第三百二十話 長い旅路(前編)
-----主人公視点-----
……。
想像以上に船室の内装は豪華ね。
調度品の類いも一通り揃っていて、
ベッドは三段式なのが二つ設置されていた。
なのでこの部屋に私、ミランダ、エイシル。
そしてロミーナ、ロザリーさんの五人が泊まる事になった。
「とりあえずこの五人は、ここの部屋に泊まろう。
食事は食堂で好きな物を頼めばいいよ。
一通りの料理が揃ってるよ」
「ポールサイドまで他の港に寄港しないんですよね?」
「そうよ、リーファちゃん。
どのみち長い旅になるでしょうから、
省ける無駄は、極力省く方向で行くつもりよ」
「最初はどうなるかと思ったけど、
意外と楽しい旅になりそうだわさ」
と、ロミーナ。
「それも最初のうちだけだよ。
今は船の航海だけど、転移魔法陣を一日に
何度も使うと、かなり酔うのよね。
だから皆もそれは覚悟しておいて」
「「「了解です」」」「了解だわさ」
「じゃあ、ポールサイドに着くまで自由行動で!」
「「「はい」」」「はいだわさ」
その後は各自、自由行動となった。
ちなみに男性陣の部屋割りは、
アストロス、ジェイン、シュバルツ元帥。
それとラビンソン卿という形になった。
最初の頃は、皆で甲板に出て「きゃあ、きゃあ」と騒いでたけど、
5日も経てば、それにもすぐ飽きた。
航海中に海賊や魔物と遭遇する事もなく、
ただ海の上で安穏と過ごす日々が続く。
尚、食事の方は本当に色んな種類が揃っていた。
アスカンテレス王国の郷土料理は、
当然として、他の国の郷土料理もあり、
各自、好きな料理を好きな時間に食べていた。
「料理はとても美味しいけど、
運動不足の状態で食事ばかりするのは危険ね」
「はい、ボクもこの数日で少しお腹が出てきました」
そう言って、左手で自分のお腹をさするエイシル。
「あたしは基本、菜食主義だから、
あんまり太らないだわさ」
「まあここから先は、好きな料理を好きな時間に食べる。
という真似はあまり出来ないだろうから、
多少太っても、今のうちに食い溜めしておくといいよ」
「ロザリーさん、やはり他大陸の料理って、
あんまり美味しくないのですか?」
「ん~、場所によるね。 まあ「ジャパング」の料理は、
美味しくない、というより質素だね。
ああ、でもあの魚を乗せたライスの料理。
アレはとてつもなく美味しかったわ」
「魚を乗せたライスの料理?
そんな料理があるの?」
ロミーナの問いに「ウン」と頷くロザリーさん。
「アレは凄く美味しかった。
確か寿司という料理だった筈……」
「寿司ですか?
ならジャパングに着いたら、皆で食べませんか?」
「それ良いね。 是非そうしよう」
と、右手でサムズアップするロザリーさん。
その後は、特に何も起こらず、
7月27日に無事にポールサイドに寄港した。
「ここから先のアルビア諸国では、
宗教的戒律で女性が肌を人前で露わにすることを
禁じているから、皆もショールを被って顔を隠して」
「「「はい」」」「ウン」
そう言えば、この辺りのアルビア諸国は、
宗教的戒律がかなり厳しかったわ。
原住民だけでなく、旅行客にもその辺の節度が求められるけど、
郷には入れば郷に従え、の精神で行きましょう。
それから私達は、港に寄港したインディアマンから降りた。
顔や肌は言われたように隠して、
背中にバックパックを背負いながら、
先頭を歩くロザリーさんの後について行った。
……。
真夏という事もあり、かなり暑いわ。
気温は40度以上あるかもしれないわね。
そこで私達は日焼け止めクリームを顔や手足に塗った。
……良し、これで日焼けする必要もない。
その後、ロザリーさんは、
ポールサイドの冒険者区へ向かい、
冒険者ギルドの建物に入った。
「……」
冒険者ギルド内は、
一部の受付嬢やウェイトレスを除いて、
殆どがヒューマンの少年、青年、中年男性ばかりだった。
彼等は刺すような目つきで私達を値踏みしている。
だがロザリーさんは、憶する事なく、
すいすいと前へ進み、奥の受付で受付嬢に話し掛けた。
ちなみに受付嬢もショールで顔を隠していた。
ちゃんと会話は通じているようね。
ロザリーさんは、アルビア諸国の共通言語アルビア語も出来るのかしら?
