第三百二十三話 魔導船(前編)
---三人称視点---
リーファ達の眼前に広がる銀色の魔導船「エルドラール号」。
全長50メーレル(約50メートル)、重量200トル(約200トン)。
航海と交易に特化した輸送船ではあるが、
大砲や機銃といった武装も搭載されており、
戦闘艦としての戦闘力もその辺の軍艦より遙かに高かった。
基本的には、魔光炉と呼ばれる動力炉に、
大量の魔石を投じて、それによって生じる魔力と魔法の力で、
従来の船や戦艦より、速い速度で航行する事が可能である。
船の構造としては、
船体は輝かしい銀色。
上甲板以上の構造物は、眩しいに純白に塗られている。
シンプルだが、どこか気品を漂わせる配色と言えた。
甲板上には、煙突と帆柱の他に特に目立つ突起物はない。
ここ数十年で出来た蒸気船と似ている部分が多いが、
航海の際に魔法の力を使用するので、
蒸気船や帆船の船には出来ない事も可能とする。
だが全ての航行に魔力や魔法の力を使う訳にもいかず、
通常時は他の帆船と同様に、
帆柱に帆を張って、帆走で海を行き交う事が多い。
船の最大速度は、15ノット。
最大乗組員550人越え。
それでいて魔法で風の向きを変えたり、
燃料である魔石から生じた魔力や魔法の力を使って、
大砲の射程距離を伸ばす。
あるいは船全体に対魔結界や障壁を張る事も可能だ。
「想像以上に大きいですわね」
「うん、でもリーファちゃん。
これでも魔導船では小さい方だよ。
でもこのクラスの魔導船でも通常の帆船。
あるいは蒸気船相手でもスペック面でも、
戦闘面でも引けはとらないよ」
「この船は途中で乗り換えるのよね?
やはりジャパング政府を無駄に刺激させない為に?」
「え~と……キミはジェインちゃんだよね?」
「そう、オイラはジェインだワン」
「答えは……イエスだよ。
でもあーし等はこのクラスの魔導船に乗れるVIP。
それをジャパングの為政者にも分からせれば、
彼等もあーし等をぞんざいに扱えない。
という狙いも含んでるよ」
「ほう、それは悪くない考えだ。
ロザリー殿は、フランクに見えて、
考えるところは、ちゃんと考えてるんだな」
と、シュバルツ元帥。
「流石は大賢者ですね。
やることに無駄がありません」
エイシルも感心しながら、そう言うが、
当のロザリーは、両腕を横に広げて肩をすくめた。
「あーしを只のお気楽な言語マニアとでも思った?
伊達に数百年も生きてないよ。
まあでもあーしの狙いどおりに行くとも限らないしね。
それじゃ皆でタラップを上って、乗船するよ」
そしてロザリーを先頭にして、
リーファ達もタラップを上って、乗船した。
魔導船の船内は、想像以上に広かったが、
多くの水兵達が忙しそうに走り回っていた。
「船が大きい分、やる事が多いからね。
だから彼等の邪魔にならないように、
基本は自室で待機、出掛けるのは食事か、トイレ。
まあトレーニング室や娯楽室で息抜きするぐらいにしておこうね」
こんな大きな船を乗ったのも初めてなので、
リーファ達も勝手が分からず、
この場は大人しくロザリーに従う事にした。
そして男性陣であるアストロス、ジェイン。
シュバルツ元帥、ラビンソンは男部屋へ、
女性陣であるリーファ、ロザリー、ミランダ。
エイシル、ロミーナの五人は女部屋へと向かった。
幸いにも彼女等に与えられた客室は豪華であった。
広い船室、ハイセンスの家具や調度品。
広いバルコニー、そしてシャワーボックスも完備だ。
「へえ、想像以上に良い部屋だわさ」
と、ロミーナ。
「ええ、これなら長い航海でも優雅に暮らせそうですね」
「その間のお嬢様の世話は、私がします」
「そうね、ミランダ。 悪いけどお願いするわ。
ところでロザリーさん、このリンド半島から、
次の目的地である大湾島は、
どれぐらいの日数で着きますか?」
「そうだねえ、通常なら二十五日以内で着くけど、
海が荒れる恐れもあるからねえ~。
だから気長な気持ちで待つと良いよ」
「……そうさせて頂きます」
リーファ自身、このような長期航海は初めての経験。
故に分からない事が多いから、
ここは無難にロザリーさんに従おう。
と、この場は経験者の言葉を素直に聞き入れた。
その後、各自、荷物をそれぞれ置いて、
ローブやコートを脱いで、ラフな格好になった。
リーファに関しては、
黒い半袖のインナースーツ。
腰には用心の為に戦乙女の剣を帯剣していた。
「航海中は暇だし、
基本は食堂で食事、色んな器具が揃ったトレーニング室や娯楽室もあるから、
そこで汗を流すなりすると良いよ」
「確かに食べて寝てばかりだと、
後が色々と怖いですよね」
エイシルがそう言って、
左手で自分のお腹をゆっくりと摩った。
「でも今日はまだ何も食べてないし、
これから皆で食堂に行きませんか?」
リーファの提案にロザリーも「そうだね」と頷いた。
そして女性五人が船内の食堂へ向かうと、
既にシュバルツ元帥達が円卓に座って、食事を摂っていた。
「あ、お姉ちゃん、見て、見て!
こんな鶏肉の串焼きもあるよ!
食事も肉料理から魚料理、パスタ類。
お米料理なんかも一通り揃っているよ」
右手に鶏肉の串焼きを持ち、
全力で尻尾を振るジェインがそう言った。
食堂は思って居た以上に広い。
いたる場所に円卓や椅子。
長テーブルなどが置かれており、
最大で五十人ぐらいが座れそうなスペースがあった。
「とりあえずビーフステーキとライス中盛り。
それと赤ワインを頂けるかしら?」
「……畏まりました」
注文を取りに来たエルフ族の男性ウェイターは、
綺麗にお辞儀して、すぐに厨房へ向かった。
「ビフテキか、俺もそれを頼むか。
あ、ライスは大盛りで野菜サラダもつけてくれ。
飲み物は……氷水でいい」
シュバルツ元帥も注文を伝えて、
リーファの円卓の迎えの椅子に腰掛けた。
「わりと長い航海になりそうだが、
トレーニング室や娯楽室もあるし、
時間つぶしには困りそうにないな」
「元帥としては、実戦をしたいのでは?」
「リーファ殿、流石は我が主。
俺の性格をよく理解されている。
まあ海賊相手に遊ぶのも悪くないかもな」
「貴方は良くても周囲が困るわ。
どうせジャパングに着いたら、
こき使われるでしょうから、
今のうちにたっぷり遊んでおくべきね」
「……そうかもな」
「じゃあ皆も遠慮無く食べて頂戴。
何でも好きな物を注文して!
あ、但しお酒は飲み過ぎないように!」
リーファがそう言った事によって、
良い感じで緊張がほぐれ、
盟友と同行者は、食べたい物、飲みたい物を注文して、
皆でわいわいと言いながら、楽しい一時を過ごした。
次回の更新は2025年4月26日(土)の予定です。
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