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第三百六話 武陵桃源(前編)


-----三人称視点---



 聖歴せいれき1758年5月31日。

 帝国との戦いが終わって、早くも半年が過ぎた。


 最初の頃は、与えられた領地。

 アスカンテレス王国の南部エリアの領地アルディオスの内政に

 力を入れていたリーファであったが、

 すぐにそれにも飽きて、

 領主代行に知人の貴族を据えて、

 領地の税収のみを受け取る事となった。


 とはいえ金銭的には困ってなかったので、

 様々な税金を下げて、

 領民達にとって住みやすい環境を整えた。


 それ以外は

 アストロスやジェイン、シュバルツを引き連れて、

 舞踏会や音楽会、夜会など参加して日々を楽しんだ。


 だが次第にそれにも飽き始めた。

 それ以降は基本的にフォルナイゼンていで、

 白いガーデンチェアに

 腰掛けながら、日光浴などを楽しんでいた。


 あれだけ自由になる事を望んでいたが、

 いざそれが現実のものとなると、

 どのように自由を満喫していいか分からず、

 興味のある事をしては、すぐ飽き、

 また違う事をしては、飽きるといったある意味、

 貴族らしい生活を半年以上送っていた。


 だが当人はそれに満足した様子だった。

 ここ二年余りはあの帝国との戦いで、

 常に緊張感に満ちた戦場を駆け巡り、

 元義妹と死闘に明け暮れた。


 だからアストロスとジェインも

 リーファのこの自由気ままな生活に不平を漏らさなかったが、

 元軍人であるシュバルツ元帥は、

 流石に暇を持て余していたようで、

 時々に冒険者依頼を受けて、

 近場の迷宮や狩り場へ行くようにリーファに申し立てた。


 リーファ自身、身体をなまらせたくなかったので、

 シュバルツ元帥の申し出を素直に聞き入れて、

 元帥やアストロス、ジェインと共に迷宮や狩り場に繰り出した。


 そんな感じで半年があっという間に過ぎて、

 気が付けば五月も終わろうとしていた。


「ああ~、暇ね。 何か面白い事はないかしら?

 忙しすぎず、暇すぎず、程よい刺激はないかしら?」


 白いガーデンチェアにもたれかかりながら、

 リーファはやや覇気のない声でそう言った。


「そうはいっても今は戦争が終わって平和ですからね。

 我がアスカンテレス王国だけでなく、

 ガースノイド王国も内政に力を入れているようです」


 リーファの近くに立つ黒い執事服姿のアストロスがそう言った。


「でも他大陸での入植活動には力を入れてるみたいよ」


 黄緑色のコートとズボンという格好のジェインがそう言う。

 するとリーファの好奇心が少し刺激された模様。


「ああ~、所謂、植民地政策ね。

 かつては新大陸のアーメリアが有名だったけど、

 独立戦争を起こして、

 今では独立国家としての道を歩んでいるわね」


「嗚呼、最早アーメリア共和国は、

 エレムダール大陸の各国に引けを取らない大国だ。

 今では周辺の地域や土地を宗主国から買収。

 あるいは戦争を挑んで、自国領土に組み込んでいる有り様だ」


 黒いインナースーツの上から、

 これまた上下の黒衣を纏ったシュバルツ元帥がそう告げた。


「あら? いつの間にか、自国領土を拡大してるのね?

 じゃあ、アーメリア大陸での入植政策は、失敗という事ね。

 それじゃ今ではアレニア大陸やその東にある東洋の地が

 主な入植先になってるのかしら?」


 リーファは特に深い考えがあって、

 言ったわけではなかったが、

 実は彼女の言った事は正しかった。


「ほう、遊び呆けているようで、

 その辺の読みと分析力は錆び付いてないようだな」


 感心した様子でそう言うシュバルツ元帥。


「あら? 実際にその通りなの?

 私は物凄く適当な意見を言っただけよ。

 また香辛料やチューリップの交易に精を出しているの?」


「無論、それらの交易は、常に行われてますが、

 今は東洋のとある島国に各国の注目が集まってます」


「アストロス、その東洋の島国は何があるの?」


「ズバリ申し上げます。

 その東洋の島国には、大量のきんがあります」


きん? つまり黄金おうごんの事よね?」


「そうです、だが今その島国――ジャパングでは、

 大規模な内乱が起きつつあります。

 その機に乗じて各国の使者や武官が

 政府側、反政府側にそれぞれ支援して、

 その報償として、黄金を得ている。

 というのが今このエレムダール大陸での今の流行りですね」


 アストロスの言葉に、リーファは「へえ」と少し興味を示した。


「じゃあその島国は、俗に言う「黄金の国(エルドラド)」なのかしら?」


「そう言っても過言はないだろう」


 と、シュバルツ元帥。


「そう、だから他の国が夢中になるのも無理ないわね。

 でもそれじゃ現時点でも内部から支配されてるのでは?」


 リーファがそう思うのは当然であったが、

 アストロスから意外な内情を聞かされた。


「いえ、そういう訳でもなさそうですよ。

 確かに政府側にも反政府側にも各国の息がかかってますが、

 傀儡政権を樹立するまでには、至ってないようです。

 国こそ小さいですが、各勢力の頭目は、

 決して愚かではなく、逆に各国の使者を

 手玉に取っている節もあるようです。

 軍人のレベル、特に刀術に関しては超一流。

 国民の教育水準も識字率も高いようです」


「へえ、何か他の東洋の国とは少し違うようね」


「ええ、ですので今ではこの東洋の島国。

 通称「ジャパング」が王族や貴族の間の関心を高めてます」


「ふうん、少し気になる国ね」


「ふふっ、リーファ殿も興味が沸いたのかね?」


「元帥、まあ少し興味は沸いたけど、

 今の私には関係ないわ。

 私はまだまだ長い休暇を満喫したいわ」


「そうか、まあそれも良かろう。

 只、俺としては正直暇が続いてるのでな。

 後でアストロス君を交えて、

 剣術の稽古でもしないか?」


「そうね、それも悪くない話ね。

 でももう少しゆっくりするわ」


「そうか」


 だが結局この日は、

 リーファが剣術の稽古をする事はなく、

 アストロスとシュバルツ元帥の二人で、

 模擬戦を何度か行う事になった。


 リーファは日光浴や読書をしながら、

 二人の模擬戦を横目で見ていたが、

 どうやら彼女の中の勤労意欲は、まだ睡眠中のようで、

 このように平穏で怠惰の日々を送っていた。


次回の更新は2025年2月26日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
 新章のリーファの立ち位置はジュール・ブリュネですね。土方歳三と協同したフランス人です。  とはいえ今のリーファは平和を満喫しており、ジャパングの気配はない。そこからどう動くか楽しみですね。  ではま…
更新お疲れ様です。 戦闘が終わった後のリーファはかなり怠惰。 様々な因縁が終わった今、どうエルドラド出発へと繋がるのかも注目ですね! それにしても、アストロスとシュバルツ元帥の模擬戦はアストロスの…
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