表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

299/340

第二百九十八話 別れの言葉


-----三人称視点---


 倒れるマリーダ。

 そしてリーファは倒れる元義妹に近づいて、

 見下ろす形で低い声で問うた。


「……最後だから何でも話を聞くわよ。

 何か言い残した事があれば言いなさい」


 するとマリーダは、両眼を見開いてリーファを見据えた。

 既にその両眼からは、輝きが失われており、

 その生命活動もまもなく最後を迎えようとしていた。

 そんな中、マリーダが淡々と口を開いた。


「……そうね、結局は私は貴方に勝ってなかった。

 でも私は自分の限界を超えて、

 貴方に挑み続けたわ、そ、そこは満足しているわ」


「……確かにそうね、かつてのアナタからは、

 考えられない勝利の執念で、

 何度も何度も私を追い詰めたわね」


「……でも結局、勝てなかった。

 やはり貴方は強くて私なんかが敵う相手じゃなかった。

 でも貴方の脳裏の片隅に、

 私という存在を刻む事は出来た。

 そ、それに関しても満足しているわ」


 確かにマリーダの言うとおりだ。

 かつてのマリーダに対しては、

 リーファは悪感情しか抱いてなかった。


 だが彼女が漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)になって以降、

 何度も何度も戦いを挑んでくる姿に辟易へきえきしながらも、

 心の何処かでは、敬意を抱いていた。


 もう最後だ。

 だから自分の気持ちを最後くらいは素直に伝えよう。

 リーファはそう思いながら、マリーダに労いの言葉をかけた。


「実際に一度はアナタに負けたし、

 私もアナタに勝つために必死になったわ。

 そしてアナタは本当に強くなった。

 その為に私も強くならざる得なかった。

 今にして思えば、休戦協定後は、

 私は帝国に勝つ事より、

 アナタに勝つ為に戦い続けていたのかもしれない」


 それはリーファの嘘偽りのない言葉であった。

 マリーダもそれを察して、

 意識が朦朧とする中、僅かに口の端を持ち上げた。


「ふ、ふふっ、ようやく貴方に私の存在を認めさせたのね。

 わ、私は……ずっとそれを望んでいたのかもしれない。

 でも自分の手を汚さず、貴方に嫌がらせしていた時は、

 最初は良い気分だったけど、

 段々、暗澹たる気分になってたわ。

 やはり心の何処かでは、惨めさを感じていた。

 だけど漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)になって。

 貴方と同じ舞台に立って、

 私はようやく……自分らしさを手にする事が出来たわ」


 正直言えば、

 今でも婚約破棄以降のマリーダの振る舞いを赦す気にはなれない。

 

 マリーダにはマリーダの言い分もあるだろうが、

 あの振る舞いまで許容する程、リーファも寛容ではない。


 だがそれはそれ。

 自分の仇敵となって、

 血みどろの戦いを続けて行くうちに、

 リーファもマリーダには絶対負けられない。

 という気持ちが常にあった。


「そうかもしれないわね。

 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)となったアナタは、

 かつてのアナタではなかった。

 ある意味、一途なまでに勝利を追求していた。

 それはそれで一人の戦士として、敬意を抱くわ」


「そ、そう? そ、それを聞いて少し満足したわ。

 ……がはぁぁぁっ!!」


 マリーダが再び口から吐血した。

 彼女の命の灯火が消えようとしていた。

 しかしその表情は、何処か満足げに見えた。


「マリーダ……」


「ど、同情はよしてください。

 わ、私は自分の意思で……戦いの道を選んで、

 そ、そして……貴方に戦いを挑み続けた。

 その代償はとてつもなく大きいけど……。

 今のわ、私は……そんな自分を誇りに思うわ」


「……」


「大丈夫よ、貴方はどうせわ、私の事なんかすぐ忘れる。

 だ、だから貴方はずっとそのままで居てください。

 ……誰にも負けず、誰にも媚びない。

 そんな強い強い女性のままで居て欲しい……」


「そうね、私も自分の道を突き進むわ。

 でもアナタの事は忘れないわ。

 どういう形であれ、私達は元姉妹。

 切っても切れぬ関係なのよ……」


「そ、そういう斜に構えた言い方が……特に嫌いだわ。

 でも変な同情される……よりは……マシね……」


「……」


 青白い顔で横たわるマリーダの両眼が輝きを失う。

 そして彼女はそのまま眼を瞑り、息を引き取った。


「……」


 リーファは無言でマリーダの亡骸を見据えた。

 とてもじゃないが良好な関係とは言えない間柄。

 いや常に憎み合ってたというべきだろう。


 だが不思議な事に、

 いざマリーダが死んでも特に何を感じる事もなかった。


 すると緊張感から解放されて。

 肉体的にも精神的にも疲れが押し寄せて来て、

 気が付けば、リーファの張った封印結界も解除された。


「お嬢様! 大丈夫ですか!?」


「リーファさん!」


「お姉ちゃん!」


「皆、リーファさんを守るだわさ!」


 リーファが左膝を地面につける中、

 彼女の仲間が彼女の許に押し寄せた。


「お嬢様、これをお飲みください!

 万能薬エリクサーです」


 アストロスが自分のポーチから、

 万能薬エリクサーが入った中瓶を取り出して、

 右手でリーファの左手に手渡した。


「アストロス、ありがとう」


 リーファはそう言って、

 左手の指で栓を抜いて、

 その中身を一気に飲み干した。

 すると彼女の体力も魔力も無事補充された。


「……とりあえずこれで無事に動けそうだわ」


「お嬢様、ご無事で何よりです」


「ウン、本当に良かったワン」


 と、アストロスとジェイン。

 だが流石のリーファも精神的にかなり疲弊していた。


「……マリーダには勝ったけど、

 これ以上戦うのは少し厳しいわ。

 だから皆で後衛に下がりましょう」


「「そうですね」」「ウン」「そうしましょう」


 こうしてリーファとマリーダの戦いに終止符が打たれた。

 それによって帝国軍も最後の牙城が崩れたショックで、

 勢いに乗る連合軍に蹂躙された。


 聖歴1757年10月25日の午後十八時過ぎ。

 北部エリアのエマーン将軍が戦死。

 それによって「土の聖龍ベルグレス」も契約者マスターを失い、

 制御が効かない状態となったところで、

 敵の集中砲火を浴びて、戦場で散った。


 それを知った西部エリアのハーン元帥とレジス将軍は、

 自分達の敗北を悟り、部下と共に連合軍に投降した。


 そして皇帝ナバールは、

 総参謀長ザイドと数十名の護衛と従者を連れて、

 帝都の帝城ガルネスへ逃げ帰った。


 だが既に大半の帝国兵が投降しており、

 名実ともに帝国は敗北、否、大敗北を喫した。


 皇帝ナバール。

 そしてガースノイド帝国は、最後の時を迎えようとしていた。


次回の更新は2025年1月25日(土)の予定です。


ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、

お気に召したらポチっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

宜しければこちらの作品も読んでください!

黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
マリーダは死んでしまい、いよいよ帝国最後となりますね。その結末を楽しみにしています。
更新お疲れ様です。 遂に、1話から続く因縁が終わりましたね。 ざまぁ展開が終わってからは、マリーダも成長しましたし、「婚約破棄」という王道を使用しつつも、先生の良さが最大限に生かされた話でした、 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