第二百八十二話 起死回生(後編)
-----三人称視点---
「――我は汝、汝は我! 母なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『フロスト・ウォール』!!」
光のビームが迫り来る中、
聖龍エレライムがそう呪文を唱えた。
すると前方に長方形型の氷の壁が現れた。
半瞬後、エイシルが放った光のビームが氷の壁に命中。
光のビームと氷の壁が真正面から衝突して、
激しい火花を散らしながら、
魔力と魔力によるせめぎ合いが始まる。
「次はボクの番だピョン。
リーファくんは強化技を!」
「はい! ――能力覚醒」
ラビンソンに言われるまま、
リーファは職業能力「能力覚醒」を発動。
ここで一瞬、「神の肉体」を重ね掛けするか。
悩んだが、後の事を考えてそれは止めておいた。
その間にラビンソンは、
両腕を頭上にかざして、呪文を唱えた。
「我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンよ!
我は大地に祈りを捧げる。 母なる大地よ、我が願いを叶えたまえ!」
ラビンソンがそう呪文を紡ぐと、
彼の両腕の上に強烈な魔力を緋色の炎が生じた。
そこからラビンソンは。
全身から魔力を解放しながら、呪文を更に唱える。
「そして天の覇者、炎帝よ! 我が身を炎帝に捧ぐ!
偉大なる炎帝よ。 我に力を与えたまえ!」
次の瞬間、ラビンソンは両腕を力強く引き絞った。
攻撃する座標地点は、
当然の如く、水の聖龍の周辺に狙いを定める。
そしてラビンソンは右手で素早く印を結んで、
声高らかに砲声する。
「炎よ、敵を焼き尽したまえっ! ――炎殺っ!!」
半瞬後、ラビンソンの両手から、
緋色の炎が連続して放射された。
緋色の炎は放物線を描いて、
水の聖龍が張った氷の壁に着弾する。
すると炎属性と光属性が交わり、魔力反応「核熱」が発生。
ごおおおん、という爆発音を轟かせながら、
放たれた緋色の炎が物凄い勢いで氷の壁を溶かす。
ラビンソンだけでなく、
エイシルもまた一流の魔導師。
その二人が繰り出した渾身の魔法攻撃で、
聖龍エレライムが張った氷の壁は、
放射状の罅が入った後、四方八方に砕け散った。
「リーファくん、今ピョン」
「はいっ! ――ゾディアック・フォースッ!!」
リーファは咄嗟に職業能力「ゾディアック・フォース」を発動させた。
能力覚醒で能力は倍化された状態。
この状態ならば、この水の聖龍も討てる。
リーファはそう思いながら、技名コールをした。
「――ライトニング・ブレイクッ!!」
次の瞬間、リーファが右手に持った聖剣に雷光が宿る。
使用する魔力は七割、いや六割に設定。
「せいやぁっ……アァァァ!!!」
リーファはそう叫びながら、
雷光を宿らせた聖剣を前方に突き出す。
すると聖剣の切っ先から、
目にもとまらない速さで稲妻が放たれた。
「ま、まずいっ! エレライムゥッ!
今すぐ対魔結界を張るんだ!」
「契約者! ま、間に合わないわっ!
アァァァ……ウアァァァ……!!!」
放たれた稲妻が水の聖龍に直撃。
それによって水の聖龍は、甲高い悲鳴を上げた。
聖龍とて生物の一種。
強化された神帝級の剣技の直撃を受ければ、
無事で済むはずもなかった。
水色の無数の鱗や体皮は感電によって、
腫れ上がり、一瞬にして全身が焼かれた。
近くに居たシュバルツ元帥もその余波で、
愛竜と共に後ろに激しく吹っ飛んだ。
「……決まったかしら?」
自分の想像していた以上のダメージに、
リーファも思わず両眼を瞬かせた。
だがやはり聖龍は並の龍ではなかった。
「アァァァ……アァァァ……!!!
