を残酷に仕留めていく。
獣人の中でも一際小柄である兎人だが、
森という環境、戦場においては彼等の小柄さが有利に働いた。
弓と矢は獣人サイズであったが、
闘気と猛毒のコンボで敵兵を確実に減らしていく。
「皆、とにかく撃っては逃げる、ヒット&アウェイを繰り返すんだ」
「了解です」
右翼部隊の指揮を任されたジュリアス将軍は、
周囲の仲間と念話で意思の疎通が取れる魔道具。
『耳錠の魔道具』を装備して、
各部隊のエース級の射手、狙撃手にも
同様に『耳錠の魔道具』を装備させて、
スムーズな意思疎通によって、この大森林内でも的確な指示を出した。
「あああぁっ……身体が……痺れるぅっ」
「だ、大丈夫か!? 鏃に毒が塗られているな。
回復役、治療魔法を……うがぁっ!?」
敵の一人を撃って、他の敵を引き寄せる友釣り。
標的をあえて殺さず、負傷させる事で、敵の仲間をおびき出す。
そして助けにきた敵兵を更に狙い撃つ。
やや残忍だが効果的な戦術である。
とはいえ兎人は接近されたら弱い。
だからヒューマンやエルフ族の傭兵及び冒険者部隊の
戦士やレンジャーが彼等を護るべく、
木々や茂みに隠れて、敵の前衛部隊を奇襲する。
その戦術が見事に嵌まり、戦いの流れは連合軍に傾く。
そして兎人の活躍に犬族も猫族も触発された。
左翼陣の猫族、そしてリーファ達が居る中央陣に
本陣から派遣されたドーベルマン部隊、
シェパード部隊が対抗心を見せて、それぞれの役割を演じる。
左翼の猫族部隊も兎人同様に、
司令官ニャールマンの指揮の下、選抜された射手、狙撃手部隊が
矢や銃弾を放ち、敵の右翼陣を攻め立てる。
そして中央陣まで駆け上がったドーベルマン部隊、
シェパード部隊が想像以上の活躍を見せた。
シェパード部隊が斥候役を務めて、
敵の位置を正確に把握して、
それを『耳錠の魔道具』で味方部隊に伝える。
シェパード部隊はそこから罠を仕掛ける。
そして品種改良されたドーベルマン部隊が優れた嗅覚によって、
森林地帯の各地に隠れた敵部隊の位置を探り当てて、襲いかかった。
「ああっ……何だ! 此奴、狼かぁっ!?」
「ち、違う! 其奴らは多分ドーベルマンだぁっ!!」
「ど、ドーベルマン! ま、マジかよ……ぐああぁぁぁっ!」
「ガルラァァァッ!」
雄叫びを上げて、敵兵に襲いかかるドーベルマン部隊。
彼等は二足歩行を止めて、獣のように四足歩行して、
従来の身体能力を生かして、敵の頸部に噛みついた。
「あああァっ……あああぁぁぁっ!?」
堪らず悲鳴を上げる帝国兵。
獣に襲われるような恐怖心から、動揺する帝国軍。
原始的な戦いは、敵に大きな精神的ダメージを与えた。
だが相手は帝国軍。
状況を打開すべく、敵の右翼部隊の指揮官レイ将軍が
前衛に戦士や騎士などの防御役を配置。
そして中衛にレンジャーや魔法剣士、弓兵を配置する。
前衛でドーベルマン部隊を食い止めて、
中衛のレンジャーや弓兵が弓矢で敵を狙い撃つ。
という単純だが、効果的な戦術で攻めようとするが――
「――トマホークッ!!」
「――ハイパートマホークッ!!」
「ぎ、ぎゃあああぁっ!!」
「き、気をつけろ! 敵部隊がこちらを狙ってるぞ!!」
木々や茂みに隠れたシェパード部隊のレンジャー達が
利き腕に持った手斧を敵目がけて投擲する。
これによって帝国軍の反撃を食い止める。
「――よし、敵が怯んでいる今が好機だ!
我々も前線に出て、敵を倒すぞっ!!」
「「「「はいっ!!」」」」
教会騎士団の総長イルゾーク・チェンバレンがそう叫ぶなり、
教会騎士達、そしてリーファとその盟友も果敢に前へ出る。
アストロスやジェイン、エイシルは、
先日仕立てた冒険者用の高級仕立服を身につけていた。
「――ダブル・スラストッ!!」
「――イーグル・ストライクッ!!」
「ヴォーパル・ドライバーッ!!」
「クロス・スマッシュだワンッ!」
チェンバレン、リーファ、アストロス、ジェイン達が
技を駆使して、敵兵を切り捨てていく。
ドーベルマン部隊が敵に襲いかかり、シェパード部隊が奇襲する。
そして敵が怯んだ所で、ヒューマンとエルフ族の部隊が前線に出る。
この大森林の至るところで同じ光景が繰り広げられる。
「くっ、このままでは我が軍が不利だ。
とはいえドーベルマン相手に戦うのも厳しい。
ならばこちらも同様に獣、魔物、魔獣を使うべきだ。
前線の部隊に告げよ。 魔物調教師は、
この森に居る獣や魔物、魔物を調教して、
魔道具『テイム・チョーカー』を装備させて、前線に放り込むのだ!」
「了解です!!」
帝国総督府のレイ将軍が的確な指示を出す。
そしてその命令と同時に帝国軍の魔物調教師達が
この森林地帯の獣を調教して、
魔道具『テイム・チョーカー』を首に嵌める。
『テイム・チョーカー』は魔物調教師が強制的に、
魔物や魔獣を従わせる時に使う魔道具である。
この首輪を首に嵌めたら、獣や魔物、魔獣を即座に調教する事が可能になる。
調教された獣、魔物、魔獣は、
この首輪を外されない限り、死ぬまで主の命令に従う。
「伝令兵を出して、左翼陣のタファレル将軍。
中央のカルミナー副隊長にも同様の戦術を使うように伝えよ!」
「ははっ!」
レイ将軍がそう言うなり、伝令兵が駿馬を走らせた。
左翼の指揮官タファレル将軍は、レイ将軍の指示に素直に従ったが、
『帝国鉄騎兵団』の副隊長レネオス・カルミナーは、
は『我々は小細工は弄さない!』と言って、レイ将軍の指示を拒否した。
「チッ、頭の固い連中だ。
だが仕方あるまい、両翼部隊だけでもいい。
目には目を、歯には歯を、獣には獣だ。
次々と調教して、どんどん前線に放り込めっ!!」
そして帝国軍の魔物調教師達が、
次々と獣、魔物、魔獣を調教して、前線に投入。
それに対して連合軍は真正面から迎え撃った。
そしてこの大森林地帯で、
更に血生臭い戦闘が繰り広げられるのであった。
次回の更新は2023年4月19日(水)の予定です。
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