第二百八十五話 英姿颯爽(後編)
-----三人称視点---
その後も、リーファとシュバルツ元帥は、
何度も何度も手にした聖剣と魔槍を振り続けた。
お互いに致命傷は受けなかったが、
リーファの身体の至る所に切り傷が刻まれて行く。
「自動再生」でリーファの傷が再生されるが、
魔槍に付与された呪詛によって、完治には至らない。
戦いが始まって、既に五分が過ぎた。
リーファは肩で息をしており、
シュバルツ元帥も流石に疲れたのか。
せいせいと呼吸を乱していた。
「――リーファ殿。
後、三十二秒で「能力覚醒」と「速射」が切れる。
「戦乙女の祝福」も三分後に切れるぞ」
「……そう、分かった」
守護聖獣ランディの言葉に、
リーファは思わず大きく頷いた。
正直、シュバルツ元帥の事を舐めていた。
前に戦った時は、お互いに魔獣と飛龍に乗った状態だったが、
まさか地上戦でもここまで強いとは思わなかった。
マリーダは能力値は高いが、
まだ戦いの経験が浅いので、所々に穴があるが、
この眼前の帝国元帥には、穴らしい穴がない。
でも考えてみれば、
この帝国元帥は、数多の戦場を駆け抜けた歴戦の勇者。
リーファが戦乙女になる前から、
ずっと戦場で戦い続けてきたのだ。
そういう意味じゃマリーダより強敵かもしれない。
「……どうやら先の事より、
目の前に戦いに集中すべきね」
「……そうだ、ここで死んだら全てが意味をなさぬ」
と、ランディ。
そう、先にあるマリーダ戦より、
まずは目の前の戦いに勝つ必要がある。
そこでリーファは覚悟を決めた。
「覚悟を決めたわ。 この戦いに全神経を裂くわ。
ハアァア……アァァァ! 「神の肉体」っ!!」
リーファはここで職業能力「神の肉体」を発動。
その瞬間、リーファの全身が燃えるような熱さに包まれる。
「う、う、うっ……」
全身から物凄い力と魔力が沸いてくるが、
それと同時に激しい頭痛が起こり、身体中が熱かった。
だがリーファは気力を振り絞った。
『――『零の鼓動』」
リーファは更に職業能力・『零の鼓動』を発動させた、
これで一定時間、無詠唱で魔法を使えるようになった。
強化能力の有効時間は残り五分程度。
この五分間で勝負を決める。
リーファは心に固く決意した。
そして左手の「幻魔の盾」を背中に背負い、
自由となった左腕を前へ突き出して、魔力を篭めた。
まずは無詠唱で初級光属性魔法「ライト・ボール」を連射した。
だがシュバルツ元帥は、非情に落ち着いていた。
迫り来る光の玉をステップワークなどの防御策を駆使して、
次々と回避して行く。
「なかなかやるじゃないの!」
リーファはそう言いながら、
再び「ライト・ボール」を連射した。
今度は威力を少し下げて、速度を最大限に設定。
すると流石のシュバルツ元帥も何発かは喰らった。
リーファはその隙を逃さなかった。
今度は炎属性魔法「ファイア・バースト」を三連発で放った。
先程、同様に威力は少し下げで、
速度を最大限で緋色の炎を解き放つ。
「くっ……ダーク・ウォール」
完全回避は無理と悟ったシュバルツ元帥は、
咄嗟に闇属性の対魔結界を張った。
見た目に反して、前衛職にしては、
シュバルツ元帥の魔法力や魔力は高かった。
だが流石に強化された状態のリーファの魔法攻撃に、
耐えられる程のレベルではなかった。
緋色の炎と闇色の結界が激しくせめぎ合う。
「……このレベルの魔法を無詠唱で撃てるのか。
だがこれは恐らく先程、使用した能力の効果だろう。
となれば中距離及び遠距離戦では分が悪い!」
そう言いながら、
シュバルツ元帥は闇色の結界に更に魔力を篭めた。
だが緋色の炎は、弱まる気配を見せず、
暴力的に闇色の結界を押し続けた。
「……どうやら耐えきれそうにもない。
まずは回避、そして相手との距離を詰める!
――疾走!」
ここでシュバルツ元帥は、走力を強化。
そして次の瞬間、闇色の結界が撃ち破られた。
それと同時にシュバルツ元帥は、左に大きくサイドステップ。
半瞬後、周囲に爆音が鳴り響くが、
シュバルツ元帥は、口を真一文字に結んで、
全力で地を蹴った。
「成る程、接近戦に切り替えるつもりなのね。
でもそうはさせな――」
「――空圧弾ッ!!」
リーファが喋り終える前に、
左手を前に突き出して、砲声するシュバルツ元帥。
元帥の左手の平から、空気を圧縮した空圧弾が放たれた。
――対魔結界張るっ!
――いや間に合わないわ。
――ここはフライで回避よ!
咄嗟にそう判断したリーファは、
飛行魔法「フライ」を無詠唱で発動。
するとリーファの身体が高速で宙に浮いた。
この動き自体は悪くなかった。
だが相手は百戦錬磨の帝国元帥。
故にシュバルツ元帥は、リーファのこの行動も読んでいた。
「――ハイパー・ジャベリンッ!!」
シュバルツ元帥は、そう叫びながら、
両手に持った魔槍に闇の闘気を宿らせて、
リーファ目掛けて、投擲する。
「なっ!? ――フライッ!」
リーファは更に飛行魔法フライを発動させて、
上空に逃げようとするが、
投擲された魔槍がリーファの右脇腹を抉った。
「う、ううっ……」
「――リバース」
低い声を漏らすリーファ。
対するシュバルツ元帥は、
念動力で投擲した魔槍を
自分の手元にたぐり寄せた。
「――ディバイン・ヒールッ!」
リーファは咄嗟に短縮詠唱で、
上級回復魔法を発動させた。
すると彼女の右脇腹の傷が癒えていくが、
呪詛の効果で完治には至らなかった。
「……これは下手に空中戦をしない方がいいわね」
リーファはそこでゆっくりと地面に降り立った。
この時点でも魔槍の呪詛で身体の数カ所に傷を負っていた。
――長期戦になると、こちらが不利ね。
――これは危険を覚悟で接近戦を……あっ!?
彼女がそう思うと同時に、
シュバルツ元帥が全力で地を蹴って、
こちらに迫って来た。
どうやら向こうも同じ考えのようだ。
ならばここで弱気は禁物。
――いいでしょう!
――ここは受けて立つわ!
そう心に刻みながら、
リーファも右手に聖剣を持った状態で、
全力で地を蹴って、間合いを詰めた。
次回の更新は2024年12月11日(水)の予定です。
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