第三百四十八話 シュバルツ元帥対十番隊組長(中編)
---三人称視点---
「「……」」
お互いに斧槍と十文字槍を構えながら、
間合いを計りながら、摺り足で進む二人。
シュバルツ元帥は、
原口左之助の十文字槍を、
原口左之助は、
シュバルツ元帥の斧槍の形状に目を瞠る。
――あの槍は西洋で言うところのランスだな。
複雑な形状が示すとおり攻撃のバリエーションが豊富で、
突けば槍、払えば薙刀、引けば鎌と喩えられている。
また枝刃を防御に使うなど、工夫次第で多彩な戦法が取る事も可能だ。
――だがどんな武器も使用者の腕次第だ。
――まずは此奴の技量を測ってみるか。
「――疾走っ!」
まずは定石通り、走力を強化て、
両手で魔槍レオルバーシュの柄をしっかり握り、
両足で地を蹴って、間合いを詰める。
それと同時に原口も両手に持った十文字槍で薙ぎ払いを放つ。
「――薙ぎ払いっ!」
「――ヴォーパル・スラストッ!」
原口もシュバルツ元帥もまずは初級スキルで相手の様子を窺った。
十文字槍の放った薙ぎ払いを、
シュバルツ元帥が繰り出した渾身の突きで弾き返した。
魔槍と十文字槍は激しく衝突して、
周囲に火花をまき散らした。
「……良い突きだ。 オレの薙ぎ払いを弾き返すとはな。
貴様のような槍使いに会ったのは、随分久しぶりだ」
「……武器の質も腕も良いようだな」
言葉が通じずとも、二人はそれぞれの感想を述べた。
お互いに相手の技量に関して、ある種の敬意を抱いたようだ。
「……ならばこれはどうだぁっ!
――二連突きっ!」
「フンッ! ――ダブル・スラストッ!」
今度は互いに突きの連打を繰り出した。
十文字槍の穂先と漆黒の斧槍の刺先が衝突するが、
勢いで勝ったのは、シュバルツ元帥の方であった。
「くっ、オレの十文字槍の突きを軽々しく返すとは……。
それにその珍しい形状の槍から物凄い魔力を感じる」
魔槍レオルバーシュの突きを受けた原口は、
後ろに二、三歩後退して、そのように言葉を紡いだ。
原口の十文字槍もそれなりの名工に作ってもらった一品だが、
シュバルツ元帥の魔槍と比べたら、
やはり一段も二段も落ちる代物であったのも事実。
この時点でシュバルツ元帥は、自分の勝利を確信した。
まずレベルと能力値で相手を上回り、
武器の質、槍の腕、各種スキル、能力も互角以上。
また先程の沖田とバリュネ大尉の戦いからしても、
沖田も原口も魔法らしい魔法は使っていない。
まあ温存している可能性はあるが、
魔法や魔力に関しても自分が勝っているだろう。
この神剣組という剣客集団は、
確かに大した剣術や槍術のスキルを持っている。
それは素直に認める。
だがその上であえて思う。
どんなに剣術などの武器スキルが高くても、
魔法を使えなければ、戦いの幅は狭まり、
魔法を使う相手と戦うと、かなり厳しい状態に置かれる。
――まあまだ魔法を使わないと確定した訳ではないが、
――オレや主はあの戦役を戦い抜いた。
――オレは主とも死闘を演じたし、
――彼女もあのマリーダ嬢と何度も死闘を繰り返した。
――だから魔法を使わなければ、
――コイツ等くらいの相手なら勝てるっ!
そう思いつつも、シュバルツ元帥は、警戒心は怠らず、
そして何処かでこの戦いを楽しんで居るようだった。
「……どうやらオレの想像以上の相手のようだな。
この原口左之助、久しぶりに血が沸き立っている。
どうせ言葉は通じんかもしれんが、あえて名乗らせてもらおう。
オレは神剣組の十番隊の組長原口左之助だっ!」
「……アレクシス・シュバルツだ」
何となくだが相手が名乗り上げている事を理解したので、
シュバルツ元帥も一応は自分の名前を名乗り上げた。
「よくは分からんが、貴様も名乗り上げたようだな。
後は言葉は要らぬ、お互いの腕で語ろうではないかっ!」
原口がそう言って、
持っている十文字槍を振り回しながら、突撃して来た。
「はあああぁっ……五月雨突きっ!!」
原口が気勢を上げて、帝王級の槍術スキルを繰り出す。
「――ミリオン・スラストッ!」
シュバルツ元帥はそう叫んで、
両手で持った魔槍レオルバーシュで突きの高速連打を繰り出した。
同じく帝王級の槍術スキル。
同じスキル技ならば、
後は使用する武器と熟練度と精度で勝敗が決まる。
お互いに突きを繰り出すが、
一撃の速度や威力ではシュバルツ元帥に軍配が上がった。
原口の十文字槍もそれなりの代物だが、
シュバルツ元帥の魔槍レオルバーシュは超一級品。
その差が明確な形で現れて、
元帥の漆黒の魔槍の穂先が原口の身体を切り裂いた。
「ぐっ……何という鋭い突きだ。
この槍もさることながら、
この成熟された突きの精度と威力が凄い!」
「……」
原口が何かこちらを褒めている事は分かったが、
シュバルツ元帥は、この単調な一騎打ちに飽き始めていた。
――そろそろ決着をつけるか。
「――空圧弾ッ!!」
シュバルツ元帥は、左手を前に突き出して、短縮詠唱で呪文を唱えた。
すると元帥の左手の平から、空気を圧縮した空圧弾が放たれた。
「なっ…!! ――風の結界っ!!」
迫り来る空圧弾に目を瞬かせながらも、
原口も自分を護るべく、風属性の対魔結界を張った。
だが彼の対魔結界では、
元帥の空圧弾を完全に防御は出来なかった。
原口の対魔結界を撃ち破った空圧弾が
原口の左肩を掠って、肩の肉の一部を切り裂いた。
すると原口は後ろに大きく跳躍して、十文字槍を構え直した。
「ほう、どうやら対魔結界は張れるようだな。
だが大した腕ではなさそうだな。
これ以上、長引かせると思わぬ逆襲を受けそうだ。
だからここからはもう容赦はせぬ。
全力で貴様を殺しに行くっ!!」
そう言って、右手に漆黒の魔槍。
左手は先程のように前に突き出しながら、
シュバルツ元帥は、冷めた口調でそう言った。
そして左手の平に魔力を篭めて、
再び左手の平から、空圧弾を放った。
「――空圧弾ッ!!」
次回の更新は2025年7月26日(土)の予定です。
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