第二百八十三話 英姿颯爽(前編)
-----主人公視点---
「それで戦乙女よ。
そちらの出す条件とは何だ?」
「……まず貴方は飛龍から降りて、
地に足をつけた状態で私と戦う事。
それと一騎打ちの際の封印結界は、
こちらが張らせてもらうわ。
以上の二点が私が出す条件よ」
「……」
私がそう言うと、シュバルツ元帥はしばらく黙り込んだ。
正直、相手が飛龍に乗った状態では、
空中戦においては、
こちらがかなり不利なのは明白。
だから一騎打ちは、あくまで地上戦。
この辺は譲れない部分だわ。
「……その二点だけで良いのか?」
「ええ、私も出来るだけ正々堂々と貴方と戦いたいわ」
「うむ、だがこの状況ならば、
わざわざ私と一騎打ちする事もなかろう」
「確かにそうだわ。
これは言うならば戦士の誇りの問題よ」
「戦士の誇り?」
そう問い返すシュバルツ元帥。
それに対して私は堂々と受け答えする。
「シュバルツ元帥、貴方も名の知れた帝国元帥。
その貴方が限界まで最前線で戦い続けた。
それは敵味方を別として、
一人の戦士として敬意を払う行為だわ。
そんな貴方を数に任せて、嬲り殺しにする。
というのは私の戦乙女としての誇りが赦さないわ」
これに関しては半分本当で、半分が嘘だ。
確かにシュバルツ元帥は、誇り高い戦士だ。
それに対して私は、彼に対して幾分かの敬意を払う。
でもそんな理由だけで、
一騎打ちに応じる程、私もうぶでも馬鹿でもない。
私としては、マリーダともう一度戦う前に、
このシュバルツ元帥相手に腕ならしをしておきたい。
前の戦いでは、苦戦を強いられたけど、
今の私ならこの元帥相手に何処まで戦える。
それを知るためにも、この一騎打ちに応じた。
そういう意味じゃ格好の腕試しになるわ。
とはいえ相手は帝国の元帥。
絶対に油断しては駄目ね。
「それじゃあ封印結界を張るわ」
「嗚呼」
そして私は封印結界の範囲を設定する。
全長250メーレル(約250メートル)、幅十五メーレル(約十五メートル)。
高さは十メーレル(約十メートル)に設定。
これくらいの大きさが妥当でしょう。
そして私は、封印結界の呪文を詠唱し始めた。
「我は汝、汝は我。 嗚呼、母なる大地ハイルローガンよ!
我が願いを叶えたまえっ! 『封印結界』ッ!!」
呪文を唱え終えると、
私達の周囲がドーム状の透明な結界で覆われた。
そして私達二人を閉じ込めるように、
ドーム状の結界が広がった。
縦と横の広さも程良く、高さも問題ないわね。
これならば、私も元帥も結界内でも全力に戦う事が可能でしょう。
「……結界の強度を確かめさせてもらう」
「お好きにどうぞ」
シュバルツ元帥は、
周囲を覆う透明な結界に近づいて、左手で触れた。
すると元帥の左手が結界に強く弾かれた。
「……うむ、これならば問題ない。
では行くぞ、戦乙女リーファよ、覚悟せよ!
