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第三百三話 抜茅連茹(後編)


-----三人称視点---



 聖歴せいれき1757年11月1日。

 ヴィオラール巡洋艦「レベルフォン」に乗り込んだナバールを待っていたのは、

 ヴィオラール王国による非常な通知であった。


 巡洋艦「レベルフォン」にヴィオラール王国の使者が現れて――


「お伝えします、ヴィオラール政府は、

 前ガースノイド皇帝の将来の居住先として、

 アーク・ヘレナ島を選び、

 このプリーマへの上陸は、

 許可されない、という結果になりました。

 貴殿は直ちに船を乗り換えて、

 アーク・ヘレナ島へ向かってもらいます」


 この非常な通知には、

 ナバールと同行していたタファレル元帥と総参謀長ザイドも

 驚きの色を見せていた。


「ば、馬鹿な! ア、アーク・ヘレナ島だとっ!?」


「あそこは絶海の孤島……。

 あんな場所に陛下を送るというのか!」


 タファレル元帥と総参謀長ザイドが抗議するが、

 今となっては、それも無意味であった。


「これは決定事項です。

 大人しく従ってください」


「っ!?」


 この非常な宣告に、

 ナバールも思わず身をよじらせた。


「くっ、私の読みが甘かったか!!

 最早、何の力を持たない私をあんな孤島へ送るとは……

 こんな事なら死刑にされた法がマシだ!」


「これはヴィオラール政府が決めた事です。

 それと貴殿には死んでもらう訳にはいきませぬ。

 下手に死んで、また何かの騒ぎの種になってもらっては困ります。

 ここは大人しくアーク・ヘレナ島に移住して、

 そこで余生を送っていただきます」


「う、うううっ……」


 非常な現実にナバールは、

 その場に崩れ落ちて、床に手を突いて嗚咽した。


 こうしてナバール・ボルティネスは、

 歴史の表舞台から強制退場させられる事となった。


 だがそんな状態の彼に、

 タファレル元帥と総参謀長ザイドは着いて行った。


 彼等も元皇帝と共にアーク・ヘレナ島で余生を送る事となった。

 またその翌日にハーン元元帥もとげんすいとレジス元将軍の銃殺が実行された。

 これによって、ガースノイド帝国は名実ともに滅亡した。


 そして更に一日が過ぎた聖歴せいれき1757年11月3日。

 亡命先のヴィオラール王国から、

 レイル十六世が王都ガルネスに凱旋を果たした。


 そして彼は立憲君主制を約束するサン・デアン宣言を発した後、

 二日後の11月5日に王城ガルネスに入城を果たした。


 そこからはフーベルクが素早く動いて、

 王党派をまとめ上げて、旧帝政時代の閣僚も取り込んで、

 二度目の王政復古が決定した。


 これによりガースノイドは、再び新王朝を迎えて、

 長く長く続いた戦乱の歴史に終止符を打つ事となった。


 その余波でエレムダール大陸全土にも

 一部の例外を除いて、平和が訪れる事となった。


 大陸全土の民が待ち望んだ平和に、

 王都ガルネスに残ったリーファ達も心から拍手を送った。


 ――これで私の長かった戦いも終わりね。

 ――もうこれからは王都でゆっくり過ごすわ。

 

 ――でも急に平和が訪れて、少し戸惑っているわ。

 ――私はこれから何をすれば良いのかしら?


