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第三百二十六話 東洋の島国(後編)



---三人称視点---


 翌日の聖歴1758年8月23日。

 市場や観光名所も一通り回ったので、

 リーファ達もたっぷりと楽しんだ。


 それと同時に大湾島だいわんとうにも少し飽きたので、

 スケジュール通りに、リーファ達は港でジャンク船に乗り込んだ。


 商用のジャンク船が四隻。

 護衛用にジャンク兵船が三隻。

 この合計七隻で「ジャパング」の貿易港である横浜よこはま港へ出発する事となった。


「ミンナ~、忘れ物はない~?

 自分の手荷物をちゃんと確認してねえ~」


 ロザリーに言われて、

 各自、自分の手荷物を確認するが特に異変はなかった。


「じゃあ、ミンナ。 ここからジャパングの貿易港の横浜へ

 向かうよん。 二、三日で着くと思うから、

 あまり船内ではしゃぎすぎないようにね!」


 ロザリーの言葉にリーファ達も素直に従った。

 中型のジャンク船の船内は、なかなかの広さで、

 船員や多くの搭乗者が居たが、

 やはり魔導船と比べたら、見劣りするのも事実。


 だが贅沢を言える状況でもなかったので、

 リーファ達も船内で大人しく過ごした。


 乗組員以外に多くの積み荷。

 更には武装もそれなりにしっかりしていた。


 船内に居る事にも飽きたリーファ達は、

 甲板に上がり、海風を浴びた。

 青空と海の境目を、カモメが優雅に飛び回っていた。


「綺麗な青い海ね」


 リーファは、海風でその豪奢な金色こんじきの髪を翻して、そう言った。


「うん、でも時々色んな船舶を眼にしますね」


 と、エイシル。


「だね、この国は今や群雄割拠状態が続いてるからね。

 自らの保身を望む大江戸おおえど幕府。

 その幕府を倒して、新時代を築こうとする倒幕派。

 そしてその二大勢力の背後で蠢く西洋列強。

 あーし等もぼんやりしていられないよ。

 ジャパングに上陸したら、ミンナも気を引き締めてね」


 ロザリーの言葉に、

 リーファ達も緩んだ空気を締め直した。


 その後の航海も順調であった。

 天候も良く、他国の船舶とトラブルを起こす事もなく、

 リーファ達を乗せたジャンク船の一団は、

 8月25日に貿易港である横浜よこはま港に到着した。



---------



 貿易港の横浜よこはま

 大江戸幕府おおえどばくふは、安政五年(聖歴1748年)、

 アーメリア共和国との「修好通商条約」をはじめ、

 アスカンテレス、エストラーダ、ヴィオラール、ガースノイドと修好通商条約を結んだ。

 この中で、函館、兵庫、神奈川、長崎、新潟の五港の開港が取り決められた。


 しかし神奈川宿かながわじゅくにある神奈川湊かながわみなとは通行の多い「東海道とうかいどう」沿いだったので、

 幕府は街道から外れた横浜を「開港場」とした。

 諸外国は条約と異なると強く反対したが、

 幕府は築港を進め、翌聖歴1749年(安政六年)に「横浜港」を開港した。


 諸外国は当時、領事館を神奈川宿に置いたが、

 横浜港が居留地として発展すると、

 「横浜港」開港は既成事実として受け入れられる事となった。


 リーファ達は、波止場に止められたジャンク船を下船して、

 ジャパングの大地に降り立った。


「予想に反して、西洋っぽい人の姿が見えますね」


 リーファはそう言って、周囲に視線を向ける。

 ジャパングの通常の着衣、着物を着た男女がこの国の原住民という事は、

 すぐ理解出来たが、思っていた以上に、

 西洋――エレムダール大陸の住人らしき白皙の男女の姿もちらほら見かけた。


「あれま……確かに西洋人せいようじんっぽい人が多いね。

 前に来た時は随分前だから、

 記憶があやふやだけど、これは少し異常事態だね」


「ロザリーさん、ジャパングは長年、鎖国政策を敷いていたのですよね?」


「リーファちゃん、そうだよ。

 でもヴィオラール王国辺りとは、

 何百年も前から、水面下では貿易してたけどね。

 鎖国はしていたけど、海外の諸事情は最低限得る。

 という感じで一部の例外は、ゆるしていたのよ」


「確か結構前にアーメリアをはじめとした

