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第三百五話 牽衣頓足(後編)



-----三人称視点---



 アーク・ヘレナ島。

 アレニア大陸の西部に浮かぶヴィオラール領の火山島である。


 絶海の孤島であるため流刑地として使用され、

 この度、ナバール・ボルティネスの幽閉の地として選ばれた。


 ナバールはタファレル元元帥。

 元総参謀長ザイドと共にこの火山島に到着。


 尚、ナバールの監視役として、

 彼の護衛役、医者、料理人、従者など数十人に及ぶもの者達が

 ナバール達とこの孤島で住むことになった。


 この孤島でナバールは、厳しい監視を受けながら、

 庭仕事や散歩、読書、自身の回想録の口述筆記をしながら、

 のんびりと余生を送る事となった。


 だが多くの監視役達は、

 常にナバールの動向に細心の注意を払っていた。


「ここまで来れば、奴が歴史の表舞台に戻る事はないだろうが、

 くれぐれも油断しないようにな」


「心得ています」


「今すぐは無理だが、

 後、数ヶ月、経ったら奴の食事にアレ(・・)を混ぜろ」


「ええ、分かっております」


「ところで元皇太子はどうしている?」


「噂じゃペリゾンテのホーランド宮殿に幽閉されているようです」


「そうか、まあ奴にもいずれアレ(・・)入りの食事が出されるだろう」


「ええ、恐らくそうなるでしょう」


「ふふふ、親子揃って同じ最後を迎えそうだな」


 そう言葉を交わす従者という名の監視役達。

 そして肝心の元皇帝は庭仕事に勤しんでいた。


「うむ、こうして庭仕事をするのも悪くないな」


 予想に反して、上機嫌な元皇帝。

 あるいは絶望すらも通り過ぎた、

 諦めの境地だったのかもしれない。

 だが傍目には元気そうに見えた。


 そしてかつての元帥と総参謀長が

 そんな元皇帝の姿を見据えて――


「陛下も思ったより元気そうだな」


「タファレル元帥、そう見えるか?

 私には牙を抜かれた獣のような姿に見えるぞ」


「総参謀長、あの方の戦いの歴史は終わったのだ。

 だからこの絶海の孤島で前向きに生きる。

 これはこれで悪くない……のかもしれない」


「しかし想像以上に監視の目が厳しいな。

 我々も常に両手に魔封の腕輪を嵌められた状態だし」


 タファレルは、そう言って、

 両手に嵌まった魔封の黒い腕輪を見据えた。


 同じように元総参謀長ザイドの両手にも

 魔封の黒い腕輪が嵌められていた。


「まあ変な気を起こさない事だな。

 俺も貴公も自分の意思で陛下と同行した。

 これから先は、変な気を持たず静かに暮らそう」


「まあ……そうだな、せめて私達だけでも、

 あの方についていてあげよう。

 私も貴公も青春と情熱の全てを帝国と陛下に捧げた。

 今更、他の生き方など出来ぬ」


「そうだな、元帥。 貴公の云うとおりだ。

 フーベルクのように王党派に鞍替えなどしたくない。

 後は死を待つだけの生活になるだろうが、

 あまり難しい事は考えず、

 のんびりと過ごそう」


「そうだな……」


 最後まで皇帝についていく。

 二人の選んだ選択肢が正しかったかは、

 分からないが、元首に使える臣下としては、

 見習うべき点があったかもしれない。


 結局、ナバールもザイド、タファレルもこの孤島から出る事なく、

 のんびりと余生を送る事となった。



---------


「これは驚いた。

 流石はアスカンテレス王国のVIPヴィップ

 その若さでこのような大きな邸に住んでるととは……」


 王都アスカンブルグのフォルナイゼンてい

 その邸を見て、シュバルツ元帥が驚きの声を上げた。


「元々は私の生家でしたが、

 婚約破棄と追放騒動の末、

 実父や義母とマリーダを追放して、

 私個人の屋敷として、取り戻した形です」


「成る程……。

 君も若い身で色々経験してるんだな」


「まあ確かに一、二年で色々な経験しましたわね。

 まるで激動の日々でしたわ」


「そうだな、私もまさかアスカンテレスの戦乙女ヴァルキュリアに、

 仕える事になるとは、思いもしなかったよ」


「人生なんてそんなモノだワン」


 と、ジェイン。


「これも何かのえんですよ」


 アストロスもそう相槌を打つ。


「そうだな、これも生き残った者の特権かもな。

 まあ残りの人生も前向きに生きてみるか……」


「うふふ、元帥。 期待してますわよ」


「……微力を尽すよ」


 そう言葉を交わして、シュバルツ元帥は、前方の屋敷を見据えた。

 三階建ての綺麗な白い館。

 正面の玄関口には一角獣が左右対称に、

 中央の金の十字架を取り囲んだフォルナイゼン家の家紋エンブレムが飾られている。


 そして玄関口の前で合計十五人以上の執事とメイド達が

 立っていて、リーファ達の姿を見るなり、声を揃えて――


「お帰りなさいませ、リーファお嬢様!!」


 全員そう挨拶をして、綺麗な姿勢でお辞儀した。

 

