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第三百五十四話 躍進と足踏み



---三人称視点---


 凡そ、一刻(約二時間)に及んだ池田屋事変は、

 後から調べた結果、長州及び神剣組しんけんぐみの双方に

 少なからずの被害を出す結果となった。


 神剣組しんけんぐみは奥沢栄助、安藤、新田らが重傷の後に死亡。

 池田屋に乗り込んだニャガクラ組長は、数カ所を負傷。

 東堂平助とうどう へいすけも額に傷を負い、重傷。


 一方、攘夷派志士は、

 十七名が戦死、更にに十数名が捕縛された。


 だが、桂小次郎かつら こじろうをはじめとする池田屋に居た十名余りの長州藩士が京から姿をくらました。

 しかし結果的には、神剣組の大手柄となった。


 局長の権藤ごんどうと副長の聖は、

 無事な隊士を引き連れて、意気揚々と壬生みぶの屯所まで凱旋した。


 聖隊ひじりたいの到着がもう少し遅ければ、

 局長の権藤及び他の隊士もこのように無事ではなかったであろう。


 局長の権藤は、戦果を上げた隊士達を、

 壬生屯所の大広間に集めて、勝利に酔いしれていた。


「幾人かの死傷者が出た事は残念だが、

 厳しい状況の中、皆、本当によくやってくれた。

 我々――神剣組の力でこの京の街を護る事が出来た。


 副長の聖を初めとした各組長も無言で権藤の言葉に耳を傾けた。


「しかしとし聖君ひじりくんを初めとした

 数名の隊士は、裏庭で無駄の戦いをしてしまったな。

 まあ終わった事をこれ以上、とやかく言うつもりもないが……」


権藤局長ごんどうきょくちょう、まるっきり無駄な戦い。

 という訳ではありませんでしたよ。

 あの南蛮人の連中は、かなり強かったですよ。

 さとるは勝ったが、左之助さのすけ

 そしてこの俺もあの西洋の女剣士に負けてしまった。

 あの連中の狙いは、今は分からんが、

 状況次第でまた戦う。

 あるいは手を取り合って、共闘する。

 という未来もあるかもしれない。

 そういう意味じゃ連中と一戦を交えたのは、

 決して無駄ではなかろうよ」


「……俺はとしの勘を信じるよ。

 何度も言うが、お前さんの勘は当たるからな」


「そりゃどうも!」


 そこで権藤が「コホン」と咳払いした。

 少し緩まった空気を正すように、美辞麗句を並び立てる。


「これで我々の力を幕府や周囲の者に示せただろう。

 今回の事で幕府から、俺達にも何らかの報償や地位が与えられるだろう。

 だが俺はそんな物では満足しないぞ。

 俺は――この局長きょくちょう・権藤の狙いはもっと高見にある。

 俺はいずれ大名になってみせるぞ!」


 これは大言壮語もいいところであったが、

 隊士達も場の空気を読んで、

 異論などを挟まず、局長の次の言葉を待った。


「今までなら只の大言壮語と言われただろう。

 だが我々の今夜の活躍ぶりを見れば、

 幕府も御所も我々の見方と評価を改めるだろうさ。

 その為には更に武勲を上げる必要がある。

 だから隊士全員が一丸となって、

 この局長・権藤をおとこにしてくれっ!」


 この言葉には周囲の隊士も大いに湧いた。

 大名など今まで考えた事もなかったが、

 今の権藤、そして今後の権藤の活躍次第では、

 絶対にあり得ない話ではない。

 と思うと、隊士達のやる気も自然に向上した。


「本当は祝杯でも挙げたい気分だが、

 明日以降、色々と忙しくなるだろうから、

 今夜は皆も大人しく床へ就け。

 私からは以上だ、ではこれにて解散する」


 こうして神剣組は、

 この池田屋事変をきっかけとして、

 この京でも大きく名を挙げて、躍進する事となった。


 この池田屋事変によって、

 神剣組の雷名は京の至る所に轟いたが、

 それによって、長州藩だけでなく、

 神剣組を管理する京都守護職(会津藩)。

 また幕府、御所辺りも騒がしくなり始めた。

 

 そして事件から数日後。

 幕府から京都守護職に対して感状かんじょうが下された。

 

 それと同時に神剣組に対して、

 報償の金子きんすが送られた。


 ここまでは権藤も聖も素直に喜んだ。

 だが感状の最後に書かれた文を読むと、

 権藤や聖だけでなく、他の組長も表情を強張らせた。


 感状の終わりに幕閣から、

 神剣組の局長に対して「与力よりき上席」

 とする旨の内示が記されていた。


「……与力よりき上席か」


「天下の神剣組の局長も舐められたもんだな」


 聖は不機嫌さを隠さず、そう愚痴を溢した。


「……与力よりきか」


「局長、まさか受けるつもりじゃないでしょうね?」


 と、沖田が釘を刺すが、

 権藤もこの扱いには大きな不満があったようで――


莫迦ばかを言え。

 俺の目標は大名、しかも攘夷大名だぞ?

 与力如きで満足する程、俺の欲は浅くはない」


「それを聞いて安心しましたよ。

 それにしても幕府は、我々を軽んじているようですね」


「悟の言う通りだ。 与力は形式的には直参だが、

 地付役人で一代限りのもの。

 その上、将軍に拝謁の資格すらない下士に過ぎん。

 軍人というよりかは、純警察官扱いだな」


 そう言う権藤の声は不機嫌そのものだ。


「神剣組は幕府御用達の警察官である。

 ……てか、俺達も随分と舐められたものだ。

 だがこれが今の俺達の立ち位置なのかもな」


 聖がそう言って、虚空を見据えた。

 幕府からの警察官扱い。

 その事実に聖も権藤、沖田等も立腹した。


「警察官ではなく軍人であるべきだ。

 と、私個人はそう思います」


 沖田の言葉に聖と権藤が相槌を打つ。


「まあまだ焦る必要もなかろう。

 時が来ればそれ相応の扱いと舞台も整うだろうさ。

 それまで副長の俺が局長を全力で支える」


「歳、期待してるよ」


「だから聖君、と呼んでくれ」


 こうして神剣組の名を、

 京の至るところに知らしめたが、

 彼等が望む地位と役割はまだ与えられそうになかった。


次回の更新は2025年8月16日(土)の予定です。


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