 西洋列強と強引な修好通商条約を結ばされたんですよね?」


 と、エイシル。


「うん、まあ前も言ったけど、

 この国は大量の黄金が眠っているからね。

 だから一度崩れ出して、西洋列強がその隙を逃すまいと、

 一気に食い込んだ、というのが定説だね」


「しかしこう言っては何ですが、

 随分と開けた貿易港ですね。

 正直、もう少し過疎地だと思ってました」


 アストロスの意見にリーファも同様の感想を抱いていた。

 東洋の小さな島国がこのような立派な貿易港を

 持っているとは、思いもしなかった。


 周囲の市場なども独特の活気があり、

 西洋の外国人相手に外国語で話すジャパングの商人の姿も珍しくない。


「ヘーイ、ソコノ外国人ノ方々。

 良カッタラ今日泊マル宿。

 アルイハ馬車ヲ用意サセテマスヨ」


 着物姿のジャパングの商人が片言の言葉で話し掛けてきた。

 髪型は独特でこの国では、丁髷ちょんまげと呼ばれていた。


「あー、悪いけど今はいらないよ。

 それよりこの横浜のアスカンテレス王国の領事館の場所を知らない?」


「あーれー、そこのお姉さん、日本語にほんご喋れるの?

 でも酷い訛りだねえ~、それに……」


 丁髷ちょんまげの商人は、

 値踏みするようにロザリーを凝視する。

 だがロザリーはこういう状況には慣れていた。


「見ての通り西洋の人間だよ。

 そして君達風に言えば「耳長族みみながぞく」だよ」


「ああ~、やっぱりそうだったのかあ。

 というかお連れさんを見ると獣人も居るようだね」


 丁髷ちょんまげの商人は、

 今度はジェインとロミーナとラビンソンを

 珍しそうに何度も眺めた。


 ジェイン達も良い気分はしなかったが、

 一応は大人しく事の成り行きを見守った。


「ふうん、何か訳ありのようだね」


「まあね、それでアスカンテレス王国の領事館の場所なんだけど……」


「ああ、うん、分かるよ。

 アスカンテレスの領事館だよね。

 でも数年前にあそこの領事館は移転したんだよ。

 今では「ヨコハマ・ホテル」の三階のフロアに領事館が

 暫定的に設置されてるよ」


「そっか、ありがとう」


「あ~、待って、待って!」


「……まだ話があるの?」


「あるよ! その「ヨコハマ・ホテル」は、

 ここから少し遠い所にあるから、

 歩いて行くのは少し厳しいよ。

 でもそんな君達にはコレをお勧めするよ!」


 丁髷ちょんまげの商人は、

 右手で近くにある二頭立ての馬車を指差した。

 馬車は西洋のものとさして変わらなかったが、

 座席は二人分くらいの広さしかなかった。


「悪くないね、でも一台で全員は乗れないね。

 良し、五台分の馬車を借りるから、

 少し運賃をまけてよ?」


「了解、勉強させてもらます」


「……その前にある程度の路銀が必要だね。

 この辺に両替所あるかい?」


「はい、はい、あそこにあるよ」


「ありがとうね」


 ロザリーは近くの両替所で、

 50万ローム(約50万円)を両替して、

 ジャパングの貨幣に両替した。


 ジャパングの通貨は、一万ローム以下が

 もんという貨幣が扱われて、

 一万ローム以上の通貨は、りょうという金の小判が使われる。


 とりあえずロザリーは、

 48両と二万文に両替して、当座のお金を準備した。


「それじゃ各自、それぞれ馬車に乗って!

 料金はあーしが払うから!」


 そしてリーファ達がそれぞれ馬車の座席に座ると、

 御者達が手綱を振って、馬車を町の中へと走らせた。



次回の更新は2025年5月7日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
 ついにジャパングに到着ですね。それほど事件は起きませんが、それだと安っぽい展開になりますしね。  じっくりとゆったりと丁寧に書かれているので、楽しみにしております。ではまた。
更新お疲れ様です。 遂にジャパングに到着ですね。 かなり長い旅路でしたが、無事に到着できたようでよかったです。 だけどまだ、旅は始まったばかりで本番はこれから! リーファ達の存在が、今の日本の正史か…
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