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第三百二十八話 領事館(後編)



---三人称視点---


 ヨコハマ・ホテルの三階の奥の部屋の前。

 そこでリーファ達は、もう一人のボディガードに武装解除を命じられた。


 とりあえず携帯していた剣や手斧や杖の類いを一時的に、

 ホテルの荷物持ち(ポーター)に保管してもらう事となった。


 仮にもリーファ達は特使だが、

 話に聞く限り、このジャパングでは領事館絡みで、

 トラブルが続いているようなので、

 ここは何も言わず、彼等の言う通りにした。


 そして待たされる事、五分余り。


「……領事の了承を取りました。

 どうぞ、部屋の中へお入りください」


 手前のボディガードがそう言って、

 ドアのノブを回して、室内が露わになった。


「……失礼します」


 ロザリーはそう言って、部屋の中へ入る。

 その後を追うようにリーファ達もロザリーの後ろを歩く。


 部屋に入ると、地上を一望できる大きな窓が広がっていた。

 その窓の近くに黒い軍服姿の軍人らしき男性ヒューマンの姿も見えた。


 シックな雰囲気の内装に、

 とても高そうなソファーにテーブルや椅子が置かれている。


 離れた所に置かれた本棚には、たくさん本が並んでいて、

 更にアスカンテレス王国の国旗も飾られていた。


 そして奥の部屋には、大きな黒檀らしき机があり、その机の奥の椅子に、

 壮年の男性ヒューマンが腰掛けていた。

 

 特別に顔が整っている訳ではなかったが、

 身につけた黒いスーツとスラックスを綺麗に着こなしており、

 その目から知性と品格が感じ取れた。


「初めまして、大賢者ワイズマンロザリー女史。

 それと噂に名高い戦乙女ヴァルキュリアリーファさん。

 私はこの横浜で総領事を務めるヴィルバム・バルジオです。

 遠路はるばる本国から、長旅ご苦労様でした。

 立ち話も何なので、どうかそこのソファか、

 テーブルの椅子に腰掛けてください」


 柔和の表情で壮年の領事がそう告げた。

 するとロザリーが――


「ではお言葉に甘えさせて頂きます。

 皆、とりあえず適当に座って頂戴」


 ロザリーがそう目で合図すると、

 リーファ達は手前にある二つの黒革のソファに座った。

 左からシュバルツ元帥、ロザリー、リーファ、アストロス。

 ジェイン、ロミーナ、エイシル、ラビンソンという並びだ。

 ソファに全員が座る余裕はなかったので、

 ミランダには、ソファの後ろで立ってもらう事にした。


 すると壮年の領事が対面の黒革のソファに腰を下ろした。

 それから右手の指を「ぱちり」と鳴らして、

 室内に居た秘書らしき二十代半ばの女性ヒューマンに、

 珈琲コーヒーと紅茶を用意させた。


 リーファ達は珈琲コーヒーや紅茶に口をつけた。

 熱さも丁度良く砂糖もちゃんと入っており、

 飲みやすかったが、獣人三人はちびちびと飲んでいた。

 どうやら彼等の舌では、まだ熱いようだ。


「では早速ですが話をさせて頂きます。

 貴方達の事は、上から話を聞かされてます。

 とりあえずこの総領事館で滞在許可証と謁見許可書を発行してから、

 この国を統治する征夷大将軍せいいたいしょうぐんが居る大江戸城おおえどじょうへ向かってもらいます。

 そこで貴方達の正式な特務が明らかになるでしょう」


「その特務内容は事前に分からないの?」


「ロザリー女史、残念ながら現時点では不明です。

 ただ今の大江戸幕府おおえどばくふは、

 政治的にも軍事的にもやや追い詰められてます。

 そしてその為に彼等は、みやこであるきょうにとある浪士隊ろうしたいを派遣しました。

 端的に云えば、幕府公認のみやこの監視及び見回り隊です。

 だがその浪士隊ろうしたいの行動がやや行き過ぎた部分がるので、

 幕府としては、その監視員が欲しい。

 ともっぱらの噂になっているので、

 貴方達がその特務を任じられる可能性は高いです」


「成る程、きょうへ行かされるのか。

 でも悪くない話でもあるね。

 やはり幕府の力は衰えているの?」


 ロザリーの問いにバルジオが「はい」と頷く。


「アーメリアの黒船の来航以降は、その衰えは顕著です。

 今では我がアスカンテレス王国以外にも

 多くの国々の使者が全国に散らばってます。

 だが日ノ本(ひのもと)の連中は、けして莫迦ばかではありません。

 むしろ我々、西洋列強を利用して、

 強い国を作ろうとしている節があります」


「まあこの状況じゃそうなるのも無理ないね。

 一つ勢力の終わりは、新たな勢力の土壌となるからね。

 幕府、そして倒幕派。

 どちらが勝つにせよ。

 その後で大きな経済及び軍事特需が来ると見ていいね」


「流石は噂に名高いロザリー女史じょし

 本国の首脳部、そしてこの日ノ本(ひのもと)に派遣された特使。

 武官、文官も同じような事を考えております。

 特にこの国はまだ大量の黄金おうごんが眠ってますからね」


「……本国の狙いはどうなの?

 幕府に加担すると見せかけて、

 戦火を広げて、武器や物資を供給して、

 幕府が所有する黄金を手際よく頂く。

 という台本を書いてるのかしら?」


 ロザリーがそう返すと、バルジオがふっと笑った。

 上品さは維持しているが、

 それは何かを企む者の笑みであった。


「まあ我々も本国から派遣された身です。

 それぐらいの事は、常に考えてますよ。

 ただこの国とこの国のたみを侮らない方が良いのも事実。

 他の諸外国と同じとは思ってはいけません。

 国民の識字率も非常に高く、

 国に仕える武官や文官もけっして愚かではないです。

 だから無理に切り崩そうとせず、

 協力すると見せかけて、

 この国の動向をじっくりと観察するのがベターと思います」


 この辺の話は事前に聞かせられた通りだ。

 確かに街も栄えており、文化度も高い方だ。

 領土の面積は、とても小さいが、

 国としてのまとまりは、高いと思うべきであろう。


「少し質問して宜しいですか?」


「はい、戦乙女ヴァルキュリア殿。

 何なりと聞いてください」


「その浪士隊ろうしたいの名称は何でしょうか?」


 するとバルジオ総領事は、

 咄嗟に表情を引き締めて、こう告げた。


「――神剣組しんけんぐみ、彼等はそう呼ばれてます」


次回の更新は2025年5月14日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
 ついに領事館に来ましたね。いったいどうなるか楽しみです。  ここから神剣組と関わるのでしょうが、序章と絡むのはまだまだ先でしょう。  ゆったりじっくりとジャパングの情景を楽しみたいですね。ではまた。
更新お疲れ様です。 遂に大きく話が動きそうですね。 神剣組の面々がとても楽しみです。 一体彼らのファーストインプレッションは良いのか悪いのか。 個人的には悪いと嬉しいですね。
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