第三百十八話 胸中成竹(中編)
-----主人公視点-----
「とりあえずこれが今回の旅の経路になるけど、
何か質問ある人は居るかな?」
「ハイ、ハイピョーンッ!」
あっ、ラビンソン卿が元気よく右手を上げたわ。
「はい、そこの兎さん。
何が気になるのかな?」
「ピョーン、兎さん呼ばわりは止めてピョン。
ボクはこう見えて、名の知れた大魔導師ピョン。
知らない? 大魔導師ラッピ-・ラビンソンを!」
ここぞとばかりに自己アピールするわね。
でも兎さん呼ばわりは、確かに怒るのも無理ないわ。
「あ~、聞いた事はあるわよ~。
超守銭奴のうさぎ……兎人の魔導師が居ると、
噂は聞いてたけど、キミの事だったんだね」
「ピョーン、何か微妙な言い回しだけど、
ボクは寛大だから赦すピョン。
それで質問していいかな?」
「うん、うさ……ラビンソンくん、どうぞ」
「ルエズ運河からリンド半島まで、
転移魔法陣で行くみたいだけど、
リンド帝国もヴィオラール王国の支配下じゃないの?
ならばリンド半島からも、
同じくヴィオラール王国のコネクションを使って、
清国を経由して、「ジャパング」に行けないの?」
嗚呼、流石はラビンソン卿。
喋り方は子供そのものだけど、
見るべき所、注意すべき点はちゃんと見抜いてるわね。
確かにリンド帝国は、ヴィオラール王国の植民地帝国。
そして近年では、そのヴィオラール王国は、
清国にも大きく食い込んでいるのは周知の事実。
その辺の疑問点を明らかにして欲しいわね。
そう思ってると、
ロザリーさんが淡々とした口調で質問に答え始めた。
「キミの疑問は尤もだね。
ではその疑問に答えるよ。
リンド帝国は、完全にヴィオラール王国の支配下に入ってるけど、
清国はそうじゃない、またリンド帝国と清国に食い込んでいる
ヴィオラール王国の勢力も微妙に違うのよ。
賢いラビンソンくんなら分かるでしょ?
他国での利権が生じると、
その利権を巡って同国人同士で争う。
だから同じヴィオラールでもリンドと清国では、
政治事情も軍事事情も大きく異なるから、
あーしは今回は清国を経由しないルートを選んだ。
ここまでは分かるかい?」
「あ~、そういう事なのね。
それなら仕方ないピョン。
異国の面倒臭い政治事情に首突っ込むのは危険だもんね」
「そういう事、ラビンソンくんが理解が早くて、
あーしも助かるよ。 賢い子はあーしも好きよ」
「ピョーン、とりあえずボクは納得したよ。
だから今回は大賢者ロザリーの指示に従うピョン」
「……他の皆はどうかな?
気になる事があれば、気兼ねく言ってね。
あーしの答えられる範囲で答えるからさ~」
「……」
とりあえず質問してみましょうか。
「ロザリーさんは語学に堪能と聞きましたが、
ジャパングの公用語は当然として、
リンド、清国の公用語も喋れるのでしょうか?」
「リーファちゃん、答えはイエスだよ。
ジャパング、リンド、清国の公用語。
途中で寄港する大湾島の公用語も喋れるよ。
勿論、読み書きも得意。
あーしはこう見えて言語マニアなのよ」
「それはとても心強いですわ。
正直、極東の島国で言語が通じないのは、
色々とストレスが溜りそうでしたが、
言語の問題がクリア出来て良かったです」
「うん、言語の問題はマジ重要。
あーしも昔は色々と苦労したよ。
それ以外の質問はある?」
「……特に無いです」
私は無難にそう答えた。
正直、未だに「ジャパング」という東洋の島国に、
遠征するという事に実感が沸かない。
だから何をどう質問していいかも分からない。
それは私だけでなく、周囲の人達も多分同じ。
「んじゃとりあえずリンドからの旅の経路の説明をするよ。
リンドからは、あーしの個人コネクションを使って、
航海用の魔導船に乗るわ。
護衛艦も幾つかつけるつもりよ。
リンドから清国までの航海ルートには、
結構、海賊船が出るのよねえ~。
でも魔導船に乗ってたら、
海賊が攻めて来る事もないわ」
……海賊かあ。
エレムダール大陸南部の地中海にも、
海賊は出るけど、リンド、清国の間でも出るのね。
いちいち退治するのも面倒だし、
確かに魔導船に乗った方が色々と安全ね。
でも魔導船かあ。
噂ではよく聞くけど、実際に乗った事はないわ。
通常の帆船やガレー船とはまるで違い、
魔光炉が原動力になってるらしいけど、
その航行速度や戦闘能力は、
従来の船とはまるで違うとの話。
「でも大湾島に着いたら、
魔導船から普通の帆船に乗り換えわ。
今の「ジャパング」は政情不安定な上に、
数年前にアーメリア共和国から、
魔導船が来港したので、
ある種の魔導船アレルギーなのよね。
彼等を下手に刺激したくないし、
「ジャパング」には普通の帆船で寄港するわ」
嗚呼、噂では聞いた事あるわね。
確かパリー提督というヒューマンの男が
ジャパングに来港して、
軍事力を背景にジャパングに不利な条約を結んだとの話。
確かに彼等を無駄に刺激しない方が得策ね。
でも状況に応じては、
アーメリアの人間とも争う事になりそうね。
「まあざっとこんな感じだよ。
あーし的にはすぐにでも旅立ちたいけど、
一度ジャパングへ行けば、
一、二年はエレムダール大陸に戻って来れないわ。
だから出発日は早くて一週間。
遅くて二週間後にするから、
それまでに心残りがないようにして頂戴」
「了解です」
「んじゃ今日はこれくらいでお開きにしよう。
リーファちゃん、あーしもこの邸に泊まっていいよね?」
「ええ、勿論です。 すぐに部屋を用意しますわ」
「ありがとねん」
……。
後、一、二週間でアスカンテレスともお別れかあ。
正直、いつ戻って来れるか、
分からないから、悔いの無いようにしておきましょう。
東洋の黄金の国かあ。
どんな国か、この目で見ないと分からないけど、
実りある旅に、任務になる事を願うわ。
次回の更新は2025年4月9日(水)の予定です。
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