表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

314/339

第三百十一話 王太子の甘言(前編)



-----主人公視点-----


黄金の国(エルドラド)ですか」


 私はそう言って、興味なさげな表情を浮かべた。

 まあ実際は少し興味あるけどね。

 でも相手はラミネス王太子殿下。


 彼の甘言に乗せられるつもりはないわ。

 どうせ楽な任務じゃないでしょうしね。


「……あまり興味がないようだね?」


「いえ、正直あまり実感が沸かないのですよ。

 東洋の国なんか行った事無いし、

 急に黄金の国と言われても、あまりピンと来ませんわ」


「ふふふっ、どうやら警戒しているようだね。

 まあ私は君のそういうところも買っているがね。

 でも君が思っているような危険な任務ではないよ。

 我がアスカンテレス王国は、

 その東洋の島国――ジャパングの政府と反政府。

 その両勢力に既に使者や特使を送り込んで、

 表と裏からジャパングに干渉している」


 まあこの辺の言葉に嘘はないでしょうね。

 これはアスカンテレス王国に限った事じゃないわ。

 他大陸の国に侵略、侵攻する際には、

 外圧だけでなく、内部から操る、あるいは腐食させるのは、

 植民地化の基本マニュアルだわ。


 でも噂じゃジャパングは、

 その外圧を受けつつも、

 完全には屈さず独立性を保っている。

 みたいな話を最近聞いた気がするわ。


「俺が聞いた話とは少し違うな。

 その東洋の島国は、

 確かに諸外国の干渉を受けているが、

 傀儡政権を樹立するまでには、至っておらず、

 国こそ小さいが、各勢力の頭目は、

 決して莫迦ばかではなく、逆に各国の使者を

 手玉に取っている、みたいな話を聞いたがな」


 あ~、シュバルツ元帥。

 いきなりそれを言っちゃうの?

