第三百四話 牽衣頓足(前編)
-----三人称視点---
リーファが王城の謁見の間に踏み入れた時には、
既にレイル十六世、フーベルグ。
そして各国の首脳部の姿が見えた。
赤い絨毯の先にある玉座にレイル十六世が腰掛け、
その左隣に礼服姿のフーベルクが立っていた。
そしてレイル十六世の右手側の位置に、
ラミネス王太子、グレイス王女。
ジェルミア共和国のジュリアス将軍。
またクーガー統領が縦一列に並んでいた。
よく見るとあの小さな大魔導師。
ラッピ-・ラビンソンの姿も見えた。
部屋の内装は豪華で、
置かれている調度品のセンスも非常に良かった。
この場に居るだけで、身が引き締まった気分になれた。
「良く来てくれた、戦乙女とその盟友よ。
そう固くなる必要はない。
リラックスすると良い」
玉座に座るレイル十六世が鷹揚な口調でそう言う。
「はっ!」
リーファ達は赤い絨毯を踏みしめて前へ進んだ。
そして前列にジェイン、ロミーナ、エイシル。
後列にアストロス、リーファ、シュバルツ。
という並べで、左膝を床につけて頭を垂れた。
「うむ、礼儀を弁えているな。
流石は噂に名高い戦乙女とその盟友だ。
そんな貴公等に褒美を与えようと思う。 ――ラミネス王太子」
「御意」
新国王に呼ばれたラミネス王太子は、
列から真横に移動して、
床に跪くリーファ達の前で立った。
「戦乙女リーファとその盟友よ。
まず貴殿等には、聖龍討伐による報酬を支払おう。
聖龍二体で6000万ローム(約6000万円)を
そこに居るラビンソン卿と分配するがいい」
「はい!」
「あっ、シュバルツ殿はノーカウントよ。
ボクとリーファくんとそこの四人で分けるピョン。
とりあえず一人頭1000万ロームでいいかな?」
「ええ、問題ありませんわ」
と、リーファ。
「ピョン、話が早くて助かるピョン」
「それはあくまで聖龍討伐の報酬だ。
それとは別に今回の勝利の立役者であるリーファ嬢達には、
リーファ嬢には、一億ローム(約一億円)の褒賞金。
またアスカンテレス王国の領地の一部を与えよう」
「……領地ですか?」
「うむ、君はそれくらい活躍したからな。
だからこれくらいの褒美は当然と思うよ」
これにはリーファも驚いた。
でもこんな好条件を断る理由はない。
だから彼女は素直に喜んだ。
「ありがとうございます。
王太子殿下の陛下の寛大な処置に感謝致します」
「うむ、また盟友四人に関しても、
一人頭2000万ロームの報酬を支払おう。
冒険者ギルドの銀行口座に送金したいので、
お手数だが君達の冒険者の証を提出して貰いたい」
「「「「ありがとうございます」」」」
アストロス達は声を揃えて、感謝の気持ちを伝えた。
そして自分達の冒険者の証を提出。
するとラミネス王太子がリーファ達の冒険者の証の登録番号を
手元の羊皮紙に羽根ペンですらすらと書き写した。
それから王太子は、リーファ達に冒険者の樫を返して――
「君達には本当に助けられたからな。
だからこれくらいの報酬は当然な事さ。
だが帝国と皇帝が滅びた今、
再び君達もパーディ解散の時がやってきたようだ」
パーティ解散。
帝国と皇帝を打倒した今。
リーファとその盟友がパーティを組む理由も消えた。
だからこの決定が妥当といえた。
だが当人等からすれば、
やはり寂しい気持ちになった。
「だが君達の自由意志も尊重したい。
今後もリーファ嬢と同行したい。
と言う者は挙手して申告せよ」
「ハイ、ハイ、ハイだわん」
「自分は元々お嬢様の従者ですので」
「俺は彼女と契約した。
だから何処までもついて行くさ」
ジェイン、アストロス、シュバルツの三人は、
リーファと同行するという意思表示を示した。
「エイシル、貴方はどうするの?」
「グレイス王女殿下、私は本国に戻るつもりです。
今後は母国の為、自身の魔法の研究に力を入れたいです。
まあ別れが名残惜しいのも事実ですが……」
「ラスタールくん、君はどうするつもりだね?」
「うむ、君の本音を述べたまえっ!」
ジュリアス将軍とクーガー統領がそう問い質す。
するとロミーナは、胸の前で両手を組んで――
「名残惜しいけど、あたしも母国に変えるだわさ。
せっかく戦争も終わったんだし、
しばらくはゆっくり過ごそうと思う」
「そうか、それが良かろう」
ロミーナの言葉にジュリアス将軍も鷹揚に頷いた。
「うむ、話はまとまったようだな。
では君達のパーティは、本日をもって解散とする」
「「はい」」「はいだワン」「嗚呼」「はいだわさ」
「では君達はもう下がれ」
リーファ達は、ラミネス王太子の言葉に従い、
謁見の間を後にした。
そして謁見の間から少し離れた廊下で、
お互いに顔を見ながら、最後の言葉を交わす」
「エイシル、アナタの魔法には、
本当に助けられたわ。
次はいつ会えるか、分からないけど元気でね」
「はい、リーファさんもお元気で!」
「ロミーナ、アナタの弓術は当然として、
その明るい性格にパーティの皆も癒やされたわ。
本国でも元気でいてね」
「あたしも皆と冒険や旅が出来て楽しかっただわさ。
もう会うことはないかもしれないけど、
あえて「さようなら」は言わないわ」
「今までありがとう」
そしてリーファ達は、お互いに悪手を交わした。
こうして帝国との長い戦いも終わり、
戦乙女とその盟友達は、
リーファと共にアスカンテレス王国へ行く者。
母国に帰る者の二組に分けられた。
この平和がいつまで続くものかは分からないが、
この時のリーファ達の表情はとても清々しかった。
そして王城を後にして、
リーファはアストロス達三人と、
エイシルとロミーナは一人で母国へ帰った。
一つの戦いが終わり、
また新たな時代を迎える中、
リーファ達もそれぞれの道を歩もうとしていた。
次回の更新は2025年2月15日(土)の予定です。
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