「皆、お出迎えありがとう。

 彼はアレクシス・シュバルツ。

 これからこの屋敷に住むからお世話してね」


「……アレクシス・シュバルツだ、宜しく頼む」


「シュバルツ様、わたくしは執事のリックスと申します。

 御用があれば、何なりと申してください」


「嗚呼、リックス……くん、宜しくな」


「とりあえずシュバルツ元帥用に空き部屋を

 掃除して、すぐに住めるようにして頂戴」


「はいっ!」


 リーファがそう指示すると、

 眼前の執事とメイドがてきぱきと動き出した。


「ふっ、流石は元侯爵令嬢。

 見事な指示っぷりだな」


「まあ今では慣れっこですわ」


「……これからは君の為に尽力するよ。

 何かあれば私を使ってくれ」


「元帥、その気持ちは有り難いわ。

 でも本音を言うと、

 私は少し戦いに疲れたから、

 しばらくはこの屋敷でゆっくり暮らしたいわ」


「そうか、まあ君も戦いに明け暮れたからな。

 しばらくは休息が必要かもしれんな」


「ええ、お嬢様はしばらくごゆっくりください」


 と、アストロス。


「そうね、そのお言葉に甘えるわ」


 リーファはそう言って、虚空を見澄ました。

 思えばたった二年余りでリーファの人生は大きく変わった。


 婚約破棄から始まり、追放騒動。

 そして戦乙女ヴァルキュリアとなって身内を追放、


 そこからのマリーダのまさかの復権。

 その後は血みどろの四連戦。


 この二年はまさに戦いの歴史であった。

 

「たった二年でこうも人生が変わるのね。

 でも今となっては、悪くない思い出ね。

 さあ、皆。 屋敷に入って休みましょう」


「はい」「ウン」「嗚呼」


 そしてリーファ達は、フォルナイゼン邸に入った。

 連合軍と帝国軍の戦いは終わり、

 リーファとその盟友にも休息が訪れた。


 戦乙女ヴァルキュリアと言えど、元は普通の人間。

 故に休息も必要である。


 だがリーファの戦乙女ヴァルキュリアとしての契約期間は、

 後、八年くらい残っていた。


 しかし今はそんな事を忘れて、

 ゆっくりと休みたい。


 それがリーファの嘘偽りのない本音であった。


 だが彼女は戦乙女ヴァルキュリア

 いずれまた何らかの形で戦う事になるであろう。

 リーファ自身、頭の何処かではそれを理解していた。


 でも今はその時じゃない。

 彼女にも休息は必要なのだから……。

 

 こうしてリーファ・フォルナイゼンの人生に一つの区切りがついたが、

 彼女の物語はここで終わる事なく、

 彼女の冒険と戦いはまだまだ続く事になるが、

 今は盟友と共に、屋敷で静養の日々を送る事となった。




【アスカンテレスの戦乙女ヴァルキュリア・第一部『帝国』編・終わり】




                        To be continued  



次回の更新は2025年2月19日(水)の予定です。


これで第一部「帝国編」は終わりです。

ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます。

皆様のおかげで、ここまで書く事が出来ましたが、

本作はまだまだ続く予定です!


ここまで読んで面白かったと思っていただけましたら、

下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を是非★★★★★に!

続きも読んでもいいと思われましたら、ブックマークをお願いします!


またご意見や感想、誤字報告、レビューなど頂けましたら、

作者としても嬉しいです。


それでは皆様、今後ともよろしくお願いたします!

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黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
今回で帝国との戦いは終わりました。中身の濃い2年でしたね。 ですが現実は悪役が倒されて終わりにはならない。  何が起こるかわかりませんが、リーファは平和を楽しむことでしょう。  如月さんも濃厚な描写を…
更新お疲れ様です。 そして、第一部「帝国編」の終了お疲れ様です。 連載開始から約2年。 物語でも同様の月日が経ち、婚約破棄に対する「ざまぁ」に加えて、戦乙女の謎とその究明や、契約してきた後に出てきた…
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