第三百十二話 王太子の甘言(中編)
-----主人公視点-----
6月23日の午後13時過ぎ。
私達は男性ヒューマン執事に案内されて、
アスラ王宮の一階の会議室に着いた。
会議室の中は、
部屋の中央に配置された白大理石の長テーブルに、
黒革張りの樫木の椅子があり、
壁を背にしてラミネス王太子が上座に座り、
その右隣に先の戦争で、
王太子殿下の副官を務めたレオ・ブラッカー氏が座る。
長テーブルの右側に、
グレイス王女とエルネス団長、水色のローブ姿のエイシルが座っていた。
ジェルミナ共和国のジュリアス将軍と第一統領レーガー。
そして青いケープマントを羽織ったラッピー・ラビンソン卿。
ピンクのドレス姿のロミーナの姿も見えた。
「リーファ嬢とその盟友の方は、
左側の席に座るが良い」
「はい」
私は王太子殿下の言葉に、
大きく頷いて、
私、シュバルツ元帥。アストロス、ジェイン。
という順番で左側の椅子に座った。
全員合わせて13人か~。
グレイス王女やエルネス団長。
そしてジュリアス将軍とレーガー統領が居るのは予想外だったわ。
「やっほー、リーファさん。 お久しぶり」
「グレイス王女殿下、お久しぶりです。
王女殿下もお元気のようで何よりです」
相変わらずこのエルフ族のお姫様は乗りが良いわね。
「しかし意外と凄い面子が揃ったわね。
まるでガースノイド戦役時のようだわ」
「グレイス王女殿下、今日は平和な話し合いの場です。
ですのでお気楽な気持ちで、会議に参加してください」
「そう願いたいところね」
ラミネス王太子の言葉にそう返すグレイス王女。
少し含みのある言い方ね。
どうやらこの場に呼ばれた事に、
グレイス王女も少し不満があるようね。
こういう場合は様子を見るべきね。
だがホストであるラミネス王太子は、
非常に落ち着いている、この辺は流石ね。
そして場の空をほぐすように、彼は語り出した。
「では、早速だが会議を始めたいと思います。
会議の議題は、東洋の島国「ジャパング」に関しての事です。
既に皆様もご存じでしょうが、
我がアスカンテレス王国は、
東洋の島国「ジャパング」に多くの使者や特使を送っております。
ですが「ジャパング」の政府。
そして反政府の首領は予想外に優秀で、
我々が彼の国の支配権を確立するまでには至っておりません」
ラミネス王太子は、ここで一度言葉を区切って、
周囲の会議の参加者達に視線を向けた。
誰も彼もがポーカーフェイスで、口を閉ざしていた。
「ですのでエストラーダ王国。
そしてジェルミナ共和国にも協力を仰ぎたく存じます」
「協力って具体的に何をすれば良いのかしら?」
「グレイス王女殿下。
まずはリーファ殿の盟友に彼女と同行して、
「ジャパング」へ長期遠征して頂きたく存じます」
「ふうん、つまりエイシルにまたリーファさんと一緒に、
行動するようにしろ、という訳かしら?」
「王女殿下、その通りでございます」
「ふうん、でも確約は出来ないわね。
エイシルにも彼女の生活があるし、
……エイシル、貴方的にどうなの?」
「い、いえ……急に話を振られて困惑してます。
正直、どう答えていいか、悩んでおります」
エイシルの反応は正常ね。
こんな話をいきなり振られたらそりゃ戸惑うわ。
でもここから甘言を弄するのが我等の王太子なのよね。
「まあ確かにいきなりは決断を出来ないでしょう。
但しこの任務を受けてただけら、
前金として戦乙女の盟友には、
5000万ローム(約5000万円)を支払わせて頂きます」
「5000万ローム(約5000万円)っ!?
それはマジだピョンか!」
「ら、ラビンソン卿、声が大きいですぞ?」
5000万の大金に釣られたのは、ラビンソン卿。
ジュリアス将軍が彼を窘めるが、
当の本人は鼻息を荒くして瞳を輝かせていた。
「尚、月々の給金として300万ロームも支払います。
任務の成功具合によっては、
成功報酬の方にも色をつけたいと思います」
「いいね、いいね。 良し、ボクは参加するピョン」
決断、早っ!
ある意味、彼のこういう所は凄いと思うわ。
でもマズい流れね。
勝手に私が遠征に参加する方向で話が進んでない?
「ラビンソン卿、貴方の派遣は、
この統領である私が決める。
それで王太子殿下、ラビンソン卿個人の報酬は、
理解しましたが、我が国に対してのメリットをお聞かせください」
レーガー統領がストレートにそう問う。
「そうですね、私の主目的は、
「ジャパング」における金鉱山の採掘権を得る事です。
彼の地には、まだまだ黄金が眠ってます。
また「ジャパング」は、ほんの数年前までは、
鎖国状態だったので、海外事情に疎く、
我々が金の代わりに銀を取り引き材料に使って、
彼等から多くの金を搾取している、というのが現状です」
「ほう」
「へえ」
あっ、レーガー統領とグレイス王女の目の色が変わった。
成る程、この話が本当ならば、
エルフ族と兎人としても、
この巨大利権を無視する事はないでしょう。
それを最初から見越した上で、
このように話を切り出している。
やはりこの王太子、並の王族、男ではないわね。
「エストラーダ王国とジェルミナ共和国。
この両国の協力を得れたら、まさに虎に翼。
そしてその恩に報いるべく、
それ相応の報酬と対価を支払わせて頂きます」
「悪くない話ね。
とりあえず話だけでも聞かせて頂くわ」
「私も同じ意見です。
但し妙な駆け引きは止めて頂きたい。
お互いに腹を割って、話し合いましょう」
「ふふっ、勿論ですよ」
……。
あのう、私の意思は無視ですか~?
まあここで「ノー」と強く言うのはまだ早いわ。
そして私も少しだけ興味が出てきたわ。
「黄金の国」かあ~。
どんな国かは知らないけど、
この国に眠る金は、良くも悪くも興味深いわね。
……。
でも最近、お金周りも良いし、
ここで無理する必要もないよねえ。
だけど今の生活に退屈しているのも事実。
とりあえず話だけでも聞いてみましょうかね……。
次回の更新は2025年3月19日(水)の予定です。
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