ぜ、全身が焼け付く痛みだが……
ま、まだ動ける……今のうちに回復魔法を……」
左膝を地につけて、そう告げる水の聖龍。
まさかこの状態で動けるとは……。
ここで回復されたら、計画が台無しになるわ。
だが急な展開に加えて、
大量の魔力を消費したリーファもすぐには動けなかった。
「あたしが止めを刺すだわさ!
ハアァアッ! ――セラフィム・アローッ!」
後方からロミーナの叫び声が聞こえた。
それと同時に金の矢が風切り音を立てて、
前方で悶える聖龍の額の『進化の宝玉」に命中した。
「あっ、あっ……ま、まさか『進化の宝玉』にっ……!?」
金の矢が命中した『進化の宝玉』は、
放射状の罅が入り、耳障りな音と共に、
四方八方に砕け散った。
「あああっ……ち、力が……魔力が抜けるゥッ……」
すると聖龍エレライムの魔力が一気に消耗されて、
その肉体も急速に弱り始めた。
それによって聖龍エレライムは、
両膝を地面につけて、悶え苦しんだ。
その姿はまさに死に直面した獣。
だがそれも五十秒もすれば静まり、
白眼を剥いた状態で、その生命活動に終止符が打たれた。
するとその巨体が地面に崩れ落ちた。
「……死んだのかしら?」
「リーファさん、間違いなく死んだわ。
それと今回はあたしが経験値を頂くだわさ。
あっ! う、ううおお……ち、力が漲るだわさ」
今回は止めを刺したロミーナが莫大な経験値を得る事となった。
それによって、ロミーナのレベルも一気に跳ね上がった。
だが今のリーファには、それもどうでも良かった。
兎に角、何とか聖龍を倒す事が出来た。
その事実だけでリーファは、
言い知れぬ達成感を感じていた。
「……これでこの戦いにも勝てそうね」
「ウン、この勝利は大きいピョン。
……ん? 近場からまだ凄い魔力と闘気を感じる!?」
「……本当だわ。 だ、誰の闘気……あっ!?」
リーファの視界に愛竜に乗ったシュバルツ元帥が映った。
この状況下でも、彼の眼は闘志を滾らせていた。
「流石はアスカンテレスの戦乙女と盟友一行。
だがまだ俺が……帝国元帥シュバルツが居る!
聖龍が死んでも、俺はまだ死んでいない。
だから俺は貴様等に最後の戦いを挑む!」
シュバルツ元帥は、鬼気迫る表情でそう叫んだ。
リーファもその殺気に思わず呑まれかけたが――
「五月蠅いのがまだ残ってたか。
でもここはあえて全員で嬲り殺しにするピョン」
「……貴様等がそうするのも無理もない。
だが無理を承知であえて言おう!
アスカンテレスの戦乙女よ!
帝国元帥アレクシス・シュバルツは、貴公との一騎打ちを望む!」
そういうシュバルツ元帥の表情は、真剣そのものだった。
対するラビンソンは、冷めた表情で――
「それは貴様の都合に過ぎん。
ボクらが貴様の我が儘を聞く道理はないピョン」
「待って、ラビンソン卿」
「……何だい、リーファくん」
「ここは私に戦わせてください」
「君、正気かい?
それに何の意味があるピョン?」
「確かに意味はないですわ。
でも私もマリーダ戦の眼に、
少し腕ならししておきたいのです。
それと……」
「それと? 何だピョン」
「ああいう古風な男は嫌いじゃないです。
だからこの手で直接葬ってあげたいのです」
「……成る程、ならば君の好きにするがいいさ」
「ええ、そうさせて頂きます」
リーファはそう言って前へ出た。
そして前方のシュバルツ元帥に対して、高らかに宣言した。
「帝国元帥アレクシス・シュバルツ!
アナタのその一騎打ちにこのアスカンテレスの戦乙女が受けて立つわ。
但し一騎打ちのルールは、こちらが決めるわ。
それでも良いなら、「イエス」と答えなさい」
「良かろう、答えは「イエス」だっ!」
そしてリーファとシュバルツ元帥も共に、
前へ進んで、お互いに手にした武器を構えた。
戦乙女と竜人族の元帥の沽券をかけた戦いが始まろうとしていた。
次回の更新は2024年11月30日(土)の予定です。
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