表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

359/382

第三百五十五話 禁門の変(前編)



---三人称視点---



 池田屋事変は、文久四年(聖歴1758年)10月8日に起きたが、

 その数週間後の10月27日に異変が起きた。


 大きな戦果は挙げたが、

 大きな報償や地位は与えられず、

 神剣組しんけんぐみの副長の聖歳三ひじり としぞうは、

 壬生の屯所の私室で寝ている所を

 観察部の山崎進やまざき すすむに起こされた。


「山崎君、今時分いまじぶんに何の用だね?」


 そう言って、聖は寝間着から着物に着替えた。


「河原町の長州藩邸の様子がどうにも怪しくて、

 どうしてもその事を副長にお伝えしたかった次第です」


「どう様子がおかしいのだ?」


「人の出入りが激しいのです。

 観察部の密偵に後を追わせたところ、

 長州藩の志士や浪士ろうしの多くが西へ向かっています」


「西か、西には何かあるのかね?」


「……現時点では分かりません。

 ですが既に二十名近くの密偵を放っているので、

 追々、詳細が分かるでしょう」


「そうか、では各隊の組長や隊士を今すぐ起こせ。

 それと権藤先生の許にも使いを出せっ!」


「はっ!」


 聖は最初この洛西らくせいの壬生が狙われている。

 と思ったが、それは思い違いであった。


 長州藩の志士や浪士の目的には、

 更に西にある嵯峨さがの天竜寺にあった。


「成る程、天竜寺を拠点としたのか。

 これは少々、大事になりそうだな」


 壬生の屯所の中庭に、

 聖は各組長が集まった状態で、そう口にした。


 密偵の話によると、

 長州人の百数名は、寺の執事を刀で脅し、

 そのまま天竜寺に居座っているらしい。


「寺に志士や浪士が居座る。

 これは放っておくと危険ですね」


さとる、そんな事は俺も百も承知だ。

 だが今度の戦いは、池田屋の比じゃないだろう。

 それこそ本物の戦さになるかもしれん」


「ニャる程、天竜寺に殴り込みかけるのかニャ?」


 と、ニャガクラ組長。


「だが池田屋の戦いで多くの隊士も負傷及び死亡した。

 ある程度、戦力の再編成と武器・大砲も仕入れる必要がある」


とし、その辺の事はお前さんに任せるよ。

 そしていざ戦うのであれば、

 当然、我々としても見せ場や手柄が欲しいものだが、

 戦いの規模が大きくなると、それも難しくなるだろうな」


権藤ごんどうさん、全くその通りさ。

 手柄欲しさに多くの隊士を死亡させちゃ目も当てられん。

 だから今回は慎重に行くべきと思う」


「うむ、そうしようか」


 そして翌日、聖は馬を飛ばして、

 会津本陣へと向かった。


 聖の狙いは新しい大砲であった。

 神剣組に今ある大砲は、旧式過ぎて使い物にならない。


 ただ聖は戦力として大砲を欲してた訳ではない。

 隊の格と軍制を整える上で、大砲を欲したのだ。


 そして会津藩の上層部と掛け合い、

 聖は何とか新型の大砲を一門手に入れる事に成功。


 その後、聖は壬生の屯所に戻ったが、

 特に異変らしい動きはなかった。


 それから数日ほど、屯所で待機していたが、

 その間にも特に何事も起きなかった。


 すると翌日、監察の山崎から、とんでもない情報が報された。

 何でも長州軍が京を火の海して、天子――天皇を誘拐するというのだ。


 どうやら数年前の政変で、

 京都政界から長州勢力が一掃されて、

 池田屋事変で多くの同士が斬り捨てられた。


 その為に藩の正論を明らかにする。

 などと色々と表向きの言葉を言ってるが、

 本音は武力を持って京を制圧して、

 天子を長州に動座して、

 攘夷倒幕を実現化させる。


 というのが本当の狙いであった。


「これは何としても出陣すべきだな」


「だが権藤さん、そんな甘い話じゃないよ」


とし、何が甘くないのだ?」


 権藤の問いに聖が理路整然と答えた。


「この間の池田屋は、言わば数十人程度の争い。

 だからオレ達、神剣組しんけんぐみの見せ場もあった。

 だが今回は数百、数千人に及ぶ戦いだ。

 そんな中じゃオレ達の出来る事も限られている」


「でも出陣しない訳にはいきませんよね?」


さとる、その通りだ。

 敵の狙いは天子、ここで動かねば、

 神剣組の評判はぐっと下がるであろう。

 だが出陣したとしても、大きな戦果は挙げにくい。

 だから今回の戦いに関しては、

 我々はあまり派手に動く必要はないと思う」


 聖はがくはないが、

 物事の本心を見据える先見性は持っていた。


 普段は無愛想で言いたい事を言うが、

 彼のこういう一面が隊士の信頼を得ていたのであろう。


としの言う事は間違ってないだろう。

 いや正しいであろう、たが今回の戦いは、

 云わば、天子をかけた戦いなのだ。

 天子を護る為ならば、俺はいくらでも鬼になるし、

 お前さんがたにも「死ね」と命じるだろう。

 恐らく利のある戦いにはならないだろうが、

 神剣組の名が廃るような真似は出来ん。

 皆、その事を胸に刻んでおいてくれ」


 局長のこの言葉に、

 聖をはじめとした他の組長も無言で頷いた。


 聖もまた正しいが、権藤もまた正しい。

 そして各組長も局長と副長と同じ気持ちであった。


 それから数日後、

 長州藩兵が次々と伏見に入り始めた。


 伏見、嵯峨、山崎に陣取った長州軍は、

 文久四年(聖歴1758年)10月18日の夜に進軍を開始。

 翌日の19日から戦闘を開始。


 後に「禁門の変(蛤御門はまぐりごもんの変)」と呼ばれる戦いである。

 長州軍は、薩摩、会津、大垣、越前などの諸藩軍と各御門で激戦を繰り広げた。


 そして神剣組もこの戦いに正式に参加。

 またリーファ達もこの戦いに参加するか、どうか。

 寺田屋の二階に集まり、議論を交わしていた。


次回の更新は2025年8月20日(水)の予定です。


ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、

お気に召したらポチっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

宜しければこちらの作品も読んでください!

黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
神剣組も大きな戦には躊躇しつつも、手柄を狙ってますね。  史実とフィクションを織り交ぜており、歴史を知ってても楽しめます。  リーファたちはあまり活躍しませんが、これはこれで面白いですね。  ではま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