序章(プロローグ)
序章
第二部【|日出ずる国】編
エレムダール大陸から、遙か遙か東にある島国。
その国はエレムダール大陸の住人から、
「ジャパング」と呼ばれている。
その列島は周囲を様々な海に囲まれており、
この小さき島に、
原住民である日本人以外のエレムダール大陸の各国の使者が
政権を握る大江戸幕府。
その幕府を打倒して、
開国という名の元に戦う倒幕派。
相反する二つの勢力に背後から力を貸して、
この小さき列島を我が物にしようとする外国勢力。
だが日本人も馬鹿ではなかった。
各国の使者を自勢力に引き込みつつ、
情報や火器や魔道具、様々な技術を提供してもらい、
急速に文化レベルと産業レベルを向上させていた。
自らの権力を護ろうとする大江戸幕府。
この国――「ジャパング」。
原住民が定める国号は「日ノ本」。
この国――「日ノ本」を諸外国の脅威から、
護りつつ、独立国家として歩むべく、
大江戸幕府の打倒を目論む倒幕派。
その二つの勢力がこの狭い列島で凌ぎを削る中、
この「ジャパング」の眠る広大な金鉱脈。
それらを巡って、日本人同士。
またエレムダール大陸の各国の使者を交えて、
この小さき列島で、
欲望と野望が渦巻いた戦いが繰り広げられようとしていた。
---------
時は明治二年。
東洋の島国「日ノ本」。
その最北に位置する北の大地――蝦夷地の函館。
その函館郊外に築造された稜堡式の城郭。
通称・「五稜郭」に旧幕府軍が陣取っていた。
大江戸幕府が滅び、倒幕派が実権を握り、
「開国」という名の元に新政府が樹立されて国号も「日ノ本」と定められた、
既に世の流れが変わった中で、
旧幕府軍が残存勢力をかき集めて、
この蝦夷の地に蝦夷共和国の樹立を宣言。
それは古い時代に囚われた旧幕府軍の往生際の悪さから産まれた政府だ。
勿論、新政府の首脳部達はそれを快く思わず、
新政府軍は、約一千の部隊をこの北の大地に派兵した。
「聖さん、新政府が討伐軍を派遣したようです」
「榎田さん、そうか。
それで貴方としては、どうするつもりですか?」
榎田と呼ばれた人物。
榎田武揚は、この北の大地――蝦夷、
に成立された蝦夷共和国の総裁を務める中年男性だ。
顔は比較的整っており、
その両眼には知性らしきものが宿っていた。
その中肉中背の身体に、
黒い礼服を纏っている姿がまた絵になる男である。
「聖さん、ここは君が兵を率いて、
討伐軍を撃退してもらえないか?」
榎田に聖と呼ばれた目つきの鋭い中年男性は「嗚呼」と頷く。
彼の名前は聖歳三。
髪はやや長く黒髪、身長はそれ程高くないが、手足は程よい長さ。
上下黒の軍服姿で、腰に2尺8寸の刀を差していた。
彼は大江戸幕府が滅ぶ前の大江戸時代末期に、
花の都・京の治安維持の為に、
結成された剣客集団「神剣組」の副長を務める人物だ。
だが今ではかつての隊員の多くが戦死、脱退して、
最強の剣客集団と呼ばれた頃の姿はなかった。
しかしそんな中でも聖の眼は死んでなかった。
それはある意味、死を覚悟した。
あるいは死に場所を求めて戦う戦士の眼であった。
「これから兵を率いて、
討伐軍を撃退してみせよう」
「うむ、聖さん。 期待してますよ」
「嗚呼、任せてくれ」
そう言って、聖は五稜郭を後にした。
すると五稜郭の入り口で、
一人の人物が聖の事を待っていた。
「……ヒジリさん」
そう言ってその金髪碧眼の美女が聖に歩み寄った。
身長は168セレチ(約168センチ)、手足は長く、
凹凸のある見事なプロポーションだ。
黒い光沢のあるレオタードに身を包み、
背中には裏地の赤い黒マントを羽織っていた。
そして剣帯に吊るした黒鞘に聖剣を帯剣していた。
着る者を選ぶ衣装デザインであったが、
この金髪碧眼の美女は見事に着こなしていた。
「リーファ殿、まだこの蝦夷に居たのか?」
聖は眼前の美女――リーファ・フォルナイゼンにそう言った。
するとリーファは、神妙な顔をして言葉を紡ぐ。
「まだ戦われるのですか?
もう幕府も神剣組もないのですよ?」
「幕府は滅びたが、神剣組は滅びてない。
この副長の俺が居る限り、神剣組は不滅だ」
「もう残された隊員は殆ど居ないでしょう。
仮にこの戦いに勝っても、
最終的に負けるのは目に見えております」
「……そうかもしれんな」
「……じゃあ何故まだ戦うのですか?」
リーファはそう言って、真っ直ぐな眼で聖を見据えた。
すると聖も曇りのない瞳でリーファを見つめた。
「このまま逃げるのは性に合わぬ。
既に多くの隊員や同士、戦友を失った。
ここで俺が逃げたら、彼等にあの世で顔向け出来ぬ」
「そんな事に義理立てて……。
死んでしまったら、全てが終わりですのよ?」
「嗚呼、その通りだ。
だが俺は一人の人間である前に、神剣組の副長だ。
その副長が自分の命惜しさに、
新政府に鞍替えするなんて真似は出来ぬ」
「……相変わらず頑固な方ですね。
それにとても凝り固まった考え方ですわ」
「嗚呼、そうだ、その通りだ。
俺は凝り固まった人間だ。
俺はこうして生きてきて、ここまで戦って来た。
そして最後までそれを貫くつもりだ……」
「……何も言っても無駄のようですね」
「嗚呼、だが俺から君に最後の言葉を送ろう。
もうこれ以上、俺に関わるのはよせ。
君は未来ある身、これ以上この国に留まる必要もなかろう。
仲間と共に大人しく本国に帰るべきだ」
「……」
「じゃあ俺はもう行くよ。
先に云っておくよ、――さようなら」
「……」
聖は最後にそう言い残して、
リーファに背を向けて、前へ歩き出した、
リーファはその後ろ姿をみて、
何とも言えない気分に晒された。
でも彼女から彼に云うべき言葉はもうなかった。
そして聖は後ろに振り返る事なく、
兵士達を引き連れて、戦地へと赴いた。
次回の更新は2025年2月22日(土)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。




