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第三百五十九話 揺れ動く思い



---三人称視点---



 京が禁門の変で揺れ動く中、

 坂本龍牙さかもと りょうがとその師匠である勝麟太郎(後の海劉)の許に、

 禁門の変(蛤御門の変)の情報が届くなり、龍牙と麟太郎は激怒した。


 事の経緯は不明な点も多いが、

 会津藩と神剣組が結託して、

 長州藩をはじめとした邪魔者を変に乗じて、

 大量に斬り捨てている、という情報が入った。


「会津藩とその猟犬の神剣組しんけんぐみめ。

 この機に乗じて、我等の有志たちを斬り捨てたようだ」


「勝先生、これは一大事ですよ。

 この事件で幕府や朝廷にこのジャパング。

 日本にっぽんを変える力がない事は、

 誰の目から見ても明白となりました。

 最近でも長州や薩摩がヴィオラール王国に

 煮え湯を呑まされました。

 このままだと、我が国は西洋の植民地になりかねない!」


 勝も興奮していたが、

 坂本龍牙さかもと りょうがはそれ以上に興奮していた。


 ほんの数ヶ月前に、

 龍牙りょうががかつて所属していた土佐勤王党の武木半平太たけき はんぺいた

 そしてその腹心の部下――岡澤以藏おかざわ いぞう

 世間的に言えば人斬り以蔵。


 土佐藩主・山内容堂の大獄によって、

 岡澤以藏は勝麟太郎の元を離れ、

 土佐に戻った所を土佐藩士たちに取押さえられた。

 

 この土佐の山内容堂の大獄は、

 尊皇壤夷派を土佐から全て抹殺するというものだった。


 岡澤以藏は籠に入られて拷問を受けた。

 土佐の開国派だった吉田東洋たちを殺したという容疑をかけられており、

 その黒幕が武木半平太たけき はんぺいたとされ、武木も牢獄に入れられた。


「お主が吉田東洋様や京で土佐藩士たちを暗殺指示したのか?」


 武木半平太たけき はんぺいたは答えなかった。


「もう一度問うぞ! 吉田東洋様を殺すように命じたのは貴様か?!」


「……答えるつもりはない」


「……コイツ!」


 そして岡澤以藏は更に拷問を受けた。

 石のギザギザの石床に座らされ、

 脚に石を積まれて木刀で殴られ、鞭で打たれた。


 だが以蔵は悲鳴は、上げても口を割らなかった。


 ――以藏、耐えよ、そして口を割るな。


 半平太は遠くの以藏の悲鳴を聞きながら、考え込んだ。

 以蔵がすべて独りでやった事にすれば、

 自分は助かるかもしれない。


 半平太の心に悪魔が囁いた。

 あるいは半平太自らが悪魔と化したのかもしれない。


 東洋達の暗殺を指示したのは、

 間違いなく半平太であった、


 岡澤以藏は執拗な拷問を受けても口を割らなかったが、

 他の土佐勤皇党の連中は次々と斬首された。


 龍牙は武木半平太や岡澤以藏らの逮捕の報を聞くなり、

 土佐に向かって駆け出した。


 だがこの時の半平太は自分の保身しか考えてなかった。

 半平太は夜、自分の息のかかった志士を牢屋に呼んだ。


「……準備は出来たか?」


「はい、毒薬を混ぜた握り飯を以蔵を食べさせます」


 こうして半平太は、全ての罪を以蔵になりつける事にした。

 以蔵は薄暗い狭い牢屋で拷問の痛みで、

 ぐったりと地面に横になっていた。


 以蔵は武木半平太を先生と呼び、彼の弟子であった。

 だがその師弟関係は既に崩壊していた。

 志士の男は横たわる以蔵の牢屋に入り、

 飲み水とにぎり飯を与えた。

 

「武木先生からの差し入れだ。 遠慮なく食え」


 岡澤以蔵は、空腹のあまり握り飯を貪るように食べた。

 その後、猛烈に吐いた。


「先生は……ワシを殺すつもりらしい……先生は……」


 志士は動揺して、「マズい」という表情をした。

 怒り狂った以蔵は、藩の役人にこれまでの事を洗いざらいに話した。


 吉田東洋などの暗殺指示者が武木半平太である事、

 土佐勤皇党の関与に関する話など。


 そして岡澤以蔵は斬首された。

 享年二十八歳であった。


 また、武木半平太は武士として切腹を果たした。

 享年三十七歳であった。

 半平太には愛する妻の富子がいた。


 龍牙が土佐に駆けつけた時は、すべては後の祭りだった。

 半平太の妻の富子は、号泣して龍牙を困らせた。

 龍牙は雨の降る中、以蔵達の墓へ行き、号泣した。


「……以蔵さん、武木さん。 アンタ方が死んだのは……身分のせいじゃ。

 わしは……身分も何もない国に、この日本国を……そう日本を作ってみせる……」


 龍牙は旧友の墓にすがって、泣きに泣いた。

 全ては幕府が悪い、藩が悪い。

 この国を内部から変えねばならん!

 それが龍牙の信念になっていく。


「まずは薩摩と長州をくっつけて新しい政府を作る! 

 この状況を打破するには、それしかない!」


---------


「勝先生、以上のような事が数ヶ月前に起きました」


「そうか、それはさぞ無念だったろうな」


 麟太郎の言葉に龍牙は「ええ」と答えた。


「龍牙、おぬしの云うように、

 この国はもう内部から変えるしかないかもしれん。

 その為には、薩摩と長州に同盟を結ばせるしかない。

 難しい任務だが、これを実行出来るのは、

 坂本龍牙、おぬしのような志の高い志士しか無理であろう」


「ええ、必ず西条と桂を会わせて、

 わしがその場に同席して、薩長同盟を実現化してみます!」


「うむ、おぬしなら出来るだろう。

 いやこれはおぬしでしか無理であろう!」


 こうして京における神剣組の躍進の水面下で、

 薩長同盟の実現に向けて、

 坂本龍牙が強い信念の元に静かに動き出した。


次回の更新は2025年9月3日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
 静かに歴史が動いていく感じですね。  龍牙の辺りは史実とフィクションを混ぜているのでしょう。  リーファたちがどう絡むかわかりませんが、楽しみにしてます。ではまた。
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