表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

330/339

第三百二十七話 領事館(前編)



---三人称視点---



 馬車を走らせる事、十分。

 リーファ達を乗せた馬車は無事にヨコハマ・ホテルに到着。

 ロザリーは馬車の御者にそれぞれ1000文(約一千円)の運賃を払った。


 そして馬車から降りたリーファ達の前には、

 白い立派な高級宿……いやホテルが建っていた。

 銀色の屋根に白い石造りを基本とした洋風な佇まいの五階建てのホテルだ。


「ほへー、まさかジャパングにこんなホテルが建てられてるとはねえ。

 あーし等が思っている以上に、開国は進んでるようね」


「領事館があるのは、三階ですよね?」


「リーファちゃん、そうみたいだよ。

 ここからの交渉は、あーしに任せてもらえるかしら?」


「ええ、私を含め他の者は、ジャパングの言語。

 日本語にほんごでしたっけ?

 兎に角、言葉が通じない状況なので、大人しくしてます」


「了解~」


 そしてリーファ達は、視線をホテルの玄関に向けた。

 玄関には両開きの扉の上に、金色のからすの飾りがつけられていた。

 ロザリーは扉の取っ手をゆっくりと回し、

 玄関の扉を開いて、ヨコハマ・ホテルの中へ入った。

 その後を追うようにリーファ達もホテルに入る。


 ホテルの内装は、外装と同じように白を基調としており、

 調度品の数は多くないが、

 天井のシャンデリアやソファや椅子の類いのセンスは良かった。


 下手すればエレムダール大陸の各国の高級宿やホテルより、

 立派な外観と内装と言えなくもなかった。


「ごめんください」


 ロザリーが日本語にほんごでそう声を掛けると、

 近くに居た上下白いスーツとズボン姿の西洋風の青年ヒューマンが

 ゆったりとした歩調でこちらに向かって来た。


「ようこそ、ヨコハマ・ホテルへ。

 お客様、今日はお部屋をお探しですか?」


 丁寧な口調でそう言う青年ヒューマンの従業員。

 彼はエレムダール大陸の共通言語を流暢に話した。

 どうやら問題なく言葉が通じるようだ。

 

