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第三百三十九話 神剣組、動く(前編)


---三人称視点---


 文久四年(聖歴1758年)10月4日

 リーファ達は、将軍と老中ろうじゅうに命じられた通り、

 神剣組しんけんぐみ坂本龍牙さかもと りょうがの監視を続けたが、

 双方とも特に何か怪しい動きをする事はなかった。


 だが神剣組しんけんぐみの局長である権藤勇ごんどう いさみは内心焦っていた。

 せっかく神剣組しんけんぐみという組織を作る事が出来たが、

 やっている仕事と云えば、市中の見回りばかりであった、


 将軍である徳澤家茂とくざわ いえもちを護衛する事が主目的だが、

 将軍警護の為に、副長のひじり山縣やまがたは、

 隊士を率いて大阪に遠征したが、

 そこで山縣が後遺症が残る重症を負って、

 山縣は屯所の部屋に一人で引き籠もる時間が増えた。


 ――このままでは我々は只の見回り隊に過ぎぬ。


 と、局長の権藤ごんどうが憤慨してる時、

 京に多数の長州人ちょうしゅうじんが潜伏している事が判明。


 ――これだ、この好機を逃す訳にはいかぬっ!


 そして権藤は、観察方に命じて、

 それらの長州人や京の街に居る怪しい連中の動向を追わせた。


 だが観察対象が思いの他、

 多くて観察部外の隊士も監視に参加するようになった、


 その中には副長である聖歳三ひじり としぞう

 そして一番隊の組長の沖田悟おきた さとるの姿もあった。


 聖と沖田は一緒になって、

 「枡屋ますや」という道具屋を近くの町屋から見張っていた。


 見張りは彼だけではなかった。

 監察部の山崎進やまざき すすむを初めとした監査部の隊員も

 薬売りなどに変装して、周囲を嗅ぎ回っていた。


 副長助勤の原口左之助はらぐち さのすけも「枡屋ますや」の近くの町家を借りて、

 路上を行き交う人々を見張っていた。


 だが聖も沖田も本来の姿は剣客。

 それ故にこのような監視にはあまり向いてなかった。


「見回りの次は見張りですか。

 これはこれで退屈で地味な任務ですね」


 沖田がそう言うと、聖が「そうだな」と同意する。

 聖はやや長い黒髪の総髪、身長は然程、高くないが、

 手足は程よい長さ。


 見張り中なので、紺色の着流しという格好。

 そして腰に2尺8寸の刀を差していた。

 その刀こそ聖が愛用する和泉守兼定いずみのかみかねさだである。


 沖田も似たような水色の着流し姿だ。

 原田や観察部の人間も町民と同じような格好をしていた。


「しかし本当の話ですかね?」


さとる、何の話だ?」


「聖さん、決まってるでしょ。

 「枡屋ますや」の親父とそこに出入りする連中ですよ。

 京の至るところを放火して、

 数十人に及ぶ人数で御所に殴り込み。

 そこでみかどを拉致して、

 長州まで連れて行き、倒幕の義勇軍を立ち上げる。

 という話ですが、こんな事が果たして上手くいきますかね?」


「連中の頭の中ではそうなってるのだろう。

 佐幕派や勤王志士きんおうししにしても、

 一人では何も出来ないが、

 徒党を組んだ瞬間、何でも出来る。

 という錯覚に陥りやすい」


「まあ今のきょうでは珍しくない光景ですね。

 猫も杓子も攘夷や開国など叫んでいる。

 まあわたし達は、所詮良くも悪くも京の街の番犬ですが、

 そういう連中の相手を四六時中させられるのは、正直堪ったものじゃない」


さとる、愚痴を言うな。

 少し気が緩んでいるんじゃないのか? ん?」


 聖はその鋭い双眸で沖田を睨みつける。

 神剣組の鬼の副長の睨みは隊士にとって恐怖の存在だ。

 だが沖田は怯む事なく、両肩を竦めて――


「そんなに睨まないでくださいよ。

 だから聖さんは、女性にモテるようでモテないんですよ」


「馬鹿野郎、俺は普通に女にモテるぞっ!!」


「はい、はい、まあ見た目だけは美丈夫ですからね」


 沖田と聖はいつもこのような軽口を叩き合う仲だ。

 実際に神剣組隊士の大半が副長の聖を恐れていた。


 だが付き合うの長い沖田は、

 散々、聖をからかうが、激高する前にそれもやめる。


 その態度に聖は腹を立てながらも、

 この若い天才剣士のその性格を何処かで受け入れていた。


 昨年の八月に文久の政変が起こり、

 それまで権勢を誇っていた長州藩は、

 一夜にして、政界から失脚して国許くにもとに逃げ帰っていた。


 それ以降、長州藩の若者は、

 ますます過激化して、多くの志士が

 長州藩に集まり、倒幕の為に日々奔走していた。


「本当にあの枡屋ますやの道具蔵に、

 武器弾薬が貯蔵されているのか?」


「聖さん、その通りです。

 長州藩の連中は、このきょうを焼き払うつもりだ。

 僕は神剣組しんけんぐみも好きだけど、

 それ以上にこのきょうという街が気に入った。

 だからこの京を汚す奴は、この剣で斬ります」


 沖田はそう言って、腰の刀に右手を添えた。

 沖田はまだ若く少年的な感受性の持ち主だが、

 自分が愛するものが汚された時は、羅刹の如く怒る。

 そしてそれは聖も同じだ。


「これは局長――権藤ごんどうさんに報告して、

 上のお偉方の指示を仰ぐべきだな。

 だが事の顛末によっては、

 神剣組の名を京に轟かす事が可能だ。

 だから悟、お前も気を引き締めろ」


「はい、はい」


「とりあえず一度、屯所に戻って皆と合流するぞ」


「はい、はい」


「はいは一度だ!」


「は~い」


 いつものようにじゃれ合う聖と沖田。

 だが内心では二人とも凄く興奮していた。


 そして彼等が主役となる舞台がもうすぐそこまで迫っていた。


次回の更新は2025年6月21日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 沖田がいいキャラしてますね。 こうやって一人一人、神剣組のメンバーの魅力を見つけて行きて〜って思ってます。 聖も強いのが確定してますし、戦闘が楽しみです!!
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