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第三百五十七話 禁門の変(後編)



---三人称視点---


 伏見、それと嵯峨の天竜寺に居た軍勢が京の街に入り込んだ。

 そして長州軍は、躊躇無く京の街で大砲を砲撃していた。


「……長州の奴等め。

 京の街を本気で火の海にするつもりかっ!」


 街に至るところから煙が上がり、

 神剣組しんけんぐみの局長の権藤ごんどうが怒りを露わにした。


「権藤さん、これじゃ俺達も狙い撃ちされる。

 ここは御所へ行って、天子てんしを護ろう」


とし、俺もそう思っていたところだ。

 よーし、全員、この権藤の後について来い。

 途中で離脱した者は置いていく。

 ついて来れる者だけで、御所を護るぞぉっ!」


 局長の権藤の言葉に従い、

 神剣組の隊士達は、両足に力を込め、大地を踏み抜いた。


 数十分後、神剣組の隊士達は京の中心街に戻ったが、

 待ち受けていたのは、銃弾と砲弾の雨であった。


 薩摩軍と長州軍の間で激しい銃撃戦と砲撃戦が展開されていた。

 銃弾と砲弾を掻い潜り、局長の権藤、聖、沖田。

 神剣組の主力部隊と隊士がひたすら御所を目指した。


「お、おい! 御所の方からも大砲の音が聞こえてねえか?」


「権藤さん、奇遇だな。 俺の耳にも聞こえているよ」


「御所を砲撃とは……なんて罰当たりな」


 沖田悟おきた さとるが冷めた口調でそう言う。


「マズい! 中立売御門なかだちうりごもんが破れたっ!!」


 そんな声で何処からか聞こえてきた。

 どうやら御所でも本格的な戦いが始まったようだ。


「急ぐぞっ!」


 局長の権藤は、この状況でも冷静で、

 各組長や隊士を引き連れて御所へひたすら向かう。


 街の至る所で戦闘が繰り広げられていた。

 そして会津藩が護る蛤御門に到着すると、

 防戦していた薩摩の藩兵に混ざって、懸命に戦った。


 こうして御所や京の中心地で大きな戦闘が行われたが、

 兵力差においては長州軍が圧倒的に不利であった。


 勢いと無謀に近い勇気で御所にまで攻め込んで来た長州軍も

 次第に押され始めて、長州の敗戦が色濃くなる中、

 薩摩の藩兵や神剣組の局長、副長。

 そして各組長と隊士達も果敢に戦った。


 次第に長州軍が兵を引き始めた。

 誰もが勝利を確信する中、異変が起きた。


「火事だ! 長州軍が火を放ったぞ!」


 事もあろうに長州軍は京の街に火を放ったのだ。

 そして不幸が重なり、北から大風が吹いて火の手が広がっていく。


「糞っ、魔術を使える者は、

 水、あるいは氷の魔術で消火出来ぬかっ!」


「局長、やるだけはやってみますが、

 これ程の規模の火事の消火は難しいでしょう」


「悟、俺も一緒に消火するよ。

 それ以外の者は鴨川まで逃げるんだっ!」


聖と沖田が水属性魔法を使って、

 消火を試みるが、如何せん火が大きすぎた。


 このままでは京の街が燃え尽きる。

 と思った所で予想外の集団が現れた。


神剣組しんけんぐみ皆様方みなさまがた

 我々とアナタ方は、友好関係にはありませんが、

 我々も京の街に生きる身。

 なので消火活動の方を手伝わせて頂きます」


 前回のように仮装したリーファ一味。

 そして日本語で協力を語りかけるバリュネ大尉。

 その姿を観て、権藤も聖も沖田も唖然とした。


「アイツらはとし達が前に戦っていた連中じゃねえのか?」


「嗚呼、そのようだな」


「消火を手伝うと申してますが?」


「奴等の考えは分からんが、

 今は猫の手も借りたい状況。

 よって奴等の手を借りる事にするぞ。

 ――見ての通り危機的状況だ。

 手を貸してもらえると助かるっ!」


 聖は自分の考えやポリシーに拘る男だが、

 それを全てにおいて優先する訳でもなかった。


 仮にも神剣組のナンバー2。

 状況においては敵と手を結ぶ事も出来る男であった。


「どうやら向こうも協力に賛成のようです」


「バリュネ大尉、グッジョブ。

 じゃあアストロスくんとジェインちゃんとエイシルちゃん」


「「はい」」「はいだワン」


「キミ達は魔力が尽きるまで、

 水属性魔法「アクア・スプラッシュ」を放水し続けて頂戴」


 ロザリーの言葉に三人が無言で頷く。

 するとロザリーは視線をラビンソンへ向けた。


「うさ……ラビンソンくん。

 これからあーしが天候操作魔法を使って、

 人工雨を降らせるから、

 消火が上手く進んだら、

 キミは得意の氷結魔法で大規模な消火をして頂戴」



「ピョン、任せなさーいっ!」


 元気よく胸を張って、左手で自分の胸を叩くラビンソン。


「ロミーナちゃんとシュバルツ元帥は、

 周囲の様子を見てて頂戴」


「はいだわさ」「了解」


「ではまずは大雨雲を発生させるわよ。

 偉大なる水の精霊よ、我が願いを叶えたまえ! 

 我が願いを叶え、

 母なる大地ハイルローガンに凶暴なる恵みをもたらしたまえ!」


 ロザリーがテンポ良く呪文を唱え始めた。


「嗚呼、雲よ! 全てを押し流し、あらゆるものを包み込め!」


 するとロザリー達の頭上で、

 雲が急に曇りだして、その直後に暴風が吹き荒れた。

 ここでロザリーは、一度呪文を詠唱を止めた。


 そして一度、呼吸を整えて、小休止する。

 休む事十五秒。

 それからロザリーは、残りの呪文をゆっくりと紡いだ。


「嗚呼、雨よ! この大地を水で埋め尽くしたまえ!

 はいあああぁっ……『大雨雲ニムバス』ッ!!」


 呪文の詠唱が終わると、

 数秒の間を置いて、雨雲が異常な速度で広がった。

 そして広がった火事を消すように、

 広がった雨雲から物凄い勢いで雨が降り出した。


「こ、これは……まさか雨を人工的に降らせたのか!」


「局長、どうやらそのようだ。

 確か天候操作系の魔法……魔術があるとは、

 聞いていたが、まさかこの目で観るとはな」


「聖さん、でも正直言って大助かりですよ。

 これなら火事による被害も減らせそうです」


「悟、隊士の無事も大事だが、

 京の街の住人の避難も優先してくれ。

 もしかしたら、大幅に被害を減らせるかもしれん」


「はい、任せてください」


 リーファ達の加勢によって、

 本来なら京の街は火の海になる所であったが、

 ロザリーを含めた仲間の助力で被害を減らす事に成功。


 そして最後の火消しをすべく、

 ラビンソンがドヤ顔で周囲に宣言した。


「さーて、ここで真打ちの登場だピョン。

 ボクも京の街を気に入り始めてるよん。

 だからボク――ボク様の手で京の街を救うピョン!」



次回の更新は2025年8月27日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
 リーファたちは戦いよりも、人命救助で参加したようですね。  京を守るためなら神剣組も片意地を張らないようだ。  史実とファンタジーを織り交ぜており、楽しく読ませてもらっています。  ではまた。
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