第三百四十五話 対決! 神剣組(前編)
文久四年(聖歴1758年)10月8日の夜二十三時過ぎ。
神剣組による池田屋への討ち入り。
後に言われる「池田屋事変」は見事に成功にした。
本来ならばこれ以上、
無駄な血が流れる事はなかった。
だが一番隊の組長の沖田悟が池田屋の女中を斬ろうとしたので、
リーファ達はそれを止めるべく、
神剣組の副長と各組長の前に立ち塞がった。
そして彼等と剣を交える事となった。
正直、無意味な戦いとは思うが、
ここで神剣組と剣を交わす事によって、
彼等の事を知る良い機会かもしれない。
という理由からリーファ達は剣を抜く事にした。
丁度数的に四対四だ。
こちらもリーファ、アストロス。
シュバルツ元帥とバリュネ大尉という顔ぶれ。
神剣組相手にも引けを取らない自負がある。
とりあえずまずは私が戦おう。
とリーファが前に数歩進むと、
彼女の前にバリュネ大尉が立ち塞がった。
「リーファさん、ここは大事な初戦。
まずは私が先に戦うので、
彼等の剣の癖などを見抜いてください」
「……分かったわ」
とりあえずここはバリュネ大尉の言葉に従うリーファ。
リーファはあのガースノイド戦役を戦い抜いた歴戦の勇者だが、
目の前の剣客集団の力量を測りたかったので、
ここはバリュネ大尉に先鋒を任せる事にした。
バリュネ大尉は白い仮面をつけ、黒い軍服姿で、
右手に白金のサーベルを握っていた。
「ほう、相手もやる気のようだな。
ならばここはこの原口左之助が――」
「原口さん、ここは私が行きます」
「……沖田組長、わざわざアンタが出る事はなかろう」
「いえ、相手の力量が不明なので、
ここは私が出て、相手の力を測りたいと思います」
「……そうか、ならばここは任せよう」
「原口さん、ありがとうございます」
沖田はそう言って、右手に愛刀の加州清光を握って前へ歩み出た。
沖田も他の隊士と同じように頭に鉢金。
隊の制服である浅黄色のだんたら模様の羽織。
皮胴の下に鎖の着込みを着ていた。
「最初はアナタですか。 良かったですね!」
「……何がでしょうか?」
沖田の言葉にそう返すバリュネ大尉。
すると沖田が「ふっ」と笑った。
「アナタ方には聞きたい事がたくさんある。
でも日本語が出来るのはアナタだけのようだ。
だからこの戦いでアナタを殺すような真似はしません」
「……舐められたものですね。
ならばこちらも容赦しませんよ。
――我が守護聖獣ガーゼルよ。
我の元に顕現せよっ!!」
バリュネ大尉はそう叫んで、
自らの守護成獣を呼び寄せた。
すると彼の左肩付近に全長三十メーレル(約三十メートル)前後のカモシカが現れた。
頭部に10セレチ(約10センチ)程度の円錐形の角が生えており、
ずんぐりとした体型に、黒褐色の毛色という見た目。
「……それはカモシカですかね?
なかなか愛くるしい見た目ですね。
ならば私の守護成獣もお見せしましょう。
――我が守護聖獣ピーフォーよ。
我の元に顕現せよっ!!」
沖田がそう叫ぶと、
ポンと音を立てて、彼の守護成獣が実体化した。
深い緑と煌びやかな青い目玉模様が特徴的な羽を持つ美しい鳥。
全長三十メーレル(約三十メートル)前後の雄の孔雀が沖田の左肩の上に現れた。
「雄の孔雀ですね。
成る程、だからピーフォーですか」
と、バリュネ大尉。
「名前をつけるのが面倒でしたのでね」
「まあどうでも良いです。
ガーゼル、分析をお願いします!」
「フシュッ、了解しましたっ!
では行きます。 分析開始!」
「ピーフォーッ! アナタもやりなさい」
「ホー、ホー! 分析開始っ!」
お互いに分析を開始する。
これでお互いの能力値を知る事になるが、
正直、どのような数値かは皆目見当がつかなかった。
バリュネ大尉はレベル55の騎士。
対する沖田はレベル61の剣士であった。
剣士は普通の一般職であったが、
レベル61にもなると、下手な上級職より強かった。
「大尉、分析終了しました」
「そうか、ありがとう。 ガーゼル」
分析を終えたガーゼルがそう告げる。
そしてバリュネ大尉とガーゼルの意識が共有化されて、
沖田悟の能力値が露わになった。
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名前:沖田悟
種族:ヒューマン♂
職業:剣士レベル61
能力値
力 :1815/10000
耐久力 :2350/10000
器用さ :1125/10000
敏捷 :2115/10000
知力 :1455/10000
魔力 :2425/10000
攻撃魔力:1100/10000
回復魔力:1266/10000
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『……これは予想以上の数値だな。
一般職の剣士でこの数値はあり得ない』
「大丈夫、大尉ならきっとやれるさ」
その一方でピーフォーの分析も完了した。
「ホー、ホー、分析完了です」
「ピーフォー、ご苦労様。 どれどれ……」
そう言葉を交わすなり、
沖田とピーフォーの意識も共有化された。
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名前:ジェーラ・バリュネ
種族:ヒューマン♂
職業:騎士レベル55
能力値
力 :1300/10000
耐久力 :1950/10000
器用さ :978/10000
敏捷 :1555/10000
知力 :1155/10000
魔力 :2025/10000
攻撃魔力:845/10000
回復魔力:2035/10000
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「ほう、これは驚きました。
かなりの数値ですね、いやいや大したものだ。
だが私の方が強いっ!!!
ピーフォー、魂連結ですっ!」
「ホー、ホー、連結開始!!」
尚、魂連結とは、
リーファ達の地域で云うところの「ソウル・リンク」と同じ現象だ。
そして沖田とピーフォーの魔力が混ざり合い、
沖田の能力値と魔力が急激に跳ね上がる。
『くっ……ガーゼル! 『ソウル・リンク』ですっ!!』
「了解、リンク・スタートォッ!!」
これによってバリュネ大尉とその守護聖獣の魔力も混ざり合う。
そしてバリュネ大尉の能力値と魔力も急激に跳ね上がった。
これで条件的には五分五分となったが、
やはり能力値の差が気になるところだ」
「ええ、我は汝、汝は我。
女神サーラの加護のもとに……『自動再生』!」
バリュネ大尉が咄嗟に呪文を唱えると、
彼の身体が目映い光に包まれた。
これでバリュネ大尉は自動治癒の魔法効果を得た。
「――ハイ・ディフェンダー」
更に職業能力「ハイ・ディフェンダー」を発動。
これによってバリュネ大尉は、
力が低下する代わりに、耐久力が急激に上昇した。
だが沖田はあくまで冷静であった。
慌てる様子もなく、余裕ありげに悠然と言葉を紡いだ。
「動きにも無駄がありませんね。
これなら良い稽古になりそうです」
稽古と云われて、
バリュネ大尉も思わず表情をしかめたが、
沖田は悠然とした態度で、
愛刀の加州清光を構えてこう言い放った。
「それでは神剣組の一番隊組長の力をお見せしましょう!」
次回の更新は2025年7月12日(土)の予定です。
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