第二百九十六話 一意奮闘(中編)
-----三人称視点---
「貰ったわ! ――暗黒の連撃っ!」
「くっ! やられるものですか!
――ダブル・デルタスラッシュッ!」
マリーダとリーファ。
双方とも渾身の袈裟斬りを放つ。
魔剣と聖剣が衝突。
だが今のリーファは、未強化状態。
対するマリーダはフルに強化された状態。
その力量差と斬撃の衝撃でリーファは、
後方に軽く吹き飛んだ。
だがそれでもリーファも果敢に応戦した。
「お次はこれよっ!」
「くっ!!」
今度も互いに逆袈裟斬りを同時に放つ。
だが二度目という事もあり、
マリーダは渾身の力を篭めて、
リーファの聖剣を斬り払った。
「あ、あっ!!」
斬撃の衝撃で、
リーファの戦乙女の剣が後方に弾かれて、
近くの地面に突き刺さった。
「――フライッ!」
それと同時にリーファは、飛行魔法「フライ」を発動。
後方に吹き飛ぶように、
地面スレスレの状態で低空飛行する。
「――サイコキネシス!」
今度は右手を前に出して、
念動魔法「サイコキネシス」を発動。
半瞬後、地面に刺さった聖剣がリーファの右手に手繰り寄せられた。
咄嗟の動きにマリーダも少し驚いていた。
ここが勝負の分かれ目ね。
リーファは飛行状態を停止して、両足を地面につけた。
リーファはここで職業能力「女神の黄昏」を発動させた。
「――女神の黄昏っ!!」
そう言って、左手を頭上にかざすと、
目映い光がシャワーとなってリーファの身体に降り注がれた。
見た感じは何も変化がない。
だからリーファは、「能力覚醒」を再び発動させる。
「――能力覚醒っ!」
……問題なく使えた。
どうやら本当に蓄積時間を零に出来たようだ。
「――魔力覚醒っ!」
次も問題なく発動出来た。
一見すれば派手さはないが、
物凄く使い所がある能力だわ。
リーファは、そう思いながら強化能力を使い続ける。
「――『零の鼓動』」
こちらも問題なく使用出来た。
強い魔法や能力、技には、
蓄積時間が常に伴う。
それが一瞬で零になる。
これはある意味、反則級の能力だ。
これである程度は、再び自己強化出来た。
だが「神の肉体」を使うか、どうかで悩むリーファ。
現状でもそれなりのレベルの貧血状態。
この状態で再び「神の肉体」を使って、
体温と血圧が再び上昇するのは、
体調面だけ見ても不安な部分が多い。
「――ランディ!」
「どうした!」
またポンと音を立てて、ランディが現れた。
「再び『ソウル・リンク』よ!」
「了解した、リンク・スタートッ!」
再びリーファと守護聖獣ランディの意識が共有化された。
力と魔力が沸くと同時に強い目眩も覚えた。
「リーファ殿、何度も強化能力を使うのは危険だ。
おまけに血が抜けて、貧血状態でもある。
だからこれ以上の強化能力は控えるんだよ。
後、これ以上血を流すのは控えるように……」
「……そうね、私もマリーダもそろそろ限界に近いわ。
でも私は気力がある限り戦うわっ!」
リーファはそう言いながら、
左手を腰のポーチの中に再び入れて、
万能薬が入った瓶を取り出した
そして左手の指で瓶の栓を抜いて、
その中身をごくりに飲み干した。
「ふぅ~」
万能薬を飲んで、
体力と魔力はかなり蓄積されたが、
頭痛と貧血状態は、相変わらずのままだ。
「おのれ、ちょこざいな!
お次はこれですわ! ――ダークネス・スティンガーッ!」
マリーダが右腕を錐揉みさせると漆黒の魔剣の切っ先から、
うねりを生じた薄黒い衝撃波が、
矢のような形状になって解き放たれた。
薄黒い衝撃波は、鋭く横回転しながら、
地面を抉りながら、神速の速さで大気を切り裂く。
「――ゾディアック・フォース!」
リーファはここで「ゾディアック・フォース」を発動。
使用する魔力は全体の三割程度。
「――ライトニング・スティンガー!!」
リーファは間髪入れず神帝級の剣技を放った。
聖剣の切っ先から、目映いビーム状の光線を放たれ、
前方から迫る矢状の薄黒い衝撃波と正面衝突した。
薄黒い衝撃波とビーム状の光線が激しく交わり、
周囲に耳障りな音をまき散らす。
最初は互角であったが、
次第にビーム状の光線が押し始めた。
そして物凄い勢いで、薄黒い衝撃波を押し返して、
ビーム状の光線が完全に飲み込んで、
そのままの勢いでマリーダに迫った。
「くっ! 『黒い障壁』っ!!」
マリーダは短縮詠唱で、
神帝級の障壁を張った。
本来ならば、これでリーファのビーム状の光線も防げていた。
だが短縮詠唱に加えて、
「ゾディアック・フォース」で強化されたビーム状の光線は、
眼前の黒い障壁を撃ち破って、
マリーダに目掛けて突進する。
「くっ!!」
マリーダは咄嗟に右側にサイドステップ。
だが完全に回避する事は出来ず、
左脇腹が抉られて、
漆黒の軽鎧の一部が破損。
そして左脇腹の一部の肉。
更にあばら骨に三本ほど、罅が入った。
「う、う、うっ……」
マリーダは苦悶の表情で、
再び無詠唱で上級回復魔法「アーク・ヒール」を発動。
抉られた肉と折れたあばら骨がくっついたが、
この傷によって、また血を失い、
貧血状態が更に悪化した。
「マリーダちゃん、万能薬を飲むニャン」
「……そうね」
マリーダは左手を腰帯のポーチ袋の中に突っ込んだ。
そして中から万能薬の入った瓶を取り出して、
左手の指で瓶の栓を「ポン」と抜いた。
それから瓶の中身の液体をぐいっと飲み干す。
「ふぅ~……」
全身に力と魔力が漲るが、
頭痛と貧血状態は改善されなかった。
だが左脇腹の傷と折れた骨は完全に治った。
「マリーダちゃん大丈夫?」
ガーラの問いにマリーダは、首を左右に振った。
「駄目よ、正直限界が近いわ。
でも只じゃ死なないわ。
必ずあの女を――アスカンテレスの戦乙女を道連れにしてやるっ!」
そう言うマリーダの表情は、鬼気迫るものがあった。
対するリーファの表情は、何処か達観した様子。
そして二人は右手に剣を構えながら、
再び摺り足で間合いを詰め始めた。、
次回の更新は2025年1月18日(土)の予定です。
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