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第五十一話 蠢く三勢力(後編)


---三人称視点---



 旧帝国領の都市ロスジャイト。

 その中心部にあるフィルダーク城の二階の会議室で、

 エレムダール連合軍の首脳部が顔を付き合わせて、会議を行っていた。


 会議の議題は言うまでもない。

 帝国との戦いの今後についてであった。


 部屋に中央に配置された長テーブルの左側にヒューマンのラミネス王太子、

 教会騎士団総長チェンバレン、オルセニア将軍、エルフ族の騎士団長エルネスが座り、シャーバット公子、ニャールマン司令官、ジュリアス将軍が右側の椅子に座る。


 頭数も揃ったところで、

 シャーバット公子が畏まった口調で語り始めた。


「さて、こうして皆様に集まってもらった理由は一つであります。

 今から我々、連合軍と帝国軍の今後の戦いについて語り合いたいと思います。

 まず我々は現在帝国に対して、有利な状況にあります。

 都市バンプールこそ帝国軍に奪回されましたが、

 このロスジャイトは健在です。

 このロスジャイトを拠点にして、今後帝国軍と戦うべきでしょう」


「それには賛成ですニャン。

 ですがここは地の利を生かして、

 シェルバ方面からも攻撃を仕掛けるべきでしょうニャン」


 司令官ニャールマンの言うことにも一理あった。

 そしてシャーバット公子も小さく頷いて――


「無論それも承知しております。

 というか私的にはジェルバ方面の進行に力を入れたいです」


「……ふむ、その理由をお聞かせ願えますか?」


 と、ラミネス王太子。

 するとシャーバット公子がその問いに対して毅然と答えた。


「まずこのロスジャイト方面からも帝国領へ進行しますが、

 帝国と真正面から戦ったら、我が軍の被害も増大するでしょう。

 故にこのロスジャイト方面の部隊は囮役にして、

 ジェルバ方面の部隊に主力を割いて、

 旧ファーランド王国の帝国領へ攻め込もうと思います」


 シャーバット公子はそこで一端言葉を切り、軽く息を吸った。

 そして自らの戦略構想を打ち明けた。


「旧ファーランドの北部には神聖サーラ帝国。

 南東部にはペリゾンテ王国があります。

 神聖サーラ帝国は過去の帝国との戦いで、

 幾度なく煮え湯を飲まされてます。

 それ故に帝国と同盟関係を結ぶ可能性は低いでしょう。

 なので出来れば我が軍としては、

 神聖サーラ帝国の協力を仰ぎたいところですが……」


「あそこの皇帝――オスカー二世は腰抜けだからな。

 恐らく現時点では我々に協力する事はないだろう。

 奴等が味方につくとしたら、我が軍の勝利が確定してからであろう。

 だがそんな状況で戦勝国気取りをされるのは少々癪に障る。

 だからオスカー二世には「中立を保て!」という書状を送りましょう」


 やや棘のある言い方だがラミネス王太子の言う事は概ね正しかった。

 だが帝国の潜在的な敵対国である神聖サーラ帝国と連合軍の距離が縮まると、

 帝国としてもある程度の戦力を割く必要が出てくる。

 無論、シャーバット公子としてもそんな事は百も承知だ。


「ええ、私も王太子殿下と同じ気持ちです。

 とりあえず神聖サーラ帝国に対しては、その対応で良いでしょう。

 問題はペリゾンテ王国です」


「確かに」


「この国の扱いは難しいニャン」


 ジュリアス将軍と司令官ニャールマンが渋面になって唸る。

 ガースノイド帝国とペリゾンテ王国はかつて不倶戴天の敵であった。

 特に国王ミューラー三世は、

 自国領を荒らすナバールの事を蛇蝎だかつの如く嫌っていた。


 だが個人の感情と政治的な問題は別問題である。

 ペリゾンテ王国は幾度も帝国と戦い、そして負けた。

 そして自国領を少しずつ帝国に奪われていった。


 このままでは完全併合されるのも時間の問題だ。

 そう思った国王ミューラー三世は、

 自分の実娘であるマリベルを皇帝ナバールに差し出した。


 マリベルはまだ20代前半という年齢に加えて、

 眉目秀麗の麗しき乙女であった為、

 ナバールもマリベルの事を非常に気に入り、

 帝国の皇后としてマリベルを迎え入れた。


 自分の実娘を帝国に差し出す。

 それは耐えがたい屈辱であったが、

 国王ミューラー三世は国家の為にその屈辱に耐えた。


 そして四年前にナバールとマリベルの間に

 後継者である男児――ナバール二世が産まれた。

 それ以来、ペリゾンテ王国は帝国との同盟関係を続けているが、

 内心ではいつでも復讐の機会を伺っていた。


 とはいえ現時点でペリゾンテ王国が連合軍に寝返る事はないであろう。

 となればペリゾンテ王国の方面にも防衛戦力を割く必要がある。

 そしてここに居る者の全員がその事を把握していた。

 シャーバット公子もその空気を読んで、

 ペリゾンテ王国の扱いと対応を述べた。


「ペリゾンテ王国は潜在的にガースノイド帝国の事を嫌悪しているでしょうが、

 現状では皇后マリベルの存在が防波堤となっており、

 今の段階では我が軍と共闘する事はないでしょう。

 なので念の為にペリゾンテ王国の方面にも防衛戦力を割く必要があります」


「そうでしょうな」と、ラミネス王太子。


「それが打倒でしょうな」と、騎士団長エルネス。


「自分もそれが打倒と思います」と、オルセニア将軍。


「それがいいだニャン」


「自分も賛成であります」


 司令官ニャールマンとジュリアス将軍も相槌を打つ。

 