――我が守護聖獣ドラーガよ。
我の元に顕現せよっ!!」
シュバルツ元帥がそう叫んで、
自分の守護聖獣を召喚した。
すると彼の左肩にポンという音を立てて、
守護聖獣らしき漆黒の小竜が現れた。
「ガアオオンッ!」
小竜の体長は七十セレチ(約七十センチ)前後。
ドラゴンにしては、かなり小さくて、見た目も可愛いいわね。
そして小竜は、
シュバルツ元帥の近くで、両翼をパタパタと動かし宙に浮いていた。
見惚れている場合じゃないわね。
私も自分の守護聖獣を召喚しよう。
「――我が守護聖獣ランディよ。
我の元に顕現せよっ!!」
すると私の足下に小柄なジャガランディが現れた
言わずと知れた私の守護聖獣のランディよ。
「ランディ、行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解、リンク・スタートォッ!!」
私は間髪入れず『ソウル・リンク』を発動させた。
そして私とランディの魔力が混ざり合い、
私の能力値と魔力が急激に跳ね上がる。
同様にシュバルツ元帥も『ソウル・リンク』を発動する。
「ドラーガ、『ソウル・リンク』を開始せよッ!!」
「了解、リンク・スタートォッ!!」
そしてシュバルツ元帥と守護聖獣の魔力が混ざり合い、
シュバルツ元帥の能力値と魔力も急激に跳ね上がった。
これで条件は五分五分ね。
とりあえず次は分析ね。
でも念の為に剣を構えて、戦闘態勢は取っておきましょう。
-----三人称視点---
お互いに「ソウル・リンク」を発動。
次に行うのは相手の分析。
この辺は一騎打ちの基本戦術だ。
そしてリーファとシュバルツ元帥は、
守護聖獣に相手の能力値の分析を命じた。
「ランディ、分析よ!」
「了解した、分析開始っ!」
「ドラーガ、分析だ!」
「了解。 ――分析開始っ!」
約三十秒の間、周囲が静寂に包まれた。
そして互いの守護聖獣が分析を終えた。
「リーファ殿、分析を終えました」
次の瞬間、リーファと守護聖獣ランディの意識が共有化された。
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名前:アレクシス・シュバルツ
種族:竜人族♂
職業:竜騎士レベル56
能力値
力 :2385/10000
耐久力 :2315/10000
器用さ :1350/10000
敏捷 :2350/10000
知力 :1655/10000
魔力 :2140/10000
攻撃魔力:2050/10000
回復魔力:1650/10000
※「ソウル・リンク」で能力値強化中
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「前より成長してるわね。
数値的にも一部マリーダより上ね」
「流石は名うての帝国元帥ですな」
「ランディ、でもこれに負ける私じゃないわ」
そしてシュバルツ元帥とドラーガの意識が共有化されて、
リーファの能力値の数値も露わになった。
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名前:リーファ・フォルナイゼン
種族:ヒューマン♀
職業:戦乙女レベル59
能力値
力 :2050/10000
耐久力 :2750/10000
器用さ :1525/10000
敏捷 :2297/10000
知力 :2740/10000
魔力 :4455/10000
攻撃魔力:2750/10000
回復魔力:2900/10000
※「ソウル・リンク」で能力値強化中
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「もうレベル59なのか。
能力値もかなり高い。
だが一部の数値じゃ俺が勝っている。
故に決して戦えない相手じゃない」
「うん、元帥。 頑張ってください」
「嗚呼、やるからには勝つつもりだ!
行くぞ! ――龍の咆吼!」
ここでシュバルツ元帥は、
職業能力を発動、
これによってシュバルツ元帥の力と耐久力と敏捷性。
更には攻撃力と魔法防御力が一時的に増加された。
それに加えて五分間の間なら、
魔力と闘気の消費量は零となる。
但し蓄積時間は約三十分。
だがこのような一騎打ちの際には、
重宝する能力だ。
「今での能力が強化されたようね。
ならばこちらも! ――能力覚醒っ!」
リーファも間髪入れず職業能力・『能力覚醒』を発動。
これで五分間はリーファの能力値の数値が倍加された。
「更に……魔力覚醒っ!!」
続け様に「魔力覚醒」を発動。
これで魔法数値に限っては、
通常時の四倍の数値となった。
「……」
リーファはここで一瞬、「神の肉体」を使うか、
どうか悩んだが、この場は控える事にした。
「ふんっ……お互いに下準備は整ったようだな」
「そうね」
「アスカンテレスの戦乙女よ!
最早お互いに言葉はいらぬ。
後は戦うのみ、――行くぞっ!」
「来なさい、この戦乙女が相手してあげるわ」
竜人族の竜騎士と戦乙女。
意外にもこの二人による一騎打ちの組み合わせは、
初めてであったが、当事者である二人はそんな余韻に浸る暇もなく、
精神を集中して戦いに挑もうとしていた。
次回の更新は2024年12月4日(水)の予定です。
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