第二百八十六話 クロス・ファイト
-----三人称視点---
距離が縮まると、
リーファとシュバルツ元帥は、
ゆっくりとお互いに間合いを詰める。
リーファの身長168セレチ(約168センチ)に対して、
シュバルツ元帥は、身長190を超える鍛えられた長躯。
身長差だけでも、20セレチ以上の開きがあった。
なのでリーファは、
カウンター狙いで受け身の体勢を取った。
それに対して、
シュバルツ元帥は、力業で攻め立てた。
「――ミリオン・スラストォッ!!」
シュバルツ元帥は、
両手に持った漆黒の魔槍で、突きの連打を繰り出す。
帝王級の槍術スキル。
更には魔槍の効果も相まって、
鋭く速い突きが何度も何度もリーファに迫った。
しかしリーファも慌てなかった。
シュバルツ元帥の突きに対して、
突く、払う、斬る。
と言った動作を繰り返して、
何度も何度も放たれる突きを弾き返す。
だが全部を回避、防御するには至らず、
少しずつだが、身体に数カ所の傷を負う。
呪詛の効果もあり、
この状況が続くのはマズいわ。
と思った矢先に、ランディの声が頭の中に響いた。
『リーファ殿、相手の魔力や戦気が一向に減ってないぞ。
恐らく相手の強化能力によるものだ』
相手に悟られぬように、
念話で語りかけてきたようだ。
「私の能力の残り時間は?」
リーファは念話が使えないので、
普通に声を出して、自分の守護聖獣にそう問うた。
『……残二分を切ったところだ。
敵の能力もそろそろ切れる筈だ。
だから勝負をかけるなら、今だ!』
ランディの言葉にリーファは無言で頷く。
既に「能力覚醒」と「神の肉体」も使用した状態。
その効果が消えて、
素の状態になれば、接近戦では不利になるのは目に見えている。
ならば勝負をかけるなら、今しかない。
リーファもランディと同じ考えに至った。
そんな中でもシュバルツ元帥の突きの連打は続く。
リーファはそれを無駄のない動きで防ぎ、
相手の様子を注意深く窺った。
よく見るとシュバルツ元帥の額に大粒の汗が浮かんでいた。
魔力や闘気は消費しなくても、
体力は普通に消費するようだ。
ならば一瞬の隙を突いて、
カウンター攻撃で一太刀浴びせてみせる。
そう心の中で念じて、
リーファは反撃の機会を待つ。
するとその絶好の機会がやってきた。
「くっ……俺の突きをここまで躱すとは……。
ハア、ハア、ハア……ハアァ」
呼吸を乱して、肩を小刻みに揺らすシュバルツ元帥。
それと同時にリーファは、前へ踏み込んだ。
「――ハイ・カウンターッ!」
リーファはそこで薙ぎ払いを放ち、
シュバルツ元帥の両眼に狙いを定めた。
だがシュバルツ元帥も直ぐにバックステップして、
リーファの薙ぎ払いを躱すが、
完全には回避出来ず、
左目の瞼の上に切り傷を負った。
「くっ……」
シュバルツ元帥がそう呻くと。
左目の瞼の上の切り傷から赤い血が流れ落ちた。
リーファはこの好機を逃さなかった。
両肩の力を抜き、腰を素早く落とした。
「――神速殺っ!!」
「くっ!?」
リーファの叫び声が周囲に響き渡る。
だがシュバルツ元帥も、
いち早くリーファの居合いに気付き、
両手に持った漆黒の魔槍で防御する。
「カキンッ!」
「こ、これはっ!?」
軽い衝撃にシュバルツ元帥も思わず驚いた。
そう、リーファは、
聖剣の鞘による「鞘打ち」で、
シュバルツ元帥の漆黒の魔槍を強打したのであった。
その衝撃に加えて、予想外の出来事に、
シュバルツ元帥は、一瞬、身体のバランスを崩した。
「く、くっ……味な真似を!」
――ここで決めるわ!
リーファはそう思いながら、再び腰を落とした。
「――神速殺っ!!」
再度繰り出されるリーファの居合い切り。
だが今度は鞘でなく、
聖剣の刃でシュバルツ元帥の首筋を狙った。
シュバルツ元帥も咄嗟にバックステップしたが、
リーファの聖剣の刃がシュバルツ元帥はの喉笛を綺麗に切り裂いた。
そしてシュバルツ元帥の喉笛から、
赤い血液が周囲に飛び散る。
「ぐ、ぐ、ぐ、ぐあああぁっ!!」
堪らず悲鳴を上げるシュバルツ元帥。
ギリギリの所で致命傷にはならなかったが、
いくら歴戦の勇士と言えど、
喉笛を切り裂かれたら、その直後は困惑するものだ。
「貰ったわ!」
リーファはそう叫びながら、
一気に間合いを詰めた。
お互いの距離が一瞬で詰まり、
リーファは独創的技を繰り出した。
「――戦乙女の舞っ!!」
まずは左構え型から、
渾身の左ストレートで、
シュバルツ元帥の顎の先端を強打。
左ストレートが見事に決まり、
シュバルツ元帥が思わず腰を落としかけた。
だがその前にリーファが左ボディフックで、
シュバルツ元帥の右脇腹を全力で強打。
お手本通りの肝臓打ちが決まり、
シュバルツ元帥は、「ごふっ」と口から胃液を吐いた。
その瞬間、リーファは身体を捻って、
遠心力を利かせた渾身のローリング・ソバットを繰り出した。
間髪入れず、リーファの左足がシュバルツ元帥の顎の先端を捉えた。
だがインパクトの瞬間に、
シュバルツ元帥が僅かに身体を反らした為、
威力は幾分か半減した為、
この一撃で元帥の顎が割られる事はなかった。
だが脳を揺られたので、
シュバルツ元帥は、身体を揺らしながら、
背中から地面に倒れ落ちた。
この時点で勝敗はほぼ決まった。
だがシュバルツ元帥は、
この状態でも地面から、起き上がろうとした。
「ま、負けぬ……。
俺は帝国元帥だ、だ、だから最後まで皇帝陛下。
そ、そして帝国の為に……戦う……」
虚ろの目のまま、そう言うシュバルツ元帥。
その異様な戦意にリーファは、思わず心が打たれた。
この男は生粋の軍人であり、勇者だ。
この男をこの場で殺すのは惜しい。
この男はもっと生きるべきだ。
「……お、俺は……ま、まだ負けてない」
シュバルツ元帥は、譫言のように、
そう何度も何度も同じ言葉を繰り返したが、
遂に身体と精神の限界に達して、
意識を失い、再び背中から地面に倒れた。
その姿を見て、リーファは無言で見据えていた。
だがシュバルツ元帥の敗北は、
帝国の兵士だけでなく、
連合軍の兵士にも強い衝撃を与えた。
大袈裟に言えば、
この戦いの結果で今後の戦いの流れが決まった。
と言う側面もあったかもしれない。
だが勝者である筈のリーファは、
勝利の余韻に浸る事無く、
何処か冷めた目で虚空を見据えていた。
次回の更新は2024年12月14日(土)の予定です。
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