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第三百三十五話 波瀾含み


---三人称視点---



 神剣組しんけんぐみの二番隊のニャガクラ組長の剣裁きに、

 リーファ達でなく、周囲の野次馬も閉口していた。


 だがその中でも佐幕派の志士は、

 早く立ち直って、沖田悟おきた さとるとニャガクラ組長に近づいた。


「流石は神剣組しんけんぐみの二番隊の組長。

 見事な剣裁きでした」


 ざんばら髪の佐幕派の志士がそう媚びを売るが、

 沖田悟おきた さとるは、拒絶する冷たい声で一蹴した。


「アナタ方もこれ以上の戯れはお止しなさい。

 ここは花のみやこきょう、つまらない論争や争いなどは止めて、

 この美しい街の景色に酔いしれる。

 その方がずっと有意義ではありませんか?」


「は、はい……」


「見物人の方々も見世物は終わりです。

 さあ、さあ、散って! 仕事や食事に戻りなさい」


 沖田の言葉に周囲の野次馬達も興が削がれたかのように、

 周囲に拡散していった。


神剣組しんけんぐみ」は京では嫌われ者と聞いてましたが、

 あの沖田という男は、噂とは少し違う人物ですね」


 リーファが思った疑問を口にすると、

 バリュネ大尉がそれに受け答えた。


「ええ、神剣組しんけんぐみは、あのニャガクラ組長を

 初めとした腕に覚えのある剣客集団けんきゃくしゅうだんですが、

 その中でも一番隊の沖田悟は少し毛色が違う男です」


「具体的にどう違うのでしょうか?」


「リーファさん、貴方もごらんになったでしょ?

 凄腕の剣客なのに、剣を抜かずして志士達と野次馬を

 見事に追い払った。 常識があるように見えて、

 「神剣組しんけんぐみ」の実働部隊を統括する副長。

 聖歳三ひじり としぞうには軽口を叩いてからかう。

 などとつかみ所のない男なんですよ」


「成る程……」


 バリュネ大尉の言葉を聞いて、

 リーファは視線を前方の沖田が立つ場所に向けた。

 その刹那、沖田と一瞬視線があった。


「!?」


 僅かの時間であったが、

 視線が合った瞬間、沖田の視線が鋭くなった。

 リーファはそう感じた。


「……リーファさん、そろそろ我々もこの場から去りましょう」


「ええ、大尉。 そうしましょうか」


 そしてリーファ達も踵を返して、この場を後にした。

 沖田はその後ろ姿を目で追う。


「沖田くん、どうかしたニャン?」


「ニャガクラ組長。 

 あちらの外国人の集団に見覚えはありますか?」


「ニャ? 見覚えはニャいけど、

 それがどうかしたのかい?」


「一見すれば外国から旅行者に見えるが、

 あの金髪の女性や褐色肌の槍持ちの男は、

 武人独特のオーラを解き放っています」


「ニャー、言われてみればそうかも?

 じゃあ沖田くん、彼女等に尾行をつけよう。

 そして彼女等のねぐらが分かれば、

 監察の山崎に命じて、監視させれば良いと思うニャ」


「はい、そうしましょう」


 そして神剣組しんけんぐみは、四名ほどの隊士を尾行につけたが、

 途中でバリュネ大尉が気付いて、

 上手い具合に尾行を巻いて、逃げ失せた。


 リーファ達と神剣組の最初の邂逅かいこうは、こうして終わった。



---------


「あら、皆さん。 おかえりなさい」


女将おかみさん、ただ今帰りました」


「大尉さん、夕食の準備は出来てるので、

 いつでも食堂に足を運んでください」


「はい、小休止したら食堂へ向かいます」


 バリュネ大尉は女将おかみのお登勢とせと軽く言葉を交わして、

 二階の自分達の部屋へと向かった。


「少し話がしたいので、五分後に私達――男部屋に来てください」


「はーい、了解したよん」「了解です」


 そして五分後、身支度を終えたリーファ達は、

 バリュネ大尉達が居る男部屋へ向かった。


「では皆さん、お入り下さい」


 男部屋はそこそこの広さだが、

 流石に一度に十人が入ると手狭に感じたが、

 そこはあえて全員が我慢していた。


 とりあえず各自、楽な体勢で畳の上に座り、

 視線をバリュネ大尉に向けた。

 するとバリュネ大尉は声のトーンを下げて語り出した。


「先程も申し上げましたが、

 途中から神剣組の隊員に尾行されてました。

 まあ皆さんの協力のおかげもあって、

 上手く巻けましたが、今後は気をつけた方が良いですね」


「ピョン、しかしなんで神剣組は、

 ボクらに尾行をつけたんだろう?」


「分かりません、ただ我々は見ての通り

 異国の人間、それが十人も居たら、

 このきょうの街では目立つのも当然。

 ですので今後は多人数で外へ出るのは控えた方がいいかもしれません」


「バリュネ大尉の言う事も一理あるわね。

 見た感じ神剣組の一番隊の沖田という男は、

 剣術だけでなく、そこそこ頭がキレそうよね。

 だからあーし等の事が気になって尾行をつけた。

 というのが向こうの思惑かもね」


「私もロザリーさんと同じ意見ですね。

 バリュネ大尉、神剣組には諜報部のような

 情報収集及び密偵などは居るのでしょうか?」


「リーファさん、結論から言えば居ます。

 しかもなかなか優秀ですね。

 彼等は監察方かんさほうと呼ばれています。

 ロザリーさんが言うように、

 沖田という男は頭もキレます。

 恐らく今日の出来事で我々の事を認知したでしょう。

 ですので今後は警戒した方が良いと思います」


「ふうん、噂と違って、只の剣術バカではないみたいね」


 と、ジェインが思ったままの意見を述べた。

 するとバリュネ大尉がコホンと咳払いして――


「ええ、彼等は只の剣術バカではありません。

 がくはないでしょうが、

 野生の獣のような独特の嗅覚や勘を有した剣客けんきゃく

 なので今後は皆さんも色々と用心してください」


 バリュネ大尉の言葉にリーファ達は大きく頷いた。

 その時、一階から女将の――


「皆さん、そろそろ夕餉ゆうげを取りませんか?」


 という声が聞こえてきたので、

 リーファ達はその言葉に素直に従い、一階の食堂へ向かった。


次回の更新は2025年6月7日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 沖田悟、まだその実力は不明ですがかなりの実力者ではありそうですね。 神剣組は揃いも揃ってそこが知れない人物ばかり。 まだ局長も副長も噂しか聞きませんが、登場するの時が楽しみです!…
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