「そして残った戦力の全てを持って、

 旧ファーランド領に侵攻したいと思います。

 ここを陥落させれば、我々にとって更に有利な状況となります。

 とはいえ敵もそれは百も承知でしょう。

 故に敵もファーランドの防衛には全力を尽すでしょう。

 だからこのファーランド侵攻部隊に関しては、

 お互いに意見を出し合って、慎重に検討したいと思います」


「「「「そうですな」」」」


 ラミネス王太子、エルネス、オルセニア、チェンバレンが口を揃えて頷く。


「そうだね」「はい」


 ニャールマンとジュリアス将軍も同意する。

 それを確認すると、

 シャーバット公子はラミネス王太子に視線を向けた。

 するとラミネス王太子も頷きながら、自分の意見を述べた。


「とりあえず部隊を三つに分ける必要があるな。

 まずロスジャイド方面、そしてペリゾンテ方面。

 それと主力となるファーランド侵攻部隊。

 僭越ながらこの私が各部隊の人員配置を決めたいと思います」


「……そうですね、ではお願いします」


「はい」


 シャーバット公子は、この場は王太子の判断に任せる事にした。

 他の者達も異を唱える事はなく、王太子の言葉に静かに耳を傾ける。


「まずロスジャイド方面の部隊は基本的に囮役だが、

 敵にそれを悟られてはまずい。 故にある程度の戦力と人材を配置する。

 この部隊――第一軍の指揮官はこの私が務めたいと思う。

 戦力としてはアスカンテレス王国軍、それと教会軍の一部。

 またエストラーダ王国のエルフ騎士団と騎士団長のエルネス殿にも

 この第一軍に加わって欲しい」


「……了解しました」「了解です」


 と、シャーバット公子と騎士団長エルネスが控えめに頷く。

 他の者立ちも「異議なし!」と声を揃えて返事する。

 王太子は「うむ」と頷いて、次の陣営を発表した。


「次にペリゾンテ王国方面の部隊には……

 冒険者及び傭兵部隊で構成された

 五千人以上の部隊――第二軍をオルセニア将軍に率いて欲しい」


「……分かりました。 引き受けさせて頂きます」


 と、オルセニア将軍。

 これでロスジャイト方面とペリゾンテ方面に配置される部隊は決まった。

 残るは今回の戦いの鍵を握るファーランド侵攻部隊。

 周囲の指揮官達も固唾を呑んで、王太子の言葉を待った。

 その空気を察した王太子は威勢の良い声で次の陣容を発表する。


「そして今回の戦いの鍵を握るファーランド侵攻部隊だが、

 総指揮官をシャーバット公子殿下に、副司令官をジュリアス将軍に

 お任せしたいと思います」


「了解だワン」「了解です」


「配置する人員と部隊は……犬族ワンマン兎人ワーラビットは、

 シャーバット公子殿下とジュリアス将軍に率いて頂きます。

 猫族ニャーマンはニャーマン司令官に。

 これらの獣人部隊を第三軍とします。

 それに加えてサーラ教会騎士団をチェンバレン総長に率いて頂き、

 戦乙女ヴァルキュリア殿とその盟友を加えたこの部隊を第四軍として、

 総勢五万人以上の大軍を持って、

 ファーランドに侵攻したいと思います」


 これで陣容の発表は終わった。

 各自、それぞれ思うところはあったが、

 ラミネス王太子の決定に反対する事なく、

 与えられた任務を遂行する事に気持ちを集中させた。


「では陣容の発表はこれにて終了します。

 シャーバット公子殿下、最後に何か言いたい事はありますか?」


「……恐らく厳しい戦いになるだろうけど、

 全員一丸となって帝国及びその同盟軍と戦いましょう!」


 シャーバット公子の言葉に周囲の者達も「はい」と頷く。

 こうして再び連合軍と帝国軍の戦いが始まろうとしていた。

 戦いの鍵を握るファーランド侵攻部隊。


 リーファ達もその部隊に組み込まれた。

 だが彼女やその盟友は、上層部の決定に素直に従い、

 シャーバット公子やジュリアス将軍。

 司令官ニャールマン達と共に港町ジェルバへと向かうのであった。


次回の更新は2023年4月15日(土)の予定です。


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黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
[良い点] 難しい会議中においてもワンニャー聞こえてくるのは癒しでしかないですね♡ またリーファの活躍が見られることを楽しみにしています(๑>◡<๑)
[一言] いよいよ次の戦いって感じですかね。 デーモン族の女帝陛下など面白そうなキャラが出てきて、物語がどっと広がりそうですね。 帝国との戦いの後はデーモン族と戦いかな? とても楽しみです!
[一言] リーファの配備されなかったペリゾンテ方面が、今後の趨勢を握る肝になるような気がして来ました!
2023/04/12 12:34 退会済み
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