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第三百九十二話 鳩首密議(後編)


---三人称視点---



 東洋における植民地の支配権。

 この言葉を聞いて、この場に居るリーファの仲間がはっとした表情になる。


 確かにジャパングは強力な独立国になりそうだ。

 そうなるとこの東洋においての地盤を固める為、

 隣国を植民地化する可能性が高い。


 そうなると清国しんこくに食い込んでいるヴィオラール王国。

 また他の西洋列強としても少々困る事になる。


「確かに独立国となったジャパングの立場からすれば、

 隣国を植民地化して、国力をつける。

 というのは彼等が描く青写真となりそうですね」


 リーファの言葉にバルジオ総領事が「ええ」と頷く。


「だがこの国の軍事力は侮れないわね。

 東洋だけならば良いけど、

 他の地域リージョンに侵攻して来たら、

 ちょっとした事になるわね」


「私もロザリーさんと同じ意見ですね」


 と、バリュネ大尉。

 するとバルジオ総領事が淡々とした口調で言葉を紡いだ。


「それに今、エレムダール大陸の方も少しざわついてるんですよ」


「何かあったのですか?」


戦乙女ヴァルキュリア殿、実はガースノイドがばたついてるんですよ。

 このままだと王政が再び打倒されて、

 第二共和政が訪れるのも時間の問題かもしれません」


「えっ? たった数年でですか?」


 リーファが驚くのも無理はない。

 あれだけ苦労して皇帝ナバール擁するガースノイド帝国を打倒して、

 王政復古したのに、僅か三年足らずでこの様なのか。


 これにはリーファだけでなく、

 ロザリー、ラビンソン、アストロスとシュバルツ元帥も同じ事を

 思ったが、場が場なので彼等も余計な発言は控えていた。


「まさかまた帝政に逆戻り、なんて事はないですね?」


 と、ロザリー。


「……のナバール元皇帝は半年前に病死しましたが、

 彼には何人かの親族が居ますからね。

 それらのナバールの血族を担ぎ出して、

 もう一度、帝政になるという可能性はなくもないです」


「えっ? ナバールは病死したのですか?」


 と、リーファ。


「ええ、流刑先のアーク・ヘレナ島の生活で、

 体調を崩して、一気に老け込んだとの話です」


「そうか、皇帝陛下は亡くなったか」


 そう言ってシュバルツ元帥は、真顔になった。

 かつての君主の訃報を聞いたのだ。

 元部下としては、色々と心中が複雑であろう。


「……そんなに今の王政は良くないんですか?」


 と、アストロス。


「ええ、正直、革命前と然程変わらないですね。

 おまけに大飢饉が起きて、国民の生活水準は最悪になり、

 王政に対してだけでなく、大きな政治不信に繋がっており、

 かつての共和主義者や政変を狙って閣僚を狙う野心家が台頭してます」


 バルジオ総領事の言葉にリーファ達も表情を強張らせた。

 自分達がこの東洋の島国に遠征――左遷されているうちに、

 エレムダール大陸では、また大きな争いが起きようとしている。


 あれだけ多くの血を流しながら、

 国民は王政を嫌い、再び共和制を求めるのか。

 あるいはその先に第二次帝政時代があるのか。


 それはまだ分からないが、

 場合によっては、リーファ達にとっては好機かもしれない。


 また大きな戦争が起これば、

 本国はまたリーファ達を再び戦場に駆り出す可能性が高い。


 だがその時はその時だ。

 リーファもその仲間も今ではこのジャパングの生活に馴染んでおり、

 この東洋の島国で静かに暮らす。

 というのも悪くないと思い始めてたのである。


 これは今後の身の振り方をよく考えるべきね。

 リーファがそう思う中、バルジオ総領事が話題を戻す。


「もしガースノイドでまた革命騒ぎが起きたら、

 西洋列強による他地域たちいきの植民地統治に支障が出ます。

 その間隙を突いて、ジャパングが植民地支配のシェアを拡大。

 するという話は、今後十二分に考えられる話です」


「確かに本国や西洋列強にしてはそうだろうね。

 でもガースノイドでまた一騒動起きるなら、

 本国の護りを固める必要がある。

 またあの地獄のような戦いが起こる。

 という可能性はなきにしもあらず、か」


 ロザリーのこの言葉にリーファ達も「ううむ」と唸る。

 するとバルジオ総領事は、「コホン」とわざとらしく咳払いして――


「それらの可能性は今後考慮するべきですね。

 その為にもジャパングには、簡単に国家統一されては困る。

 我等の傀儡になるか、独立国になるにしても、

 それ相応の問題を抱えてもらうべきでしょう。

 その為にも今後の幕府軍と薩摩、長州軍の戦いでは、

 どのような状況になっても、

 我等の利になるように動いて頂きたい」


 本国としては当然そう考えるであろう。

 だがリーファとしてはどのような立ち位置で行くべきか。


 今のジャパングの生活には個人的に満足しているが、

 未来永劫、この国に住むという訳にもいかない。


 所詮、リーファは異国人。

 どの国も異国の者には冷たいものだ。

 今は良くても数年後の見通しは立たない。


 ならばこのジャパングでそれなりの手柄を立てて、

 本国に凱旋、というのが一番取るべき選択肢であろう。


 だが本国やその周辺国も今後の展開でどうなるかは分からない。

 そういう状況だからこそ、

 戦乙女ヴァルキュリアとその一行は歓迎されるかもしれないが、

 また都合の良いに使われて、

 戦争が終われば左遷、という状況は出来れば避けたい。


 ――これはもう少し様子を見るべきね。


 リーファはそう思いながら、視線をロザリーに向けた。

 すると彼女もこちらを見て意味ありげな視線を向ける。


 どうやら彼女も色々と考えているようだ。

 でもロザリーは厳密に言えばエルフ族でエストラーダ王国の民だ。


 ――今後の展開次第で袂を分かつ可能性もあるわね。

 ――でもとりあえず今はお互いに協力しよう。

 ――と彼女も考えているでしょうね。


「ではこの後、私と共に大阪城に出向きましょう。

 兎に角、低姿勢で慶喜公の出方をうかがいましょう」


「ええ」


 こうしてリーファ達も大阪城へ出向く事となった。


次回の更新は2025年12月27日(土)の予定です。


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