 こうしてリーファ・フォルナイゼンの人生にも一つの区切りがついた。

 婚約破棄からの追放騒動。


 そしてアスカンテレスの戦乙女ヴァルキュリアとなった彼女は、

 戦いに明け暮れる日々を送ったが、

 その波乱に満ちた人生もこれで一つの終わりを迎えようとしていた。


 少なくともこの時はそう思って居た。

 だが彼女――リーファ・フォルナイゼンの人生は、

 まだまだ始まったばかりだ。


 だが今はとにかくゆっくりしたい。

 リーファはそう思いながら、

 盟友を引き連れて、レイル十六世の凱旋に沸く王都ガルネスで、

 ガルネスの市民と共に、

 やっと訪れた平和に心から歓喜の声を上げた。


「ガースノイド王国万歳っ!!」


---------


 こうして帝国は滅び、再び王政時代を迎えた。

 レイル十六世はまずは地盤を固めるべく、

 旧王党派の政府の重鎮に組み込んだ。


 それと同時に旧帝政時代の要人や軍人は、

 一部の例外を除いて、徹底的に排除した。


 そしてアスカンテレス王国軍おうこくぐんを始めとした連合軍の加盟国を後ろ盾にして、

 魔女帝ドミニク率いるデーモン族に対して、

 旧神聖サーラ帝国領、旧ペリゾンテ王国領。

 旧ファーランド王国の領土返還を要求した。


 状況に応じては、

 再びデーモン族と戦う事になる。

 と一部の者は危惧したが、

 魔女帝ドミニクは、旧神聖サーラ帝国領、

 旧ペリゾンテ王国領の返還要求には素直に従った。


 旧神聖サーラ帝国領の三カ国である

 北部エリアをプロマテア王国。

 中央エリアをカイン同盟。

 この二カ国は新王朝の支配下となった。


 そして南部エリアのヴィリニス大公国は、

 北半分をアスカンテレス王国。

 南半分をエストラーダ王国が分割統治する事となった。


 デーモン族からすれば、

 本土から離れた場所で下手に領土を持つより、

 返還して、連合軍との交渉を上手く運ぶという狙いがあった。


 旧ペリゾンテ王国領に関しても、

 元国王ミューラー三世を再び国王の座に就けた。


 また元帝国皇后マリベルは、

 父親と共に王都ウィーラーに帰還したが、

 元皇太子のナバール二世は、

 ホーランド宮殿に幽閉される事となった。


 ここまでの交渉は順調であったが、

 デーモン族は、旧ファーランド王国。

 旧バールナレス共和国の返還には拒否した。


「貴殿等の要求にはある程度従うが、

 わらわ、及びデーモン族は、

 正当な理由でこの二カ国を手中に収めた。

 よってこの二カ国の返還要求には従えぬ。

 どうしても返還を求めるならば、

 我々としても実力行使も辞さない」


 と、魔女帝ドミニク自ら連合国の各国に書状を送りつけてきた。

 レイル十六世やラミネス王太子としても、

 デーモン族の領土拡大を快く思わなかったが、

 これ以上の戦いは避けたかったので、

 この二カ国に対しては、曖昧な形で容認する事にした。


 これによってデーモン族側も

 旧ファーランド王国、旧バールナレス共和国に

 一定数の防衛部隊を置いたが、

 他の国の領土に侵攻する事はなかった。


 だが結果を見れば、利益の方が大きくて、

 アスカンテレス王国をはじめとした連合国としては、

 悪くない形で戦勝利権にありつく事が出来た。


 こうしてエレムダール大陸における戦乱の日々は終わり、

 平和な時代が到来しようとしていた。


 そしてリーファとその盟友達は、

 王城となったガルネス城の三階の謁見の間に呼ばれた。


 恐らくリーファ達に対する報酬の支払い。

 彼女達の今後について語り合うのであろう。


「……これで色々と一区切りがつきそうね」


 リーファはそう言って、

 黒の半袖のインナースーツの上から、

 白銀の軽鎧ライト・アーマー

 背中に裏地の黒い白マントを羽織るといういつもの格好で、

 盟友と共に三階の謁見の間に入場した。



次回の更新は2025年2月12日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
 ナバールはもう二度と表舞台に出てこれないでしょう。これはこれで寂しいですが仕方がないことです。  それに帝国が滅んでも即平和にはならないでしょうし、戦後処理が重要になってきますね。  リーファもしば…
帝国との戦いが終わりを告げられましたね。これからの物語を楽しみにしています!
更新お疲れ様です。 ナバールやデーモン等の対処が完了し、もう完全に帝国編が終わろうとしていますね。 後数話で2部(?)に入りそうですね。 新撰組を元にしたキャラが出ると聞いているので楽しみに待って…
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