第三百二十四話 魔導船(後編)
---三人称視点---
その後の航海は比較的に順調であった。
魔導船「エルドラール号」の他に大型商船2隻。
護衛の戦艦2隻と共にリンド洋を超えて、
清王朝領の大湾島へ向かった。
天候が荒れる事もなく、
「エルドラール号」を含めた5隻の船は、
風や魔力、魔法の力でマレッカ海峡を突き進む。
途中、何度か海賊船とも遭遇したが、
エルドラール号の魔力の力を借りた砲撃で、
海賊船を次々と撃沈すると、
この周辺の海賊の間でも――
「あの銀色の船はマジでヤベえっ!!」
という噂が瞬く間に、
マレッカ海峡とその周辺都市に広がった。
また海の恒例イベントとも言える海の魔物の襲来はなく、
食事や訓練、遊びに飽きたリーファ達は、
甲板いっばいに並んだ小型テーブルと椅子に座り、
談笑、あるいは日光浴などをして時間を潰した。
結局、人間という生き物は、
非常に飽きやすく、それが珍しい船。
あるいは食事、娯楽だろうとすぐに慣れて、飽きるものなのだ。
「こうも長い間、海の上に居ると、
無性に陸が恋しくなるわね」
そう言って、白い椅子の背にもたれ掛かるリーファ。
「そうよね~。
ご飯にも娯楽室でやるカードゲームに飽きたよね。
海は綺麗だけど、ずっと同じ光景を観てると、
流石にもうお腹いっぱいという感じだわさ」
「私は地味に船酔いになれてきましたね。
前は船に限らず、乗り物酔いが酷かったですが、
お嬢様と冒険、戦闘の日々を送るうちに、
自然と色々な耐性がついてきました」
と、アストロス。
「ボクも船酔い気味でしたが、
少し慣れてきました。
でもこうも長い船旅だど、
やる事も限られてきますよね」
エイシルがそう言って相槌を打つ。
「俺も退屈しているところだ。
こうなれば海上モンスターでも出て来て欲しいな」
と、シュバルツ元帥。
「まあ皆が愚痴る気持ちは分かるけど、
休める時に休んでね。
ジャパングに着いたら、
色々としがらみがあるからね。
自由に過ごせるのは、今だけと思いなさい」
そう言うロザリーは白い椅子の背にもたれて、何かの本を読んでいた。
「ロザリーさん、それは何の本だワン?」
「ジェインちゃん、これはジャパングの公用語に関する本よ。
ジャパングの公用語は、
エレムダール大陸の言語とは大きく異なるからね。
前回来た時は大分前だったし、
多分、今のジャパングの公用語――日本語は、
結構様変わりしてるだろうから、
今のうちからお勉強している、という感じね」
「ロザリーさんは、本当に語学堪能なんですね。
私もエレムダール大陸の言語ならば、
何カ国語か、理解及び喋れますが、
このような見知らぬ大陸の言語となると、
まるで想像がつきません」
「リーファちゃん、それが普通だよ?
まああーしは変わり者の言語マニアだからね。
でも今回の遠征は、最低一年はジャパングに滞在する事になるだろうし、
最低限の日本語は覚えるべきだね」
「……努力します」
「まあ兎に角、皆も今のうちに静養しててよ。
退屈に思う事もあるだろうけど、
これはこれで幸せの時間だよ」
ロザリーはそう言って、
両手でジャパングに関する本を広げて、
視線を本に向けて、
ゆっくりと優雅な読書の時間を堪能する。
するとリーファ達も甲板上から、
船室に戻り、また各自自由行動となった。
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その後の航海は少し荒れた。
海賊の類いは襲って来なかったが、
魔物に関しては、海上モンスターが時折襲って来た。
だが海の上で退屈していたリーファ達にとっては、、
良い退屈凌ぎとなった。
リーファ、シュバルツ元帥、アストロスの三人が前衛。
ロミーナ、ジェイン、ラビンソンが中衛。
そして後衛にエイシル、ロザリーが後衛に陣取りながら、
甲板上まで這い上がってきたサハギンなどの半魚人と戦った。
だがサハギンクラスの魔物では、
リーファ達の相手は務まらない。
リーファ達は、あのガースノイド戦役を乗り越えた歴戦の勇者だ。
今更、通常の魔物や魔獣に苦戦する事はなかった。
また巨大タコや巨大イカの海の魔物も現れたが、
こちらの方は、ロザリーをはじめとした魔導師の餌食になった。
最初にロザリーが電撃魔法を放ち、
標的が感電したところでラビンソンとエイシルが
炎属性魔王で巨大タコや巨大イカを焼き殺した。
「良い感じに焼けたピョン。
記念にあのタコとイカを串焼きにして食べる?」
「ラビンソン卿、食べませんよ。
食べるなら、お一人でどうぞ」
やや呆れ気味なリーファ。
「ピョーン、ボクは食べないピョン。
この小さな体にあんな大きな物は収まらないピョン」
「……そうですか」
なら他人に勧めるなよ。
思いつつもリーファもラビンソンの言葉を軽く受け流す。
以上のような事を繰り返して、
リーファ達を乗せた魔導船は、ドンドンと進み、
マレッカ海峡を越えて、東シエナ海に到達。
その後は清国の海上警備船に、
何度か呼び止められたが、
ロザリーが清国の言葉で事情を説明すると、
相手も納得したようで、静かに引き返した。
その後、東シエナ海から、
大湾海峡に到達。
それから数日後の8月22日に、
大湾島の北部の基隆港に寄港した。
エレムダール大陸の港湾都市ネルポリスから旅立って、
約四十日後、いよいよ黄金の国ジャパングまで、
目前まで迫っていた。
次回の更新は2025年4月30日(水)の予定です。
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