第三百九十話 権藤勇襲撃事件
---三人称視点---
元治二年(聖歴1760年)七月十四日。
ついに京都守護職、そして京都所司代が廃止された。
これによって神剣組も会津藩のお預かりという立場を失い、
代わりに見廻組の下部組織として扱われることになった。
更に坂本龍牙暗殺の嫌疑がかけられていた上、
油小路の変まで起こした神剣組には、廃止の声が相次いだ。
組織は何とか存続したものの、
神剣組は三日間ほど、新遊撃隊御雇と名乗る事になる。
そして迎えた十六日、神剣組は京の伏見に陣を敷くよう命じられた。
伏見は禁門の変で長州軍が陣を敷いたように交通の要所であった。
その伏見を守れという事は、最前線で戦えと命じられた事になる。
これにより神剣組の新たな屯所は、旧伏見奉行所を使う事となった。
二日後の七月十八日。
この日の夕方、大事件が起こった。
「何? 権藤さんが襲撃されただとっ!?」
局長の権藤が何者かに襲われて負傷するという事件が起きた。
二条城からこの伏見に戻る途中、何者かに鉄砲で撃たれたとの事。
権藤は何とか落馬せずに戻って来たが、
傷は深く大怪我と言っても過言はなかった。
副長の聖はすぐに権藤専用の病室を作り、そこに権藤を運んだ。
権藤が病室に運び込まれると、
屯所の中は必然的に騒がしくなった。
「襲撃犯は御陵衛士の残党でした。
油小路の変の報復でしょう」
護衛として、権藤と一緒にいた島田魁がそう告げた。
「まあ報復はいずれあるだろうと思っていたが、
よりにもよってこんな時にとはな。
山崎、局長の傷の具合はどうだ?」
聖が権藤の傷の手当てをしていた山崎にそう問うた。
すると山崎は難しい表情で――
「きちんと医者に診せないと駄目ですね。
それに鉄砲で撃たれた時の弾が、
まだ身体の中にある模様。
出来ればすぐにも摘出したいところですが、
その後の対処は自分だけでは難しいと考えます」
と述べた。
いくら幕医の松本良順先生の手解きを受けているとはいえ、
山崎は冷静に無理だとの判断を下した。
「分かった。 おい、誰か大坂城に早馬を走らせろ。
松本先生に連絡せよ。 それと山崎!
君がやれる範囲まで一人でやってもらえないか。
松本先生が来るまで待てぬ。
権藤さんをこのままにしておくのは危険だ」
聖は冷静さを保ちながらそう命じた。
今この状況で何かをするべきかを考えての命令だ。
「了解です。 恐らく内臓は傷ついていない位置でしょう。
自分でも何とか出来ると思います。
ただ自分が弾を摘出するとなると、
傷口は焼いて塞ぐことになりますが、良いですか?」
山崎はそう告げて、
二度と刀を握れなくなるかもしれんが良いか、と聖に促す。
焼いて塞ぐとなれば大きな傷を残したまま塞ぐという事である。
となれば、何らかの後遺症が残る可能性は高い。
「構わん。この状況で大将を失うことは絶対に避けたい。
それに権藤さんには、
今後、政治の方に回ってもらえばいいだろう」
今までも旗本として政治中心になっていた為、
聖は的確な判断を下す事が出来た。
ここで局長を失うと神剣組は完全に崩壊する。
だから何としても権藤には生きてもらう必要がある。
「では治療器具を準備します。
手の空いている人は手伝ってくれると助かります。。
氷と綺麗な手ぬぐいの用意。
それと焼きごての準備をお願いします」
山崎が的確と指示を出し、摘出手術に向けた準備が進む。
そして権藤が時々、大きな悲鳴を上げながらも、
銃弾の摘出手術は一時間足らずで終わった。
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権藤が負傷した翌日、沖田悟は権藤と一緒に大坂城へと行くことになった。
とりあえず二人は、別々の駕籠に乗って大阪城に行く事となった。
「悟、お前も念の為に松本先生に診てもらってこい」
聖はそう言って、沖田を送り出した。
だが最近の沖田の病状は完全に治まっている。
ここで権藤にわざわざ付き添う理由もなかった。
「聖さんの本心は?」
沖田は駕籠に乗り込んで、聖にそう訊ねる。
「色々と権藤さんを補助してくれ。
あれ程の剣士が剣を握れなくなるのだ。
色々と悩みも出てくるだろうしな」
「成る程、分かりました。
自分のやれる範囲で権藤さんを補助しますよ」
「嗚呼、悟。 頼んだぞ」
「ええ、聖さんも無理しないでください」
「そうありたいが、しばらくは俺が権藤さんの代わりだ。
俺も俺のやれる範囲の仕事をするよ」
こうして権藤と沖田は、
しばらく神剣組から離れる事になった。
そしてその裏でリーファ達も大阪城へ向かっており、
総領事のヴィルバム・バルジオと秘密裏に会い、
リーファ達、そしてアスカンテレス王国は、
今後どのように動くかについて語られようとしていた。
次回の更新は2025年12月20日(土)の予定です。
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