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第五十二話 懸軍万里(前編)


---三人称視点---



 聖歴せいれき1755年8月16日。

 連合軍はまず都市ロスジャイトにラミネス王太子が率いる

 アスカンテレス王国軍、教会軍の一部。

 そしてエストラーダ王国のエルフ騎士団を加えた総勢三万人の

 第一軍を配置した。


 それに対して帝国軍は、

 ハーン将軍率いるブラックフォース騎士団ナイツ

 そしてその後方で陣取るシュバルツ元帥が竜人族の部隊――総勢二万五千人の

 兵力を有しながら、とりあえずは相手の様子を伺った。


 対するラミネス王太子も作戦通りに自陣に引き籠もった。

 自分の役割はあくまで囮役。

 それを実践すべく、自分からは殆ど攻撃を仕掛けず、

 ひたすら相手の出方を伺うが、シュバルツ元帥も同様に動かなかった。


「元帥閣下、このままで宜しいのでしょうか?」


 シュバルツの副官である中年の男性竜人エマーンがそう問う。

 するとシュバルツ元帥は、

 本陣の床几しょうぎに腰掛けながら、微笑を浮かべた。


「エマーン、分からぬのか?

 恐らく前方の敵部隊は囮役だ」


「……確かに消極的ですよね」


「嗚呼、敵も馬鹿じゃない。

 ロスジャイトから東進して、我が帝国領に攻め込むと

 被害も馬鹿にならないからな。

 敵の真の狙いはジェルバ方面から、

 旧ファーランド領に攻め込むつもりだろう」


「何故そう思われるのでしょうか?」


「俺が敵ならそうする、そして皇帝陛下も俺と同じ考えだ。

 だからこの戦いにおいては、俺は当て馬に過ぎん」


「成る程、だから我が軍もジェルバ方面やファーランド領に

 兵力を固めた、という事ですか?」


「そういう事だ」


 すると副官エマーンは左手の指を顎に当てながら――


「元帥閣下は不服じゃないのですか?」


 と、尤もな疑問を投げかける。

 だがそれに対してシュバルツは冷めた感じで答えた。


「無論、不服さ。 だが俺は皇帝陛下のご命令に従うまでさ。

 それにこの役をあのラングに出来ると思うか?」


「嗚呼、成る程。 そういう事ですか?」


「嗚呼、そういう事だ。

 まあラングはああ見えてそれなりの指揮官だし、

 単純な戦闘力では、俺より強いかもしれない。

 だから本命であるファーランド領の防衛は奴が務めるべきだろう」


「成る程、皇帝陛下はそこまでお見越しになられてたのですね」


「嗚呼、だから俺達は気長に敵を引きつけて、

 自分達の役割を果たそうではないか」


「そうですね」


 こうしてロスジャイト方面の戦いは早くも膠着状態に入った。

 一方、ジェルバ、ファーランド方面の戦いは、

 五千人以上の冒険者及び傭兵部隊で構成された

 オルセニア将軍率いる第二軍がジェルバとペリゾンテ王国の

 国境付近のユリス川付近で野営陣を敷いた。


 それに対してペリゾンテ王国も王国軍三千人を

 ユリス川付近まで西進させたが、

 攻撃を仕掛けることなく、相手の出方を伺う。


 オルセニア将軍個人としては、

 戦いたかったが、この場は自身の感情より任務を優先させて、

 第二軍はユリス川を挟んで、

 ペリゾンテ王国軍と睨み合いを続けた。

 だが両軍動く事なく、戦闘が始まる気配はなかった。


 その間にこの作戦の主力部隊にあたるファーランド侵攻部隊は、

 総司令官シャーバット公子と副司令官ジュリアス将軍の指揮の下、

 左翼に司令官ニャールマン率いる猫族ニャーマンを中心とした部隊を配置。


 中央にチェンバレン総長率いるサーラ教会騎士団。

 リーファとその盟友。

 そしてヒューマンとエルフ族が主体の第三軍を配置。


 右翼に副司令官ジュリアス将軍率いる兎人ワーラビットを中心とした

 部隊を配置して、中央陣の後ろにシャーバット公子率いる本陣を置いた。

 左翼、中央、右翼の三方面に味方の主力部隊を配置して、

 ジェルバの国境線を越えて、ファーランド領に侵攻を開始。


 それを迎え撃つ帝国軍の総司令官は、ヴィクトール・ラング将軍。

 ラングはファーランドの王都エルシャインに本陣を置いて、

 今回彼の傘下に加わったタファレル将軍を左翼部隊を、

 ファーランド帝国総統府のミカエル・レイ将軍に右翼部隊を任せた。


 その中央に自身の騎士団である『帝国鉄騎兵団ていこくてっきへいだん』を

 副隊長であるレネオス・カルミナーに鉄騎兵団を率いさせて、

 ジェルバとファーランドの国境付近にあるバルラモッタ大森林地帯で

 連合軍を迎え撃つように総勢四万五千人を超える全軍に指令を下した。


 ジェルバからファーランド領へ進むには、

 このバルラモッタ大森林地帯を越えるのが一番の近道だ。

 また広い森林地帯では、小柄な獣人達が戦いやすい。

 それ故に連合軍の総指揮官シャーバット公子も

 侵攻部隊を北上させて、バルラモッタ大森林地帯に侵入。


 聖歴せいれき1755年8月17日。

 この大森林地帯で両軍合わせて、十万近い兵力が激突しようとしていた。

 そしてこの緑に覆われた森林地帯は、

 連合軍と帝国軍による苛烈な戦闘によって、

 赤い血で彩られる事となるであろう。

 

「この戦いに勝つか、どうかで今回の侵攻作戦が成功するかが

 かかっている。 だが森の戦いでは我等、獣人に分がある筈だ」


 本陣の中央部で胸の前で両腕を組むシャーバット公子。

 するとチワワの副官エーデルバインが相槌を打つ。


「そうですね、我等、犬族ワンマンのドーベルマン部隊、

 シェパード部隊の活躍に期待したいですね」


「うむ、彼等は我等、犬族ワンマンの精鋭部隊だワン。

 更には品種改良も加えた強化種。

 きっと我々の期待に応えてくれるだろう」


「ええ、私もそう願ってますワン」


 そしてバルラモッタ大森林地帯で戦闘が開始された。

 


次回の更新は2023年4月16日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ドーベルマン部隊シェパード部隊! りりしいワンコが大活躍ですね! こういうところも、キラリとセンスが光っていると思います。 重たくなりすぎず、可愛い(*^^*)
[一言] 更新お疲れ様です。 再度、戦場に現れるタファレル。あの禿頭を見たら逃げろ! そう、言い伝えられている最強のハゲ。 サイタマンもタファレルの影響を受けてハゲたとかハゲてないとか。
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