「すみません、このホテルの三階の一室が

 アスカンテレス王国の総領事館なんですよね?」


 ロザリーは共通言語に切り替えて、そう問うた。


「左様ですが、お客様。

 アスカンテレス王国の総領事館に御用なのでしょうか?」


「うん、これがアスカンテレス王国の王太子の書状と紹介状。

 一応、あーしの冒険者の証も見せておくね」


「……少々お待ち下さい」


 書状と紹介状を目にすると、

 青年ヒューマンの従業員は、奥の中へ引っ込んだ。

 恐らく上司の指示を仰いでるのであろう。


 約三分後。

 先程のヒューマンの従業員が

 白いスーツと黒いズボン姿の禿頭のヒューマンの初老を引き連れて、

 こちらに戻って来た。


 どうやらこの初老の男がこのホテルの支配人のようだ。

 彼はその切れ長の目で、

 ロザリーとリーファ達を見据えると、

 他人を安心させる笑顔を浮かべた。


「どうも、私がこのヨコハマ・ホテルの支配人を務めている

 フアン・エレペルドであります。

 そちらのお客様――ロザリー・アイベルトン様。

 そしてご同伴されている方々は、

 アスカンテレス王国の特使、という事で宜しいでしょうか?」


「そうだね、そう考えてくれて良いよ」


「では念の為に特使の皆様も冒険者の証。

 あるいは他の身分証明書をご提示頂けますか?」


「そうだね、んじゃ皆も自分の冒険者の証を出して」


 ロザリーに言われて、

 リーファ達も冒険者の証や国から授けられた書状を見せた。

 するとエレペイドが双眸を細めて――


「うむ、どうやら本当に特使のようですね。

 分かりました、ではそこの従業員ビアリが

 三階の領事館までご案内させて頂きます。

 本ホテルには、エレムダール大陸の各国のように、

 魔導エレベータがあるので、

 そちらをお使いになって、三階へお向かいください」


「では皆様、私の後について来てください」


 リーファ達もここは素直に彼等の言葉に従った。

 そして従業員ビアリの後についていくと、

 彼は一階の右奥にある魔導エレベーターの前で止まり――


「この人数だと全員乗るのは無理ですね。

 この中に魔導エレベーターをお使いになった事がある御方は居ますか?」


「はーい、あーしは世界各国で使った経験があるよ」


「では左側のエレベーターには、

 アイベルトン様が、右側のエレベーターは私が同乗するので、

 皆様、お手数ですが二組に分かれてください」


 確かに九人全員が同時に乗るのは無理だったので、

 左側のエレベーターには、

 ロザリー、エイシル、ラビンソン、ジェイン、ロミーナが乗り、

 右側のエレベーターには、

 リーファ、アストロス、メイドのミランダ。

 そしてシュバルツ元帥の五人が乗った。


「ではドアを閉じます」


 従業員ビアリは、慣れた手つきでエレベーターの開閉ボタンを押した。

 そして即座に三階へ行くボタンを押した。

 一分もしないうちに、

 魔導エレベーターは、ホテルの三階に到着。


 三階も立派な内装であった。

 調度品は最低限しか置かれてないが、

 一階同様にセンスがとても良かった。


「では今から暫定の領事館へ案内します。

 私の後について来てください」


 リーファ達は、言われるがまま従業員ビアリに後について行く。

 そして一分もしないうちに、

 三階の中央にある大きな部屋の前に辿り着いた。


「この三階そのものが暫定的ですが、

 アスカンテレス王国の領事館となってます」


「少し聞いて良い?」


「……何でしょうか?」


「何で領事館がホテルの一室なの?」


 ロザリーの言葉にビアリが「実は――」と言い、

 ここ数年におけるジャパング及び横浜港の事情を説明し始めた。


「西洋列強とこの国――日ノ本(ひのもと)の間では、

 条約に関して、お互いの意思の疎通が取れず、

 この横浜港が強引に開港されたという政治事情があります。

 西洋列強も最初は、領事館を「神奈川宿かながわじゅく」に置いてましたが、

 横浜港が居留地として目覚ましい発展を遂げ、

 「神奈川湊かながわみなと」は衰退したので、総領事館をこの横浜港に移しました。

 ただ問題もたくさんありました」


「……どんな問題があったの?」


「……開国を望まぬ原住民――日本人が各国の領事館を衝撃したり、

 あるいは特使の方への暴行などが多発しました。

 特にアスカンテレス王国は、その暴力行為の対象にされていて、

 前の総領事館も焼き払われて、

 緊急処置として、このホテルに暫定的に総領事館を移転した。

 という政治的な理由があります」


「成る程、結構色々あるのね」


「ええ、ですから当ホテルとしては、

 政治的なトラブルとは無縁でいたいので、

 お客様にも節度ある行動をお願いしたいと思います」


「うん、うん、そりゃホテル側からしたら、

 そうよね、大丈夫。 トラブルは起こさないよ」


「……この奥の部屋が領事室となります。

 では私はここで失礼させて頂きます」


「うん、案内ありがとうね。

 んじゃ皆で領事さんに会いに行くか。

 皆、それなりに覚悟を決めてね」


 ロザリーがそう言うと、

 リーファ達も近くにあった鏡の前で、

 身だしなみや髪型をチェックして、最低限の身支度を整えた。


 目の前の部屋の前には、

 黒服の大柄な肌の白い青年ヒューマンが二人立っていた。

 見た感じかなり強そうだ。

 恐らくボディガードの類いだろう。


 だがロザリーは、憶する事なく堂々とそのボディガードに声を掛けた。


「どうも、初めまして!

 アスカンテレス王国のラミネス王太子殿下から、

 特使を任されたロザリー・アイベルトンです。

 ここに王太子殿下の書状と紹介状。

 それとこれはワタシの冒険者の証です」


 すると眼前の二人のボディガードは、

 ロザリーの書状や冒険者の証を手に取って、

 穴が空くように凝視した。


「……少々お待ち下さい」


 そう言って、ボディガードの一人がドアをコンコンとノックして、

 「入りたまえっ」と言われて、部屋の中へ入った。


 否が応でも周囲に緊張感が漂うが、

 当のロザリーは、涼しい顔で鼻歌を歌っていた。


次回の更新は2025年5月10日(土)の予定です。


ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、

お気に召したらポチっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

宜しければこちらの作品も読んでください!

黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 領事館も色々と問題があったのですね。 ヨコハマ・ホテルに原住民が泊まるかはわかりませんが、安全なのは何よりです。 そして、ロザリーはかなり肝が据わっていますね。流石はエルフ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