第三百十四話 威迫利誘(前編)
-----主人公視点-----
「……流石は聡明なリーファ嬢だ。
その決断力の早さには感服するよ」
「いえ……」
王太子がこう言った以上、
私が特務を拒否すれば、
本当に爵位剥奪、領地没収を実行するでしょう。
この御方はそういうお人。
領地没収は最悪我慢出来るけど、
爵位剥奪をされたら、
今のフォルナイゼン邸における生活を
手放す事になるわ、正直それは避けたい。
良いでしょう。
腹は括ったわ。
どんな任務かは分からないけど、
やるからには全力を尽すわ。
「……私は物分かりが良い人間が好きだ。
だが私を恨まないで欲しい。
この特務を成功させるか、どうかで
我がアスカンテレス王国の運命も大きく変わる。
だから私としては、
懐刀である君にこの特務を任せたいのだ」
「正直、土地勘もなく言語も通じない異国で
私がどれだけの事を出来るか、
分かりませんが、任された以上は全力を尽します」
「うむ、良い返事だ。
ではここで小休止しよう。
執事とメイドに珈琲と紅茶を運ばせよ!」
「ははっ!」
ここでラミネス王太子は、
ティータイムの為に休憩を取った。
彼がそう言うと、
レオ・ブラッカー氏が右手をパチリと鳴らす。
すると扉が開いて、ヒューマンの初老の執事と若いメイドが現れた。
「とりあえず人数分の珈琲と紅茶を用意せよ。
またお茶菓子の類いも持ってきたまえっ!」
「「畏まりました」」
執事とメイドは大きな声で返事して、
それから綺麗な姿勢でお辞儀して踵を返した。
……。
間の取り方も上手いわね。
丁度良い休憩になるし、
こうなればこの場に居る誰もが
王太子の次の言葉を聞かざるを得ない
そして十分後。
初老の執事と若いメイドが珈琲と紅茶。
人数分に加えて、クッキーなどのお茶菓子を持って来た。
「皆、遠慮無く飲みたまえっ!
今後も長い話し合いになるだろうから、
お口に合う者は、遠慮無くお茶菓子にも手をつけたまえっ!」
「……」
そして私は、従者達が持って来た紅茶に手をつけた。
口をつけるとほのかに甘く飲みやすい紅茶だった。
紅茶の温度は、丁度良い熱さで、
とても飲みやすかった。
ウチの参加者は、全員紅茶のようね。
皆、美味しそうに飲んでるわ。
あ、グレイス王女がお茶菓子に手をつけたわ。
それをジェインが物欲しそうに見ていたが、
私は目線でそれを制した。
するとジェインも空気を読んで、お茶菓子を諦めた。
正直、獣人のテーブルマナーは良くないので、
この場でジェインにお茶菓子を食べて欲しくないわ。
だから悪いけど、この場は我慢してもらうわ。
それから軽い世間話を挟んで、
ティータイムを挟んで小休止が終わった。
すると会議の参加者の緊張感も少し和らいだ模様。
そこでラミネス王太子が次なる話題を振った。
「リーファ嬢、今回はやや強引な形で、
君に特務を押しつけた形になるが、
どうか私を恨まないで欲しい」
「勿論ですわ」
勿論、これは嘘よ。
正直この強引な話には少し腹立つわ。
でも私はアスカンテレス王国の貴族及び領主。
故に次世代の国王であるこの王太子には逆らえない。
だがやるからには、それ相応の応酬が欲しい。
また王太子や国の重鎮の真の狙いも知りたいところね。
「しかし王太子殿下。
私やその盟友がその「ジャパング」に正式に派遣されたとして、
私達はどうのように動けば良いのでしょうか?
政府側について反政府勢力を討伐?
あるいは反政府勢力について現政府を打倒して、
新政府を樹立する、という流れでしょうか?」
私がこう言うと、王太子殿下は「ほう」と言って、
その形の良い唇をほころばせて微笑んだ。
「その辺に気が回る辺りは流石だ。
だが結論から言えば、
形式的には君達は、現政府側についてもらう事になるだろう。
尤も反政府勢力にも我がアスカンテレス王国の息がかかっている。
だが「ジャパング」の為政者も莫迦ではない。
そう易々とこちらの思い通りには動かんだろう。
だから我々は露骨な軍事介入はせず、
あくまで彼等の意思を尊重する。
……ように見せかけて、
この東洋の島国の行く末を見守りたいと思う」
「成る程、戦いが長引けば、
自然と彼等も我が国の重火器や魔道具を欲して、
それと黄金を引き換えにする事も可能ですね」
「うむ、それも基本戦略の一つだ。
だが彼等は東洋の小さき島国の住人だが、
他大陸の植民地や国家と違って、
個としても集団としてもお優れた存在だ。
しかし彼等は今、「開国」という問題を迎えている」
「開国? それはどういう意味かしら?」
と、グレイス王女。
「先程にも述べたが「ジャパング」は、
二百年に及ぶ鎖国政策を敷いてきた。
その結果、諸外国からの侵略を受ける事なく、
独自の文化を発展させてきたが、
数年前にアーメリア共和国のパリー提督という男が
最新の魔導船を率いて、
ジャパングの大江戸政府と条約を強引に結んだ。
その結果、鎖国政策によって、
諸外国との文明及び技術レベルの差を危惧した者達が
「開国」という大義名分を掲げて、
列島各地で団結して、現政権を打倒する。
という風に動いているのが今の反政府勢力だ」
「それに対して、
現政府――大江戸幕府はどう動いてるんだね?」
レーガー統領が素朴な疑問を投げかけた。
この辺の事情は気になるわよね。
これに対してラミネス王太子は――
「大江戸幕府も現政権を維持する為に、
色々と動いているが、全体的に芳しくない。
二百年に及ぶ支配体制を築いてきたが、
それも限界にさしかかろうとしている。
というのが今の「ジャパング」の現状だ」
「現政府と反政府勢力に同時に介入して、
表と裏から操って、この国を牛耳る。
という政略なのでしょうか?」
ここで初めてエルネス団長が発言した。
まあこれは侵略の際の常套手段よね。
でも王太子の口から出たのは意外な言葉であった。
「そうしたいのは山々なんだが、
「ジャパング」の為政者や民は強い意志を持っている。
故に我等が彼の国を自由自在に支配するというのは、
難しいだろう。 そこで私が選ぶ手段は……」
「……それは何かしら?」
グレイス王女の疑問に、
ラミネス王太子は、毅然とした声で応じた。
「生かさず、殺さず。
これが私が望む選択肢だ」
次回の更新は2025年3月26日(水)の予定です。
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