しばらくすると、ギルドの奥の部屋から、
白い半袖のシャツと黒のズボン姿の初老の男性ヒューマンが現れた。
見た感じ冒険者ギルドのお偉いさんのようね。
すると初老の男性ヒューマンは、
白いハンカチを黒いズボンから取り出して、
左手に持って、額を汗を拭い始めた。
……。
五分後、ロザリーさんは、
何かをやり終えた、といった表情でこちらに歩み寄って来た。
「……転移魔法陣の使用許可を取ったよ。
でも転移魔法陣の連続使用は危険だから、
一日一回までにするよ」
「はい」
「じゃあ、あーしに着いて来て!
ポールサイドの転移魔法陣は、
遺跡の地下通路にあるからね」
「はい」
そして私達は、彼女に言われるがまま、後に着いて行った。
歩くこと、三十分余り。
私達はポールサイドから出て、
近くの古い遺跡にやって来た。
遺跡の入り口付近には、浅黒い肌の男性ヒューマンの警備兵が
二人立っていたが、ロザリーさんが自分の冒険者の証。
それと一枚の羊皮紙を見せると、
警備兵達は、一礼して道を明けた。
「皆でこの遺跡の地下通路に降りるよ。
あーしが最初に降りたら、
魔法のランタンで周囲を照らすよ」
「はい」
そしてロザリーさんが最初に遺跡の地下通路に潜り、
一番下まで着くと、彼女は宣言通り魔法のランタンで周囲を灯した。
それから私、ジェイン、アストロス。
シュバルツ元帥、ミランダ、エイシル、ロミーナ。
最後にラビンソン卿という順番で、
地下通路に続く下り梯子を順番に降りて行った。
十五分後。
無事に全員が地下通路に降り立った。
魔法のランタンは、
魔石に魔力を注入する事で明かりを灯すので、
松明や普通のランタンより遥かに便利なので、
こういった暗がりでは欠かせない一品ね。
ロザリーさんのランタンの灯で周囲が照らされると、
視界を埋め尽くす薄茶色の壁面と天井が何処までも続いている。 」
どうやら地下通路である事は間違いないらしい。
、
「皆も魔法のランタンを灯して頂戴」
「はい」
ロザリーさんの指示通り私達は、
バックパックから魔法のランタンを取り出して、
明かりを灯す。 すると周囲が一気に明るくなり、
周りの状況が顕わになる。
「あ、あそこに大きな魔法陣があるだワン」
と、ジェイン。
「そう、アレがここの転移魔法陣だよ。
でもその前に封印を解かないとね。
皆はそこでジッとしていて」
そう言ってロザリーさんは、
祭壇の近くにある黒い石碑の前まで歩み寄る。
恐らくあの石碑を軸にして、周囲に強力な結界が張られているのだろう。
ロザリーさんは黒い石碑の上にメモを乗せて、結界を破る詠唱呪文を唱えた。
「我らがハイルローガンに君臨する女神サーラよ。
我は貴方を敬う、故に貴方も我の願いを叶えたまえ!
我が望みは結界の解除である。
女神の叡智を持ってその結界を今うち破りたまえ!」
その途端、ロザリーさんの右腕から石碑へと魔力が吸い出される。
同時に石碑の目の前にある結界がグニャリと歪んでいく。
「よし、これで封印は解除されたよ。
とりあえずあーしが最初に転移魔法陣に乗るから、
後は順番を決めて、ちゃっちゃと魔法陣に乗って頂戴」
そしてロザリーさんが転移魔法陣の上に乗ると、
身体がぐりゃりと動いてから、
吸い込まれるように消えて行った。
……。
これを観た後に乗るのは、少し気が引けるわね。
でも女は度胸よ、そして私も転移魔法陣の上に乗った。
次の瞬間、私が立つ転移魔法陣が黒い渦に包まれた。
視界が大きく揺らぐ。
すると周囲の風景が溶解したように消失していき、
最後には、私の意識が途絶えた。
次回の更新は2025年4月16日(水)の予定です。
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