第三百二十二話 長い旅路(後編)
-----主人公視点-----
アブザールの冒険者区の宿屋で、
一泊した聖歴1758年7月28日。
この後は基本的に同じ行動の繰り返しとなった。
ロザリーさんが各都市の冒険者ギルドのお偉いさんと話をつけて、
各都市の転移魔法陣の使用許可を取る。
そして転移魔法陣で次のエリアへ転移。
それを繰り返す事、三回。
気が付けば、
私達はリンド帝国の西部にあるパルネスタンまでやって来た。
このパルネスタンもヴィオラール王国領として、
リンド帝国と同一の政府の下に置かれていた。
私達はパルネスタンの都市カルチにやって来た。
このカルチは、アルビア海に面した寒村で、
人口はそれなりの数だが、
商業面や工業面では、
他の都市に比べると、見劣りしていたのも事実。
「このカルチは余り栄えていない街だけど、
リンド帝国と同じ政府――ヴィオラール王国に、
統治されているから、あーし達のような
肌の白い人間にも慣れているから、
その辺は安心していいよ?
あ、でも宗教的には、アルビア諸国と同じように、
女性が肌出す事は厳禁なので、
悪いけど、ここでも女性陣は顔にショールを巻いてね」
「「「はい」」」「はいだわさ」
「じゃあ、ここの冒険者ギルドとも話をつけるよ」
そして私達は、都市カルチの冒険者ギルドへ向かった。
カルチの冒険者ギルドは、
木造の二階建ての建物だが、少し古ぼけた感じだった。
それから中へ入り、
ロザリーさんがまた冒険者ギルドのお偉いさんと話し込んだ。
「ここのギルドとも話をつけたわ。
次の転移魔法陣は、地下迷宮の隠し部屋にあるみたい。
とりあえず皆で歩いて向かうよ」
「はい」
この一連の流れにも随分慣れてきた。
今回、ロザリーさんが話していたのは、ヴィオラール語だった。
私もこう見えて、
エレムダール大陸の共通言語以外にも、
母国語であるアスカンテレス語とヴィオラール語などを話せる。
ここパルネスタンやリンド帝国は、
ヴィオラール王国領なので、
ヴィオラール語が通じる相手が多いみたいね。
でもリンド帝国より先の国では、
そうもいかないでしょうね。
そういう意味でも何十ヶ国語も喋れるロザリーさんの存在は有り難い。
そして私達は、カルチの冒険者ギルドで馬車に乗って、
転移魔法陣がある地下迷宮までやって来た。
迷宮の入り口には、
浅黒い肌の男性ヒューマンの警備兵が二人立っており、
ロザリーさんは、いつものように自分の冒険者の証。
それと羊皮紙で出来た複数の書状を警備兵に見せつけた。
するといつものように警備兵は、
姿勢を正して、ロザリーさんに敬礼した。
そこから私達は、魔法のランタンで迷宮内を照らして、
転移魔法陣がある地下迷宮の隠し部屋にやって来た。
そこからは結界の解除。
そして順番に転移魔法陣の上に乗り転移。
全員が転移した後には、
転移魔法陣の力を一時的に封印。
と、これまで通りのルーティン・ワークを行った。
「良し、これでリンド帝国に到着したよん。
正直、リンドという国は、
我々エレムダール大陸の人間の常識外にあるから、
皆で固まって行動してね、後、スリには要注意」
ロザリーさん、言われて、
私達は固まって行動して彼女の後を追った。
そして地下迷宮から出て、
リンド帝国の南部の玄関口と呼ばれる港マドラムへやって来た。
---三人称視点---
リンド帝国の港湾都市マドラムは、
背後に綿花生産地帯が控えていたことから、
ヴィオラール王国の拠点として重視されていた。
気候は熱帯気候に分類され、年間を通じて高温多湿である。
過去に綿花を巡って、
百年以上、昔にガースノイド王国とも戦ったが、
何とか勝利を収めて、目覚ましい経済的な発展を遂げ、
今日の繁栄をみるに至っている。
「想像以上に開けてますね。
ですが……」
リーファはそう言って周囲に視線を向けた。
周囲には浮浪者が多く、「バクシーシ」とお金をせがむ乞食の姿があり、
この不衛生な状況に、
リーファだけでなく、ロザリーを除いた同行者も驚いていた。
「まあ街は栄えているけど、
衛生面は最悪、宗教的な戒律も強い。
だけど慣れて来ると、良い国と分かるよ」
「ろ、ロザリーさんは慣れているのですか?」
「リーファちゃん、君の言いたい事も分かるよ。
でもエレムダール大陸から、
少し離れたら違う国の文化と常識がある。
所謂、カルチャーショックっていうやつだね。
まあ最初は戸惑うでしょうけど、
要は慣れよ、慣れ、慣れたらどうって事ないさ」
「は、はあ……」
「とりあえずこのまま港に向かうよ。
事前に言ったように、皆で固まって行動してね」
「はいっ!」
その後、リーファ達は言われたように、
皆で固まって、ロザリーについて行った。
喧噪と怒号の舞う市場。、
潮の香りを含んだ潮風が街の通りを吹き抜ける。
エレムダール大陸の都市とは、
一風変わった港町特有の賑わいがこのマドラムにはあった。
石畳の道沿いに立ち並ぶ建物は、
エレムダール大陸の都市のような石造りの屋敷や家屋ではなく、
木材と煉瓦を組み合わせた物が多かった。
通りの両脇には露店が並んでおり、
鼻をつく香辛料や染料の香り。
そのどれもが新鮮で、
徐々にリーファ達もこの光景に胸を躍らせた。
「確かにこの港町にしかない空気がありますね。
街の雰囲気なんかも独特ですね」
リーファの言葉にロザリーが「うん」と相槌を打つ。
「お? リーファちゃんもこの街の良さわかってきた?
君も意外と順応能力が高いね、感心、感心」
気が付いたら、港の近くまで来ていた。
港の方から積荷を運ぶ船員と思われる男達が忙しく行き来している姿が見えた。
「……あの大きな船が今回あーし等が乗る魔導船だよ」
ロザリーがそう言って、港の方を指差した。
条件反射的にリーファ達は、港に視線を向ける。
「あ、アレが魔導船!?」
リーファは、そう言って「ごくり」と喉を鳴らす。
彼女の視界には、想像していた以上の船が港に停泊していた。
全長50メーレル(約50メートル)、重量200トル(約200トン)。
今まで見たどの船より大きくて、外観も洗練されていた。
その圧倒的スケールにリーファ達は、
眼を瞬かせて、しばらく呆然としていた。
次回の更新は2025年4月23日(水)の予定です。
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