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第三百七十四話 合従連衡(後編)


---三人称視点---



「……どうですかな?

 お二人にとっても悪い話ではないでしょう?」


 西条と桂を見て、坂本龍牙さかもと りょうがはそう言う。

 だが西条も桂も愚物ではなかった。


「坂本……くん、それで君にメリットはあるだろうが、

 その際に介入する外国は何処だ?

 やはりヴィオラール王国か?」


「桂さん、ヴィオラールも介入しますが、

 取引の主要相手はアスカンテレス王国となります」


「アスカンテレス王国か、つい最近まで内戦していた国じゃないか。

 我が日ノ本(ひのもと)の混乱に生じて、

 武器や軍艦を売って、金や銀を得ようとするつもりか?」


 桂のこの反応には、

 坂本も少し驚いたが、すぐに表情を取り繕った。


「流石は長州の頭脳と言われる桂さんだ」


「世辞は良い、それと今は城戸きどだ」


「城戸先生、確かに外国が介入しますが、

 ここで武器や軍艦を得られねば、

 長州にも薩摩にも勝ちの目は出ません」


「確かにな、だがその結果、日ノ本(ひのもと)

 諸外国の傀儡国家や植民地になっては本末転倒であろう。

 だから私は目の前の事だけでなく、

 先を見据えて行動するつもりだ」


「おいどんもそれに関しては同じでごわす」


 成る程、やはり簡単にはなびかぬか。

 だがその方がやり甲斐があると言うものだ。

 坂本は内心でそうつぶやき、次の手を打った。


「私とて日本男児にほんだんじの端くれ。

 諸外国に母国を売るような真似は致しません。

 諸外国の連中は、私を利用しているつもりかもしれない。

 だが事実は違う。 この私が奴等を利用しているのだ」


「噂通り頭の回転の早さや弁舌は大したものだ。

 君のような人間が仲介してくれるなら、

 薩長同盟を結び、幕府を打倒する事も夢物語ではないだろう」


 と、桂こと城戸孝允きど たかよしが言った。


「しかし長州は事実追い込まれている。

 対する我が薩摩はまだまだ余力を残している。

 この状況で五分の同盟を結ぶのはやや気乗りしないでごわす!」


 ここが勝負ところだ。

 坂本はそう思い、覚悟を決めて二人の説得に入った。


「なにを情けないことをいうちゅう? 

 城戸さん! 西条さん! アンタ等、所詮は薩摩藩か? 長州藩か? 

 違うじゃろ! 同じ日本人にっぽんじんだろう! 

 こうしている間にも外国は、日ノ本(ひのもと)を植民地にしようと狙っている。

 日ノ本(ひのもと)が植民地にされたら、

 アンタ等は日本人らに何といってわびるんじゃ」


「「「……」」」


 一同は沈黙した。一同は考えた。 そして歴史は動いた。

 こうして龍牙りょうがの策で、薩長同盟は成立した。


「城戸さん、西条さん。 握手を交わしなさい」


「「……嗚呼」」


 城戸と西条が無表情で握手を交わす。

 こうして薩長両軍が同盟を結び、幕府を倒し、

 新政府を樹立する事を第一目標に定めた。

 その為には天皇を掲げて「官軍かんぐん」となる必要がある。


 長州藩は、薩摩から武器や火器を輸入し、

 薩摩藩は長州藩から不足している米や食料を輸入して、相互信頼関係を築く。

 龍牙の策により、ジャパング――日本にほんの歴史を変えることになる薩長連合が完成した。


 こうして龍牙は資金を調達して、日本にほんで最初の株式会社『亀山社中』を設立する。

 そして元・幕府海軍演習隊士たちと長崎で海援隊を創設した。

 ここまでは順風満帆……に見えた。


 もしこのまま順調に事が進めば、

 坂本龍牙という男は更に大きな存在になれたであろう。

 だが幸か不幸か、歴史は彼に対して試練を与えた。


---------


 京の薩摩藩邸。

 その屋敷内で日本の歴史を変える「薩長同盟」が結ばれた。

 その屋敷の周辺でリーファ達は、様子を伺っていた。


 そしてつい今さっき、

 ロザリーの「耳錠の魔道具(イヤリング・デバイス)」に、

 屋敷内の密偵から「薩長同盟設立」という情報が持たされた。


「どうやら無事に薩長は同盟を結んだみたいよ」


「そうですか、となると今後の動きに注目ですね。

 しかしこうもあっさりと同盟が結ばれるとは……。

 やはり仲介人が優秀だったのでしょうか?」


「リーファちゃん、そうかもしれないね。

 中尾という男もそれなりの志士だけど、

 やはり気になるのは、坂本龍牙の存在だね」


「ロザリー殿は彼の坂本をどう思いますか?」


 と、バリュネ大尉。


「愚物や凡人ではなさそうね。

 というかこういう動乱の時代に名を馳せるタイプの人間だわ。

 今は諸外国の連中の仲介人に過ぎないかもしれないけど、

 後、数年もすれば化けそうな予感がする」


「そうなると私達の制御下に収まらない。

 その結果、私達にとっても邪魔な存在になる。

 という事でしょうか?」


 リーファの言葉にロザリーは「ウン」と頷く。

 状況を正確に把握しているリーファを

 ロザリーは好意を抱きながら、彼女の疑問に応じる。


「そうだね、でも彼は些か目立ち過ぎだわ。

 「出る杭は打たれる」というこの国のことわざがあるけど、

 日本人の中でも彼を疎ましく思う者は多いでしょうね」


「……邪魔になれば消される。

 という可能性もあると言うわけですか?」


「アストロスくん、ボクも同じ考えだピョン」


「あーしもウサギさんと同じよ。

 でも坂本某は頭も切れて身動きも軽いからね。

 しばらくは怒濤の勢いで成り上がるかも。

 そうなればあーし等の母国の武器や軍艦が売れる。

 その結果、この国の金銀財宝が手に入る。

 だからあーし等は、最初の計画通り「傍観者」の立場を

 決め込むのが良さそうね」


「いずれにせよ、この国は内乱状態にある。

 だがそういう時こそ稼ぎ時とも言える。

 だから俺はロザリー女史の方針に従う」


 するとリーファやラビンソンも――


「私も従います」


「ボクも!」


 と賛成の意を示した。

 それに気を良くしたロザリーは――


「まあそうそう都合良くあーし等の思惑通りに

 事は進まないだろうけど、

 今は慌てず高みの見物としましょうか」


 こうして薩長同盟が締結されて、

 リーファ達もその間隙を突いて、

 荒稼ぎを試みるが、事はそう上手く運びそうになかった。



次回の更新は2025年10月25日(土)の予定です。


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