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第二百八十八話 孤城落日


-----三人称視点---



 聖歴1757年10月24日。

 また一日が過ぎると、

 戦況は更に連合軍が優勢となった。


 各エリアの帝国軍は、

 最低限機能しているが、

 戦意と士気の低下が著しくなった。


 ガースノイド帝国の帝都ガルネス。

 その帝城ガルネスの二階の玉座の間で、

 皇帝ナバールは、玉座に座りながら、考え込んでいた。


 その近くで総参謀長ザイド。

 また漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)マリーダが佇んでいた。

 すると総参謀長ザイドは、玉座の皇帝に視線を向けて――


「ご報告します!

 魔女帝ドミニクとその配下の部隊は、

 帝国の東部エリアへ撤退した模様。

 魔女帝ドミニクは「後の事は皇帝ナバールに任せた。

 状況が改善すれば、また援軍及び支援するが、

 現状では我が軍の安全を優先させて頂く!」

 といった内容をしるした書状を送ってきました」


 淡々とした口調で総参謀長ザイドがそう告げる。


「そうか……」


 皇帝は疲れた表情でそう答えた。

 するとザイドは皇帝に視線を向けて――


「書状をご自分の目でご確認しますか?」


「いや良い……」


 どうやら皇帝も疲れているようだ。

 だがザイドはそんな皇帝に対して、

 ありのままの状況を伝えた。


「最早、我が帝国の敗北は時間の問題です。

 となればこの帝都も火の海になる危険性があります。

 そうならない為にも、

 皇帝陛下には良きご裁断を下して頂きたいものです」


 ザイドの言葉に、皇帝がピクリと反応した。

 そしてその鳶色の目で眼前の総参謀長を見据えた。


「それはつまり早期の降伏。

 あるいは余の退位を望んでいるのか?」


「……その通りです」


「まあ余も帝都を火の海にするのは避けたい。

 それとまずは元皇妃マリベルと皇太子を

 旧ペリゾンテ王国のホーランド宮殿へ避難させたい」


「それならば既に準備は整ってます。

 後はマリベル様と皇太子殿下。

 その護衛と従者を連れて、

 各地に設置された転移魔法陣を使えば、

 安全な状況でホーランド宮殿へ避難出来るでしょう」


 と、総参謀長ザイド。


「……随分と手際が良いな」


「一応、ありとあらゆる状況を想定してましたので」


「では聞くが、余が退位した後で、

 何処かの国に亡命できる伝手つてはあるか?」


「亡命ですか? それは難しいでしょう。

 エレムダール大陸の各国が陛下を

 亡命者として、受け入れる事はないでしょう」


「……ならばアーメリア共和国ならどうだ?」


 アーメリア共和国とは、

 エレムダール大陸の最西部から、

 遙か南東へ海を越えた先にある新大陸の新興国家である。


 かつてはエレムダール大陸の各国の入植地であったが、

 数々の独立戦争に勝ち抜き、

 今では独立した共和国としての道を歩んでいる。


「アーメリアですか?

 でもそれも難しいでしょう」:


「……そうか」


 やや声のトーンを落とす皇帝ナバール。

 そんな彼に対して、

 ザイドは辛辣なまでな現状を述べた。


「仮にアーメリアに亡命したとしても、

 十年もすれば、ガースノイドの民は、

 また陛下を皇帝として迎えるかもしれません。

 ですがエレムダール大陸の今後を考えれば、

 それも控えるべきでしょう」


「……何故だ?」


「最早、陛下はエレムダール大陸にとっての脅威なのです。

 貴方がいる限り、また戦争が起こる。

 その結果、我が帝国の未来ある男子達が

 戦場で戦死して、今の帝国は慢性的な男手不足。

 人手不足であります。 国民はそれにもう疲れきってます」


「……要するに亡命先も逃げ場もないのだな?」


「はい、ここは潔く身を引いてください」


「……」


 現状を把握して、押し黙るナバール。

 ようやく彼も自分の置かれた立場を理解した。

 するとこれまで黙っていたマリーダが初めて口を開いた。


「退位するなら、いつでも出来ますでしょう。

 少なくとも現時点で退位する必要はないでしょう。

 この国はまだ陛下の手中にあります。

 まあ総参謀長閣下の御意見も分かりますが、

 貴方はこの国の皇帝、支配者なのです。

 だから最後の時まで皇帝として振る舞うべきです」


 マリーダのこの言葉にザイドが表情を強張らせた。


「マリーダ殿はこの状況で、

 帝国兵に最後まで戦えと仰るのですか?」


「いえ、降伏したい者はさせたら良いでしょう。

 でも中には最後まで陛下と帝国の為に、

 戦う兵士も居るでしょう。

 だから私は戦争の継続を望みます」


「マリーダ殿、それは貴方個人の感想ですよね?

 更に言えば、貴方があの戦乙女ヴァルキュリアと戦いたいが故の申し出でしょう?」


「ええ、そうですわ」


 きっぱりとそう言い切るマリーダ。

 その言葉を聞いて、ザイドも目を丸くさせた。


「これは驚いた。

 個人的願望の為に戦争の継続をお望みか?

 だがある意味、漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)らしい御意見ですな」


「そうよ、でも私は陛下と帝国の為に、

 自分の余命と五百年に及ぶ年月を代償として、

 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)となりましたわ。

 だから私としては、戦乙女ヴァルキュリアリーファと決着がつく前に、

 停戦及び休戦されては、立場がないですわ」


「……それはそうかもしれませんが、

 皇帝陛下はどう想われますか?」


 ザイドがここで皇帝の意見を求めた。

 すると皇帝ナバールの眼に再び力が宿っていた。


「確かにマリーダには、

 最低限の死に場所を用意する義務が余にはある。

 余や帝国の都合で、貴公を阿修羅地獄へ放り込んだのだ、

 そんな貴公にむざむざ投降させる。

 それをさせては、貴公があまりにも不憫だ」


「し、しかしその為にまた多くの血が流されるのですよ!」


「ザイド、貴公の云う事は常々正しい。

 だが人間なんて生き物は、

 正しさだけでは生きていけないのだ。

 それとも貴公も命が惜しいのか?

 ならば無理に余について来る必要もない。

 貴公が望むなら、この場で総参謀長の任を解いても良い」


 だがこの皇帝の言葉にザイドは激しく怒った。


「陛下、あまり私を見くびらないで欲しい。

 私は自己保身の為だけに、

 陛下に退位を迫った訳ではありません。

 ……良いでしょう、陛下がお望みならば、

 私も地獄の底までお付き合いしましょう。

 私も誇り高き帝国軍人です。

 死など恐れて、戦場から逃げ出すような真似はしません」


「……そうか」


 ナバールはこの時、ザイドの真意を理解した。

 しかしここから戦況を覆すのはかなり厳しい。

 だがせめてマリーダがリーファと再び戦う舞台は、

 整えてあげたい。 そうでないと彼女があまりにも不憫だ。


「ザイド、けいの余に対する忠誠心はよく分かった。

 その上でけいの智恵を貸して欲しい。

 まずはマリーダと戦乙女ヴァルキュリアの再戦の舞台。

 それを最優先として、今後、どう帝国軍を動かすか。

 それを余に教えてもらいたい」


「……分かりました。

 マリーダ殿、そして皇帝陛下の為に、

 相応しい終幕の舞台を用意してみましょう」


 帝国と皇帝の最後が迫る中、

 皇帝と総参謀長。

 そしてマリーダが最後の戦いに向けて、

 お互いに議論を重ねる事となった。


次回の更新は2024年12月21日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
リーファとマリーダ……二人の戦いの結末、楽しみにしています。
更新お疲れ様です。 逃げ場のない帝国。 なんだか、見ていて可哀想になってきますね。 ですが、マリーダという切り札がまだいるのも事実ですし、油断はでき無さそうですね。 それこそ、少数精鋭で内部に攻めら…
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