第三百十三話 王太子の甘言(後編)
-----主人公視点-----
「では私も腹を割って、お話しましょう。
人材の派遣もそうですが、
エストラーダ王国とジェルミナ共和国には、
資金面及び物資面でも協力して頂きたい。
「ジャパング」は東洋の島国ですが、
他の諸国とは違い、国としての成熟度も高いです。
ですが二百年以上に及ぶ鎖国政策の為に、
諸外国の事情に疎いのも事実。
ですので我々は重火器や魔道具を彼等に
分け与えて、その対価として金を受け取っております」
……。
流石はやり手のラミネス王太子ね。
もう既にかなりの部分で食い込んでるわ。
しかしこの状況でも他国に助力を請う。
という事は思いの他「ジャパング」の侵略に
戸惑っているという事なのかしら?
「良い感じに外堀を埋めているわね。
でもその状況で私達に助力を請うという事は、
「ジャパング」の侵略は思いの他、難しいのかしら?」
「グレイス王女殿下、その通りでございます。
現在「ジャパング」は、大江戸幕府なる政府を
牛耳る将軍家と呼ばれる為政者が
統治しておりますが、その幕府の力が衰えて、
開国を目指す反幕府勢力が急速に力をつけております。
総合力で見れば反幕府勢力の勢いが上回ってますが、
我々、アスカンテレス王国は、
幕府、そして反幕府勢力にも人材を派遣。
重火器や魔道具を支給して、
内乱の活性化を目論んでますが、
思いの他、苦戦しているというのが現状であります」
「成る程ね」
「ふうむ、そうですか」
ジャパングの現状を聞いて、
グレイス王女とレーガー統領が小さく頷く。
色々策は弄しているけど、
国を制圧、傀儡政権の樹立するまでには至らない。
だから他国の協力が欲しいという事ね。
「想像していた以上に、手強い国のようね。
でも大量の黄金が眠る「黄金の国」。
いいでしょう、私からお父様――国王陛下に、
協力するようにお願いしてみるわ」
「我が国も条件次第で協力したいと思います」
「レーガー統領、その条件を教えて頂きたい」
「ラミネス王太子殿下。
では端的に申し上げます。
ジャパングにおける黄金の取り分の比率を決めて頂きたい。
私としては全体の二割は頂きたい」
「あっ、私も同じく二割を希望するわ」
となると全体の比率は、
アスカンテレス王国6:エストラーダ王国2。
ジェルミナ共和国も2という配分になるわね。
でもこれくらいの要求は当然よね。
さて我等の王太子殿下はどう出るか。
「ええ、協力させして頂けるなら、
その配分で問題ありませんよ。
但しそれ相応の対価は払って頂きます」
「とりあえず我が国は、
大魔導師のラビンソン卿を派遣します。
ラビンソン卿も異議はないであろう?」
「はいピョン、この特務は非常に美味しいピョン。
東洋でも新大陸でも何処へでも行くピョン」
あからさまにはしゃぐラビンソン卿。
するとグレイス王女殿下も対抗心を露わにした。
「ではウチもエイシルの派遣を正式に認めますわ。
エイシル、給金だけでなく、
冒険者ランク、魔法ギルドの昇級。
また望むのであれば、貴族の爵位も授けましょう。
だから貴方にリーファさんとの同行を命じます」
「……分かりました。
王女殿下のご命令に従います」
これでエイシルの派遣は決まった。
するとレーガー統領も――
「ではロミーナ・ラスタール嬢にも
戦乙女殿に同行してもらう。
我々も給金だけでなく、
冒険者ランク、魔法ギルドの昇級など
様々な利権を与えよう」
「……これは素直に従うしかないわね。
良いでしょう、あたしもリーファさんに同行しますよ」
同じくロミーナも同行も決定。
でもここまで私の意思を完全に無視しているわ。
これはちょっと意見を言うべきね。
「すみません、少し宜しいでしょうか?」
「リーファ嬢、何だね?」
「王太子殿下、私がジャパングへ遠征する事を前提に
お話が進んでますが、
私の意思確認はまだされてないのですが……」
すると王太子殿下の表情が少し変わった。
その青い瞳を細めて、こちらを観察するように見据える。
「そうだったな、確かにそれを忘れていた。
それではリーファ嬢のお気持ちを聞かせて頂こう」
……。
ここは迂闊な事は云えないわね。
揚げ足を取られないようにしましょう。
「正直、申し上げますと、私個人は乗り気じゃないです。
今の生活に完全に満足してる訳ではありませんが、
知りもしない東洋の異国へ遠征するのは気乗りしません」
「ふうむ、まあ君の立場ならそうであろう。
ならば君にも色々な報酬や利権を与えよう」
「い、いえ……そういうお話をしてるんじゃありません。
端的に云えば、個人的に今回の特務はお断りし――」
「だが君が居ると居ないじゃ話が大きく変わる。
よってアスカンテレス王国の王太子として命じる。
戦乙女リーファとその盟友には、
「ジャパング」に長期遠征してもらう。
無論、細かい話は今後の話し合いで決めるが、
この長期遠征自体は必ず受けてもらう。
そうでない場合は貴殿の爵位と領地を剥奪させてもらう」
「っ!?」
えっ……。
爵位剥奪に領地没収!?
いくら何でも横暴過ぎない?
視線を王太子殿下に向けたが、
その目は笑ってなかった。
どうやら本気のようね。
……。
正直、横暴と思うけど、
私も我が身は可愛い。
ならば私の言うべき言葉は一つ。
「了解致しました。
ならばその特務を喜んでお受けいたしますわ」
……。
これで私のこの一、二年の時間は、
この特務に忙殺されるでしょうが、
爵位剥奪や領地没収よりはマシよ。
私はそう心の中に刻んで、
悔しさを押し殺しながら、口を真一文字に結んだ。
次回の更新は2025年3月22日(土)の予定です。
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