 まあ元帥的に牽制してるつもりだろうけど、

 こういう風に言うと、

 ラミネス王太子に発言権を与えちゃうわ。


「ほう、流石は元帝国元帥。

 隷属化しても、頭の中身は錆び付いてないようだな」


「別に……、これぐらいの事なら、

 誰でも知っているだろう。

 まあアンタ――王太子殿下としては、

 俺やリーファ殿を自分の手駒として、

 その東洋の島国に送りたいのだろうが、

 俺やリーファ殿にも都合というものがある」


 ……。

 王太子相手にこの言い様。

 やはり元帝国元帥の肩書きは伊達じゃないわね。


 そうね。

 ここは元帥を使って、拒否の姿勢を示すのも有りね。


「成る程、確かにその通りだ。

 ならば都合がつけば、

 君個人としての意見を聞かせて欲しい」


「俺はリーファ殿の、マスターしもべに過ぎぬ。

 だから彼女の決めた事に従う」


「成る程、ある意味、理想的なしもべだな。

 では他の者の意見も聞かせて欲しい。

 君は――アストロスくんだったな。

 君はどうだ? ん?」


「私も元帥と同じ考えです。

 お嬢様の決めた事に従います」


「そうか、ではそこのエルフ族の女性。

 そう、名前は確かエイシルくんだったね」


「ボク――私の名前を覚えて頂けて光栄です」


「うむ、それで君の意見は?」


「え~と、あまりにも急な話なので、

 困惑してますが、

 正直、東洋の島国に遠征するのは、少し気が引けますね。

 今は魔法、魔術ギルドでの活動が楽しいので……」


 やんわりと断るエイシル。

 そりゃそうよね。

 こんな話、いきなり振られても困るわ。


 王太子殿下も自分の考えを貫くのは、

 悪い事じゃないと思うけど、

 それを他者に強要するのは……ね。


「まあ君達がそう思うのも無理はない。

 でもこの任務に参加すれば。

 君達には大きなリターンがある。

 そしてリーファ嬢、君の意見は?」


 ……。

 ここが大事ね。

 曖昧な言葉じゃ王太子殿下に付け入る隙を与える。

 だからここは拒否の姿勢を強く示しましょう。


「正直、私もあまり乗り気じゃないです。

 今は確かに自由気ままに暮らしてますが、

 今でも時々、帝国との戦いの事を夢に観ます。

 周りからすれば、呆けているように見えるかもしれませんが、

 私個人、後二、三年はゆっくりしたい。

 というのが本音でございますわ」


「そうか……」


「はい」


 さて、王太子殿下はどう出るのか。

 ここは辛抱強く彼の言葉を待ちましょう。

 するとラミネス王太子は、にっと笑い――


「確かに急な話だったな。

 君達が困惑するのも至極当然だ。

 それに今日はリーファ嬢の誕生日。

 そのような場で話す内容じゃなかったな。

 今日のところはこれで引き上げよう」


 どうやら王太子殿下も諦めてくれ――


「だが日を改めて、

 ここに居る六人を我がアスラ宮殿に招待したいと思う。

 各自、私用もあるだろうから、

 君達は一週間後の6月23日にアスラ宮殿に来てくれたまえ」


 ……。

 こちらの都合を考えずに、

 勝手に話を進める辺りは王族の特権ね。


 でも王族に招待されて、

 断れば、後々面倒な事になりかねない。

 仕方ない、この招待は素直に受けましょう」


「……とりあえず私は、ご招待をお受けしますわ。

 アストロスとジェイン、元帥もそれでいいわね?」


「はい」「ウン」「嗚呼」


「相変わらず決断が早い。

 私は君のそういうところも好きだよ」


「……ありがとうございます」


「では今日はこれで失礼する。

 皆でリーファ嬢の誕生日を祝ってあげたまえ」


 そう言って、王太子殿下は、

 背を向けてこの庭のテラスを後にした。


 しばらくは皆、黙っていたが、

 王太子殿下が完全にこの場から居なくなると――


「やれやれ、強引な御仁’ごじん)だ」


「ウン、オイラも元帥と同じ意見だワン」


「う~、ボク。 出来れば行きたくないです」


「アタシも同じ気持ちだわさ。

 でも断ると角が立つし……。

 リーファさんは、このお話受けるつもりなの?」


 私はロミーナの問いに一瞬考え込んだ。

 個人的には、拒否したい気持ちが強いけど、

 今の現状にやや飽きているのも事実。


 でも東洋の島国か~。

 そんな遠くの国で任務する。

 というのは少々気が引けるわ。


「う~ん、私もあまり乗り気じゃないわ。

 でも相手は王太子殿下だからね。

 この一週間の間に色々と根回ししそう」


「充分にあり得ますね」


 と、アストロス。


「とりあえず皆、また一週間後に会いましょう。

 今日は私の誕生日ですから、

 嫌なことは忘れて、楽しみましょう」


「そうですね」


「そうだわさ」


 エイシルとロミーナも小さく頷く。

 だが興を削がれたのも事実。


 その後、夕方くらいまで、

 誕生日パーティーを続けたけど、

 エイシルやロミーナは浮かない顔のままだったわ。


「お嬢様、そろそろお開きにしましょう」


「アストロス、そうね。 そうしましょう」


「リーファ殿、少し良いかな?」


「元帥、何かしら?」


「俺個人は、王太子殿下の誘いに乗っても良いと思う。

 ここの生活は、何不自由ないものだが、

 元軍人の俺からすれば、少々退屈だ。

 だから気分展開も兼ねて、

 遠い異国へ行く、というのも悪くないと思っている。

 だがその考えをリーファ殿に押しつける気はない」


「そうね、私もよく考えて結論を出すわ。

 とりあえず今日はもう休みましょう。

 明日以降に貴方達の服も整えるわ」


「うむ、分かった」


 こうして私の19回目の誕生日は、

 王太子殿下の登場によって、

 水を差された感じとなったけど、

 一応は問題なく誕生日会を無事終えた。


 そして翌日の6月17日に、

 王都の商業区のリブリース商会の高級仕立屋オートクチュールで、

 アストロス、ジェイン、元帥の服を新調したわ。


 私もドレスを新調しようと思ったけど、

 今回は戦乙女ヴァルキュリアらしく、

 半袖の黒いインナースーツの上から、

 白銀の軽鎧ライト・アーマー

 背中には白い外套という格好で会議に出席する事にした。


 それから数日が過ぎた6月23日。

 私達は二台の馬車にそれぞれ乗って、

 午前11時過ぎにアスラ王宮に到着。


 アストロスは白いベストに黒のスラックス。

 その上から黒いコートを羽織るという格好。


 ジェインは半袖の黒いインナースーツ。

 その上に黄緑色のコートとズボンを着るという格好。


 シュバルツ元帥は、黒いインナースーツの上に、

 これまた黒の礼服と黒のスラックスという姿。


 まあ一応、皆、さまになってるわね。

 でもここからは油断出来ない状況が続くわ。


「じゃあ皆行くわよ。

 くれぐれも無礼がないように!」


「はい」「ウン」「嗚呼」


 そして私達は、横一列に並び王宮の立派な正門を潜った。


次回の更新は2025年3月15日(土)の予定です。


ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、

お気に召したらポチっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

宜しければこちらの作品も読んでください!

黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ラミネス王太子、かなり強引ですね。 ですが、そこに屈しないのもリーファの魅力です。 さてさて、ラミネスはどんな言葉で懐柔してくるのか。 黄金の国にどう出発するかまで楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