第三百十五話 威迫利誘(中編)
-----主人公視点-----
生かさず、殺さず……か。
ろくでもない言葉だけど、
他国や自国民を支配する時には役立つ考えかもね。
でもここは適当に相槌を打つわ。
王太子殿下はプライドが高いお人ですからね。
「他国を支配する際には、
正しい考えだと思いますわ」
「そうね、私もリーファさんと同じ意見よ。
でもこの「ジャパング」という国は、
他の国と何処か違うのかしら?」
「グレイス王女殿下がそう思うのも無理はない。
だがこの「ジャパング」に関しては、
今から三百年程前にも、
サーラ教会が派遣した宣教師が
その時の為政者と接触したが、
手玉に取るつもりが、
逆に異国の文化や技術の情報を入手。
また民芸品、食料などを交易品として扱ったとの話だ。
更には火縄銃などの火器を輸入して、
実戦投入して、自身の勢力を拡大したと言われている」
ふうん。
その為政者は莫迦ではないわね。
まあ私が言うのもなんだけど、
宣教師なんて異国を支配する為の先兵みたいなものよ。
あの手この手で支配対象の国の王族、貴族。
あるいは為政者に取り入り、
時には揺さぶりをかけるけど、
その時代の「ジャパング」の為政者は、
それを見越した上で異国の文化や交易品を
手に入れて、自己の野心の道具に使っていたようね。
「成る程、その話を聞くだけでも、
他の大陸の植民地とは少し事情が違いますな。
だが何か穴のようなものは、あるのではないでしょうか?」
レーガー統領がそう一石を投じた。
対するラミネス王太子は、
ポーカーフェイスを保ちながら疑問に答えた。
「あると言えばあります。
それは今、彼等が使命感に燃えている事です」
「使命感に燃えている?
どういう意味だピョン?」
これは私もラビンソン卿と同じ疑問を抱いたわ。
話がアバウト過ぎて、意味が分からないわ。
なのでここは王太子殿下の次の言葉を待つわ。
「要するに彼等は、
現政権を維持する為の現政権派。
「開国」という名の元に、
国家の改革を望む反政権派の二つに分けられるが、
その両者もそれ相応の使命感に燃えている。
我がエレムダール大陸で例を上げれば、
昔のガースノイド王国。
その王国が共和国、帝国という変遷を歩んだ過程を見れば、
使命感や情熱は、利害を無視して物事を推し進める事が多い」
「要するに「国の為に頑張っている自分に酔う」。
……輩が出て来るという事かしら?」
「グレイス王女殿下、まさにその通りです。
王国、共和国、そして帝国。
という変遷を歩んだガースノイドは、
本当の意味で国を変えれた。
あるいは国民が幸せになりましたか?
そんな事はない。
あのロベルト・ピエサールが支配した共和国時代は、
大した理由もなく、多くの不満分子。
とカテゴリーされた罪のない者がギロチン台に送られた。
正直、ガースノイドの民もあの時代の事は、
思い出したくもないだろうさ。
だが当のロベルト・ピエサールは、
死の直後まで強い使命感に燃えていただろう……」
……。
一見関係のない話題に聞こえるけど、
根っこの部分では、王太子殿下の言う通りかもしれない。
あれだけ国民が熱狂したガースノイド帝国も
今では皇帝が追放されて、
再びレイル十六世が王位について、王政に戻った。
それであの国から、
そしてエレムダール大陸からも戦争はなくなったけど、
今のガースノイド王国の国民は、
あの革命時代や帝政時代のような情熱とは無縁だ。
何というか緩やかな衰退の道を歩んでいる気がするけど、
国家や国民からすれば、
それはそれで悪くないのかもしれない。
結局、変化や現政権の打倒を望んだとしても、
新たな権力者が自分とその取り巻きに特権を与え、
権力構造が生まれて、徐々に腐敗する。
というのはエレムダール大陸に限らず、
どの国家、民族にも起こる現象かもしれないわ。
「要するに感情の問題ですから、
利害を無視して、戦い続ける。
そしてその為に異国の使者を招き入れて、
異国の武器や魔道具の購入に勤しむ。
結果、我々は交易品を売りつけて、
その対価に黄金を頂く。
それを延々と続けて、
「ジャパング」の黄金を根こそぎ頂く。
という話も夢物語ではなさそうですね」
私は想ったままにそう伝えた。
すると王太子殿下やグレイス王女も「ふむ」と相槌を打った。
「やはりリーファ嬢に隠居暮らしは似合わん。
貴殿は戦場、そして政争の場にこそ相応しい。
私の言わんとする事もよく理解した上に、
分かりやすく言語化する、大した器だ」
……。
まあ王太子殿下にこう言われたら、
悪い気はしないわね。
「……私もそう思うわ。
でも我々が団結すれば、
夢物語ではなく、きっと実現出来るわ。
……これは面白くなってきたわね」
グレイス王女はそう言って、
白い歯を見せて、得意げに笑った。
「ふむ、面白い話になってきましたな。
ならば我がジェルミナ共和国も国を挙げて、
この特務に協力したいと思います」
「レーガー統領、ありがとうございます。
人材派遣、財源確保、物資調達など色々お世話になると思います」
「ラミネス王太子殿下、ただ我々もただ働きをする気はない。
なのでここは持ちつ持たれつで行きましょう!」
「ええ、勿論ですとも!」
……。
皆、やる気になったわね。
こうなると私も後戻りは出来ない。
仕方ない。
先兵として東洋の彼の地へ赴きましょう。
「でも「ジャパング」が見事に開国を果たして、
力をつけたら、東洋の植民地支配などにも
首を突っ込んで来る可能性もあるんじゃピョン?
国が閏えば他国を欲するのは、自然の流れと思うピョン」
ラビンソン卿がそう疑問を投げかけた。
確かにあり得る事態ね。
さて、それに対する王太子殿下の回答は……。
すると王太子殿下は、
組んだ両手に顎を乗せ、口の端を持ち上げて――
「その時は我々が団結してジャパングを叩く。
それだけの話ですよ」
……。
まあそうするわよね。
やはりこの人は油断出来ない人物ね。
私も斬り捨てられないように、
色々と根回ししておく必要がありそうね……。
次回の更新は2025年3月29日(土)の予定です。
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