第三百五十二話 壬生の狼(後編)
---三人称視点---
神剣組の副長・聖歳三。
神剣組の実働部隊を束ねるのは、
局長の権藤勇ではなくて、副長の聖である。
剣の腕はムラッけが強くて、
神剣組の最強論争では一番に名が上げられる事は少ないが、
幹部達の剣の流派――天蓮理心流を使う古参者でもある。
久々の実戦の一騎打ち。
相手は西洋の白人の美女。
このシチュエーションは、聖の闘志と欲望を燃え上がらせた。
次第に聖の集中力が高まり、
これまでの戦いでもレベルの高い動きを見せていた。
一方のリーファは、少し追い込まれていた。
リーファの戦闘力の高さは、
先のガースノイド戦役で立証済みだが、
今回のような極東の島国。
その島国の中でも知名度の低い流派――天蓮理心流。
だが天蓮理心流は実戦的にも適しており、
その数ある剣の技も理論的に確立されたものが多い。
リーファは確かに高レベルの剣の使い手だ。
だが彼女が本格的な剣術指導を受けたのは、
十歳から十四歳の間ぐらいの期間だ。
リーファの剣術の才能は、
常人と比べたら、かなりのレベルではあったが、
神剣組のような本格派の剣客集団相手だと、
少しばかり厳しかったようだ。
神剣組の隊士達は、
自身の流派に加えて、自己鍛錬。
更に実戦で磨き上げた剣の使い手だ。
そしてその剣客集団の中でも、
副長の聖、局長の権藤、一番隊の組長の沖田の剣の腕は、
他の剣士や剣客と比べても、かなりのレベルに達していた。
――これは剣の勝負では厳しいわね。
――細かい原理は分からないけど、
――この聖という男の剣は、
――実戦向きの必殺剣。
――このような男相手に正面で戦うのは危険。
――ならば私の得意の魔法を加えた乱戦に持っていくわ。
「――『零の鼓動』」
リーファはここで職業能力・「零の鼓動」を発動させた。
これで彼女は一定時間、
無詠唱で魔法を使用出来るようになった。
「ほう、また何やら技を使ったようだな。
これは用心した方が身の為だな」
聖はそう云うと、刀の切っ先を下に向けて、身体側に沿わせる。
相手の攻撃を受け成して、
反撃を狙う構え――山陰の構えを再び取った。
――ここは多少強引でも攻めるのみ!
リーファはそう胸に刻み込んで、
左手を前に突き出して、
初級火炎属性魔法「フレイム・ボルト」を連射した。
リーファの左手から炎雷が次々と連射されるが、
聖は慌てる素振りを見せず――
「――炎の力っ!」
と、短く言葉を発する。
すると彼の持つ刀の刀身が炎に覆われた。
原理的には、魔法剣士の付与魔法とほぼ同じであった。
そして迫り来る炎雷を炎に覆われた刀で斬りつけた。
瞬間的にレジストを起こして、
飛び交う炎雷を次々と吸収していった。
「なっ……付与魔法させた状態で、
飛び交う炎雷をレジストさせていくとは……」
「ふふっ、貴様等、西洋人が本土でどのように戦うかは知らんが、
我等も剣術の技や魔術の類いは、
このように普通に使えるぞ。
俺達を只の東洋の島国の野蛮人、とでも思ったか?」
細かい部分は何を云っているかは分からないが、
ニュアンス的に「俺を見くびるな」と云っているのは、
何となくリーファも理解出来た。
リーファは僅かに後ろに下がった。
そして再び左手を前に出して、
初級光続映魔法「ライト・ボール」を解き放った。
威力は中程度、その変わり速度は最高速度に設定。
再び聖が刀を構えて、迎撃態勢を取るが、
その前に放出した光の球を空中で飛散させた。
「ぬ、ぬっ……目くらましかっ!?」
近距離で光を浴びた聖が左手で顔を覆う。
単純な戦術であったが、
不意を突かれると、意外と上級者相手にも通用する。
というのは西洋だけでなく、
東洋の島国でも同じであったようだ。
「――予測眼っ!」
リーファはここで予測眼を発動。
すると左眼は正常のままだったが、
右眼に異変が起きた。
リーファの右眼に聖が後ろに飛び交う映像が見えた。
流石の聖も咄嗟には、反撃出来ないようだ。
それと同時にリーファは素早く前へ出た。
リーファの右眼には、
聖が左手で左眼を押さえながら、
右手で刀を水平に振る映像が見えた。
そこでリーファは左にサイドステップした。
そこから左構えの状態で、身体を内側に捻り、
渾身の左ボディフックで聖の右脇腹を強打。
「ご、ごはぁぁぁっ!!!」
リーファの会心の肝臓打ちが炸裂。
聖は剣の達人だが、身体の構造はリーファ達と同じ。
それ故に身体をくの字に曲げて、軽く嘔吐いた。
そこでリーファは左構えの状態で、右手に聖剣を持ったまま、
身体を内側に捻り、左拳を真っ直ぐに前へ突き出した。
「が、がはぁぁぁっ!?」
無駄のないフォームから、
左ストレートが聖の顎の先端に命中。
これで聖の身体は、再び硬直状態となった。
そしてこの好機を逃すリーファではなかった。
「――ここで決めるわっ!
行くわよっ! ――戦乙女の舞っ!!」
リーファはそう技名コールして、聖に接近した。
剣で勝てないなら、魔法や能力を使い、
状況に応じては、素手の体術も使う。
これがリーファが先の戦い。
また義妹のマリーダ相手に学んだ実戦の経験だ。
聖もかなりの剣士ではあったが、
リーファのようなありとあらゆる連続技を
使用してくる者との戦いは未経験であった。
それがこの戦いにおいては、功を奏した。
そしてリーファの戦乙女の舞が発動した。
次回の更新は2025年8月9日(土)の予定です。
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