第三百三十二話 上洛
---三人称視点---
船に乗る事、数時間。
リーファ達は、港湾都市の堺に到着した。
堺には元々港があり、
漁港から発展した港町があった。
そこに各地から商人達が集まり、商業町となっていった。
このジャパングの戦国時代の覇王。
織田信長は、この港に目をつけて、
税収拡大の為に、南蛮貿易を活性化して、
堺という港町を発展させていった。
その背後で西洋列強によるサーラ教の布教が広まっていったが、
織田信長という人物は非常に狡猾で、
海外の情報、武器、交易品を得る為に、
宣教師やサーラ教を利用していた節がある。
そのような背景がありつつも、
港湾都市としての利点を生かして、
堺はジャパングの西部でも一、二を争う港町となったという時代背景がある。
「意外と西洋人の姿も多いわね」
港町の堺を歩きながら、そう言うリーファ。
「ええ、かつてはこの街の周辺にサーラ教が布教されていたようです」
と、アストロス。
「まあ辺境の異国を攻める時は、
宣教師を連れて、サーラ教を広める。
というのはアスカンテレス王国だけでなく、
他の国もやってきた事だしね」
と、ロザリー。
「ここから京まで馬車移動なの?」
「そうですよ、ロミーナさん」
と、バリュネ大尉。
「京での宿泊先はどうするんでしょうか?」
「エイシルさん、とりあえず京にある船宿か旅籠で
過ごすつもりですが、宿賃の方は総領事や本国の政府が
負担してくれるので、その辺は心配無用です」
「フウン、ホテルでなくて、
ジャパングの宿に泊まるんだね」
「ラビンソンくん、この国の宿を侮ってはいけないよ。
細かいところまで気を配ってくれるし、
宿の部屋も清潔、食事も質素だけど美味しいのよ」
ロザリーがそう言って、ラビンソンを窘めた。
「フウン、それは楽しみだピョン」
「とりあえず馬車を見つけましょう。
細かい話し合いは、京の宿へ着いてからにしましょう」
この場はリーファの言葉に従い、
バリュネ大尉とロザリーが馬車の御者と交渉して、
上洛する為の馬車を四台確保した。
一台目にリーファ、ロザリー、ロミーナ。
二台目にシュバルツ元帥、ジェイン、ミランダ。
三台目にラビンソン、エイシル。
四台目にバリュネ大尉とアストロス。
という組み分けで、馬車の座席に座り、
馬車に揺られながら、堺の街を後にする。
堺から京までは結構距離があり、
何度か馬車を乗り換えて、
馬車に乗ること数時間。
リーファ達を乗せた数台の馬車は、
夕方の十六時過ぎに京の伏見の船宿・寺田屋に到着した。
船宿・寺田屋は、そこそこ広くて、
部屋数もそれ相応で、掃除が行き届いていた。
外から観る分にも質素ながらも、
親しみやすい雰囲気を醸し出していた。
「バリュネ大尉、ここがあーし等がこれから世話になる宿なの?」
「ええ、そうです。 見た目も内装も普通ですが、
従業員は真面目で気立てが良い者ばかり。
食事も質素ながら美味に物が多い、との話です」
「ふうん、じゃあ問題ないか。
とりあえずもう中へ入っていいかな?」
「少しお待ち下さい。
私が中に入って女将に話をつけます」
「そうだね、じゃあお願いしますわ」
「ええ」
ロザリーと言葉を交わして、
バリュネ大尉は宿の中へ入った。
それから待つ事、約五分。
バリュネ大尉が再び入り口から、
顔と身体を覗かせて、リーファ達に右手で手招きする。
拒否する理由もないので、
大尉と一緒にリーファ達は寺田屋の中へ入る。
するとヒューマンの中年女性がこちらに寄って来た。
「皆様、初めまして!
わたしがこの寺田屋の女将のお登勢です。
そちらの大尉さんから詳しい事情を聞き、
高額の前金を頂いたので、
宿代や食事代の心配はなさらずに、
どうか自分の家と思ってくつろいでください」
流暢な日本語でそう喋る女将のお登勢。
見た目は特別美人ではないが、
身に纏った黒い着物がとても似合っており、
気立ても性格も良さそうだ。
とりあえずロザリーがお登勢の日本語を
エレムダール大陸の共通言語に翻訳して、リーファ達に伝える。
だが翻訳されたとして、
言葉も喋れないリーファ達に出来る事は限られている。
なのでこの場はロザリーとバリュネ大尉の言葉と指示に素直に従った。
「お龍、お客様を二階のお部屋に案内して!」
「はい」
女将がそう言うと、
二十過ぎの髪を美しく結い上げた藤色の着物が似合う女性。
寺田の仲居の一人であるお龍がリーファ達を部屋に案内した。
「こちらがお部屋となります。
何かあれば、遠慮無くお声がけしてください」
「お気遣いありがとう。
ではロザリーさん、リーファさん。
男女別々の部屋に別れましょう」
と、バリュネ大尉。
「うん」「はい」
そしてリーファ達は二階の部屋で、男女別々に別れた。
二階の階段付近の部屋には、
リーファ、ロザリー、エイシル、ロミーナ、ミランダの五人。
その右隣の部屋には、
バリュネ大尉、アストロス、シュバルツ元帥。
ジェインとラビンソンという組み分けになった。
リーファ達は、とりあえず背中に背負ったバックパックを
部屋の押入れの襖襖の奥へしまい込んで、
武装を解いて、軽装となった。
「おお、夕空が綺麗だね」
二階の窓から見える夕空は、何とも言えない美しさであった。
リーファもロザリーの右隣に並んで、夕空を一望する。
「遠い異国でも夕空は同じ色なんですね」
「まあね、ここも同じ世界――ハイルローガンさ」
「ここにしばらく滞在する事になるんですね」
「うん、でも急にこんな場所に来ても、
リーファちゃん達もいまいち実感が沸かないでしょ?
だから見物がてらに京の街を軽く歩いてみようよ」
「それは名案ですね! 皆も良いわよね?」
リーファの言葉に他の者も「はい」と返事した。
それから隣の部屋へ行き、
バリュネ大尉にも同じ趣旨を伝えた。
すると彼等も快く同行に賛成してくれた。
「良し、じゃあ服装も身軽にして、
武装も腰帯に武器一つだけ携帯して京の街へ行くよ」
こうしてリーファ達は、
仲間と共に京の街の散策に繰り出した。
次回の更新は2025年5月28日(水)の予定です。
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