第三百話 残山剰水(後編)
-----三人称視点---
聖歴1757年10月28日の早朝八時過ぎ。
連合軍の首脳部及び主力部隊がガルネス城に入城。
アスカンテレス王国のラミネス王太子を中心として、
アスカンテレス王国軍のバイン、バウアー将軍。
また勝利の立役者であるリーファとその盟友。
エストラーダ王国の第二王女のグレイス、更に騎士団長エルネス。
サーラ教会騎士団の騎士団長代理レバン。
猫族のニャルザ王国のニャールマン司令官。
兎人のジェルミア共和国のジュリアス将軍。
アームカレド教国のアルピエール枢機卿。
尚、パルナ公国のシャーバット公子は、
母国の復興を優先させる為、この会議を欠席した。
そして彼等に加えてヴィオラール王国の若き宰相シーク。
といった面子がガルネス城の会議室に集結。
一方の旧帝国からは元警務大臣のジョナサン・フーベルグ。
そして有象無象の数名の王族、貴族がこの場に居合わせた。
二階の会議室の上座にラミネス王太子。
その左隣にバウアー将軍、右隣にバイン将軍が座り、
右側のテーブルに戦乙女リーファ。
グレイス王女、エルネス団長、騎士団長代理レバン。
ニャールマン司令官、ジュリアス将軍。
アルピエール枢機卿、宰相シーク。
合計八人が右側のテーブルに陣取っていた。
左側のテーブルには、
フーベルク、後は合計七人の王族や貴族がふんぞり返って椅子に座っていた。
だが会議を始めるにつれて、
その王族や貴族の表情は厳しいものとなった。
確かに皇帝ナバールは二度目の退位をして、
ガースノイド帝国も解体された。
だがガースノイドの東部には、
旧神聖サーラ帝国の分割国。
旧ファーランド領に、旧バールナレス領。
そこには帝国から領土を譲渡されたデーモン族が控えていた。
ガースノイド側の王族や貴族は――
「帝国軍を倒して勢いに乗ったこの状態で、
東部エリアに陣取るデーモン族を撃ち破るべきでしょう」
と、主張したが連合軍の首脳部は毅然と拒否した。
「いや正直そんな余力はありませんな。
この状態でデーモン族と交戦するのは愚策。
どうしてもやりたいといのであれば、
ガースノイド……王国軍が動くべきでしょう」
「我等、エルフ族もラミネス王太子と同じ気持ちです。
帝都からナバールを追い出す事には成功したけど、
政情不安定なこの国は、
しばらく我等、連合軍の管轄区に入れるべきと思います」
「自分もグレイス王女と同意見ニャン。
もしここでまたナバールを帝位に就けたら、
それこそ全てが水の泡となるニャン」
「私もニャールマン司令官殿に賛成です。
まずはレイル十六世をもう一度王位に就ける。
そしてガースノイドは、再び王国として生まれ変わる。
だがその際にも我々に色々と譲歩する必要があるでしょう」
ラミネス王太子、グレイス王女、ニャールマン司令官。
そしてジュリアス将軍も毅然とした態度で意見を述べた。
すると王族、貴族連中は黙り込んだ。
下手な事を言えば、やぶ蛇になる。
賢くない彼等でもそれくらいは理解出来たようだ。
「……王族及び貴族の皆様方。
ここは連合軍の方々の助力が必要です。
ですのでここは私が交渉役を務めるので、
皆様は静かに見守って頂けますか?」
「まあ警務大臣がそう言うならば……」
「え、ええ……ここは貴方に任せよう」
こうしてフーベルクは、発言権を得た。
だが予想に反して、
フーベルクは連合軍側の要求を素直に呑んだ。
まずガースノイドの治安が安定するまで、
ガースノイドの各地に連合軍の各国の軍隊を駐留させる。
またその際にかかる費用は、ガースノイド持ち。
だが長年に渡る戦争で、
ガースノイドは、国全体として厳しい財政事情にある。
故に連合軍の加盟国が新王朝に多額の資金援助をするが、
その代償として、アーメリア大陸のガースノイド領の譲渡。
エレムダール大陸の南部にあるアレニア大陸のガースノイドの植民地を
連合軍の加盟国にいくつか譲渡。
また国内外の金山や銀山、魔石の採掘権など、
現物で払えるものは、すぐに支払う。
以上の条件をフーベルクは受け入れた。
これにはその場に居た王族や貴族が難色を示したが、
フーベルクは舌先三寸で彼等を丸め込んだ。
尤もその最大の要因として、
王族、貴族の生活の保障は必ずする。
という言葉が彼等を説得する大きな材料となった。
こうして会議は順調に進んだ。
ガースノイド側も自分達の立場は理解出来たようだ。
すると自然と連合軍側の首脳部も上機嫌になった。
そして上機嫌なラミネス王太子がリーファに話題を振った。
「戦乙女殿もこの戦いの大きな立役者だ。
何か褒美、あるいは要求はあるかな?」
「……そうですね。
報酬などは特に望みませんが、
どのような要求をしても良いのでしょうか?」
「ん? 君がそういうのは珍しいな。
遠慮はいらん、言いたい事を言いたまえっ!」
「……一つ疑問があります。
先の戦いで捕虜の身となった旧帝国の将軍、元帥の身柄は、
今どのように扱われてますか?」
「……主立った将軍や元帥は、
この帝城――王城の地下牢獄に投獄中だ。
戦乙女殿は何故そんな事をお気になさられるのか?」
フーベルクが何かを探るような視線をリーファに向けていた。
だがリーファは動じる事なく、
自身の考えを明確に伝えた。
「一人気になる人物が居ます。
王太子殿下、そして警務大臣殿がお許しくださるなら、
投獄中の元帥の身柄を私に預けて頂けませんか?」
「ほう、君がそういうとは意外だな。
とりあえずどの将軍、元帥が目当てだ?
名前を言うだけ言ってみるが良い」
「では単刀直入に云います。
シュバルツ元帥を私に預けてもらえませんか?」
「何っ……」
「何ですと……」
リーファの予想外の申し出に、
ラミネス王太子、フーベルク警務大臣は驚きの表情を見せたが、
当のリーファは、凜とした佇まいで周囲の言葉を待った。
次回の更新は2025年2月1日(土)の予定です。
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