第三百十七話 胸中成竹(前編)
-----主人公視点-----
それから三週間ほど、私は旅の準備。
それと身辺整理を行った。
邸の方はリックスをはじめとした従者達に任せ、
領地に関しても、今まで通り代行者を立てた。
まあ一、二年の間も邸を不在。
領地を他者に任せたままなのは、
少々不安だけど、状況が状況だから仕方ないわ。
それから武器、防具、衣類の調達。
向こうへ――「ジャパング」へ渡ったら、
こちらで手に入る物は、調達出来ないでしょうから、
持って行ける物は、なるべく持って行くわ。
後は回復薬や解毒剤などの消耗品。
様々な種類の魔法スクロールや魔道具一式。
そして衣類に下着類。
尚、今回の遠征に私の従者として、
メイドのミランダも同行させる事にしたわ。
私の身の回りの世話をする者も必要ですしね。
武器に関しては、
私は戦乙女の剣があるけど、
念の為にミスリル・ソードを一本買っておいた。
防具に関しては、
白金製の軽鎧を修復。
更に予備として、もう一つ買っておいた。
それ以外は半袖、長袖の黒のインナースーツ。
それと黒い光沢のあるレオタードを三着。
裏地の赤い黒マントも三着購入しておいた。
地域によっては、暑い場所もあるでしょうから、
こういう風に軽装を用意しておく事も大事だわ。
尚、アストロスやジェイン。
それとシュバルツ元帥も入念に準備を整えていた。
とりあえず彼等も身辺整理を済ませた状態で、
いつでも旅立てる状態となった。
そして三日後の7月3日。
私の邸にエイシル、ロミーナ。
それとラビンソン卿と大賢者がやって来た。
エイシル、ロミーナ、ラビンソン卿は、
顔馴染みだけど、大賢者――ロザリー・アイベルトンとは初対面だった。
ロザリー女史は、予想に反して幼い雰囲気を漂わせた女性エルフ族であった。
顔立ちはとても整っているけど、
何処か幼げない感じがより一層のその美貌を引き立てている。
身長は155セレチ(約155センチ)前後。
でも手足は長くプロポーションは悪くない。
猫のような青い瞳。
髪型は綺麗な水色髪のセミロング。
白皙、そしてその身体を緑のローブに包んでおり、
両手にとても高そうな白木の両手杖。
そして背中に大きくて白いバックパックを背負っていた。
「キミがアスカンテレスの戦乙女かい?
あーしはロザリー・アイベルトン。
巷じゃ大賢者とか呼ばれてるけど、
実際は只の魔法研究マニア、歴史及び言語マニアだよ。
だからそんなに固くならなくていいよ」
「は、はい……」
予想に反してフランクな感じね。
でもこの方がやりやすいのも事実。
「とりあえずあーしはキミの国の王太子と話をつけたから、
キミとその盟友に同行する事にしたよ。
こう見えて色んな国へ行ってるから、
「ジャパング」までの道中でも役立つと思うよ」
「ロザリー女史とお呼びしていいでしょうか?」
「普通にロザリーさんでいいよ。
女史なんか言われると、なんかこそばゆい。
後、あーしはリーファちゃんと呼ばせてもらうよ」」
「ではロザリーさん、改めて宜しくお願いします。
私がアスカンテレスの戦乙女。
リーファ・フォルナイゼンです」
「うん、キミの噂は色々聞いてるよ。
見た目は綺麗なご令嬢にしか見えないけど、
戦場ではとてつもない大活躍してるらしいね。
あーしは魔法に関しては、
エキスパートだけど、肉弾戦はからっきしだから、
その辺のサポートをお願いするよ」
「はい、お任せ下さい」
「とりあえず「ジャパング」までの旅の経路に関して、
話合いたいから、邸の適当な部屋を用意して!
そこで色々と今後について話合おうじゃないか」
「分かりました、すぐ用意します。
ミランダ、リックスに一階の談話室を
すぐ使えるようにして、と伝えて頂戴」
「は、はい! お嬢様っ!!」
ロザリーさんの言うように、
落ち着く場所で話し合いたいわね。
「ではロザリーさん、それと他の皆は
私について来てください」
私はそう言って、皆を屋敷内に招いた。
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フォルナイゼン邸の一階の談話室は、
必要最低限の調度品しか置いてないけど、
そのセンスは悪くないと自負している。
基本的に白と黒を基調にしており、
シックな外観に合わせるように、
内装もシックな雰囲気に仕上げている。
「あら? なかなか渋い内装ね。
こういうシックな雰囲気も好きよ」
「ロザリーさん、ありがとうございます。
とりあえずそこの長テーブルの椅子に座ってください」
「ええ、そうさせてもらうわ」
ロザリーさんはそう言って、
部屋の中央に配置された長テーブルの前の木製の椅子に腰掛けた。
「私達も座りましょう」
そして長テーブルの左側に私、アストロス、ジェイン。
シュバルツ元帥とロミーナとメイドのミランダが座り、
エイシルとロザリーさんとラビンソン卿が右側に座った。
「細かい話は抜きにしましょう。
まずはあーしが考えた旅の経路を見て頂戴」
ロザリーさんはそう言うなり、
長テーブルの中央に大きな地図を広げた。
これは確か現時点の世界地図よね。
その世界地図には、エレムダール大陸だけでなく、
アレニア大陸や中央ユーレシア大陸も描かれていた。
「まず最初は船で地中海を超えて、
アレニア大陸の北東部のルエズ運河まで行くわ。
ここであーしの個人コネクションを使って、
何度か転移魔法陣を使って、リンド半島まで行く。
……ここまでは良い?」
「はい、それが無難な経路ですね」
私の言葉にロザリーさんが「うん」と頷く。
「このルートを使えば、時間にすれば一週間くらいで、
リンド半島に行けると思うよ。
そこから先は船で移動するのが無難ね。
何度か船を乗り換えると思うけど、
何とか清国の南東の大湾島まで行くわ」
「ロザリーさん、清国には寄港しないのですか?」
「リーファちゃん、良い質問だね。
そう、あえて清国には寄らない。
あそこは今、ヴィオラール王国絡みでごたつてるのよ。
下手に寄ったら、因縁をつけられて逮捕される可能性もある」
「成る程、それなら避けるべきですね」
「ウン、そして大湾島から、
また船で北東へ進んで、
そのまま「ジャパング」の本拠地である大江戸の港に寄港する。
そこからジャパングの為政者である征夷大将軍に謁見する。
これが今回の旅の大まかな経路だよ」
成る程。
とりあえず地図でも確認したけど、
私から見ても無難な経路だと思うわ。
しかしこうして地図だけ見ても、
かなり遠いわね。
後、私はわりと船酔いするのよね。
……。
などと思いつつも、
私は真顔でロザリーさんの次の言葉を待った。
次回の更新は2025年4月5日(土)の予定です。
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