第三百十九話 胸中成竹(後編)
-----主人公視点-----
翌日の7月4日。
私達は関係各所に挨拶に回った。
恐らく一年、いや二年は戻って来られない。
二年という歳月は短いようで長い。
だから各自、心残りがないように、
別れの挨拶を済ませておいた。
気が付けば、挨拶回りだけで三日間もかかった。
でもやるべき事はやったので悔いはない。
そして迎えた7月7日。
この日はロザリーさんと共に行動した。
彼女曰く、ジャパングへ行く際には、
色んな日用雑貨品及び食料を用意しておけ、との話。
特に日焼け止めは限界まで買っておけと言われたわ。
私もアストロス、そしてロザリーさんやエイシルも白い肌を持つ。
白い肌は時として羨ましがられるが、
良い事ばかりではないわ。
特に直射日光には弱い。
これから先は日差しが強い所も歩く可能性がある。
その際に日焼け止めがないと正直心許ない。
だから買えるだけ買う事にした。
自分で持つ荷物とメイドのミランダに持ってもらう分も
考慮して、邪魔にならない程度まで買い込んだ。
それからはロザリーさんを王都の観光案内した。
彼女は基本的に他国、他大陸へ旅しているので、
アスカンテレス王国の王都に来るのは、
数十年ぶりとの話だった。
「数十年ぶりの王都アスカンブルグかあ~。
変わってないようで、結構変わったね」
「ええ、ここ数十年でこの国の技術力や文化レベルも向上しました。
まあ私はまだ二十も生きてませんが……」
「エルフは無駄に長寿だからねえ。
そこが良くもあり、悪くもある。
でもたまにはこういう風に羽根を伸ばすのもいいわね」
「ピョーン、流石はエレムダール大陸でも一、二を争う大国。
技術力も文化レベルもかなり高いピョン。
こういうの見ると、獣人とは違うと痛感するピョン」
何故かラビンソン卿も私達と同行していた。
まあこれから先、一緒に行動するから、
彼とも親睦を深めておくべきね。
そして商業区で買い物を済ませて、
私、アストロス、ジェイン、シュバルツ元帥。
エイシル、ロミーナ、ミランダ、ロザリーさん、ラビンソン卿の九人で、
商業区の高級レストランで遅めの昼食を摂った。
「うん、この牛肉のステーキ美味しい~」
「ピョン、この野菜の詰め合わせ最高ピョン。
ジュースは人参ジュース。
この組み合わせが兎人の至高のメニューだピョン」
ロザリーさんとラビンソン卿も満足そうに、
自分の料理に舌鼓を打っていた。
というか兎人は野菜しか食べられないのかしら?
犬族や猫族は、
野菜だけでなく、お肉も食べるのにねえ。
「ラビンソン卿、お肉は食べないのですか?」
「リーファくん、ボクら兎人はお肉はそんなに食べないピョン。
でも食べようと思ったら、食べれるけど、
体調の事を考慮すれば、野菜を食べた方が良いピョン。
獣人と言えど、基本構造は兎の身体だからねえ~」
「ラビンソンくんは、食いしん坊キャラと思ったけどね」
「ピョン! そういうロザリー女史こそ食いしん坊じゃないか!
牛肉のステーキとチキン・ステーキを同時に食べてるピョン。
その小柄な身体で沢山食べるんピョンね」
「食べれる時に食べる、これが旅の鉄則さ」
「ピョン、一理あるね」
尚、他の者は無言で食事を食べていた。
ラビンソン卿は、お喋りで元気があるけど、
こういうヒューマンの高級レストランで、
食事中に喋るのは、少し止めて欲しいわね。
よく見ると周囲のお客さんが白い目でこちらを見ていた。
その後もラビンソン卿は、ぺちゃくちゃと喋っていたが、
ロザリーさんもお腹がいっぱいになって、
次第に無言になっていった。
するとラビンソン卿も次第に喋らなくなった。
その後、この場は私が会計を払う事にした。
「リーファちゃん、奢ってくれてありがとん」
「ピョーン、リーファくん! ありがとピョン」
「いえいえ」
まあ食事の料金は、結構な値段になったけど、
私はそれなりにお金があるから、
先を見据えてロザリーさん達に媚びを売っておく事にした。
ロザリーさんには、道中の案内と通訳係り。
ラビンソン卿は、なんだかんだで凄い大魔導師。
だから二人とは仲良くしておくべきよ。
それから数日間の間、
王都で遊び歩いて、ロザリーさん達も満足した様子を見せた。
そして迎えた7月13日。
私達は旅の支度を終えて、
アスカンテレス王国の南部最大の港湾都市ネルポリスにやって来た。
「アレがあーし達が乗る船――インディアマンよ!」
「あ、アレがインディアマンッ!?」
確かここ近年に作られた大型帆船よね。
遠目からは何度か見た事があるけど、
このように港に停泊しているのは初めて観るわ。
「凄く大きな船だワン」
「ええ、帆がいっぱいだわさね」
ジェインとロミーナが子供のような感想を言う。
まあ私も同じ事を思ったけどね。
このインディアマンは乗客貨物両方を乗せ、
また海賊から自身を守る為に武装している事が多いとの話。
ヴィオラール王国とリンド植民地帝国の交易では、
最近ではこのインディアマンがよく使われているらしいわ。
まあこんだけ大きくて、
速くて自己防衛能力もあるなら、
遠洋航海するには持ってこいの船ね。
「とりあえず皆、乗船しなよ?
このネルポリスからルエズ運河の北部の港ポールサイドまで、
約二週間くらいかかるわ。
ポールサイドからは、何度も転移魔法陣を使うから、
航海中に各自、ゆっくりと休んでおくと良いよ」
「了解です」
ロザリーさんの言葉に従い、
私達はそれぞれバックパックを背負った状態で乗船した。
「とりあえず女性陣はあーしについて来て。
それぞれの部屋に案内するからさ。
男性陣は女性陣と部屋が少し離れてるけど、
途中までの道筋は同じなので、
同じようにあーしについて来てね」
「了解です」「はい」
周囲の男女が元気よく返事する。
まあいきなりこんな大きな船に乗せられて、
右も左も分からない状態じゃ、
ここはロザリーさんに従うしかないよね。
そして私達は、軽い足取りで進むロザリーさんの後へついて行った。
次回の更新は2025年4月12日(土)の予定です。
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