第二百八十一話 起死回生(中編)
-----三人称視点---
「グオォォォォォォッ!!」
耳に響く雄叫びを漏らしながら、
聖龍はその大きな尻尾を横一直線に振るった。
「ヤバい、上へ回避だ!」
「うわあああ……間に合わない」
「ぎゃ、ぎゃあああ……あああっ!」
聖龍の尻尾攻撃が見事に決まり、
周囲の連合軍の兵士達は、断末魔の叫びを上げた。
今の一撃だけで百名近くの者が死傷した。
「エレライム、次は咆哮を放てっ!」
「了解よ! グルアアアァァァァッ!!」
放たれる聖龍の咆吼。
それをまともに受けた者は後ろに吹っ飛ぶ。
あるいは両眼と両耳から血を出して、息絶えた。
通常の竜の咆哮攻撃でも直撃すれば、
即死もあり得るが、今回の相手は聖龍。
それ故に咆哮攻撃一つを取っても威力が桁違いであった。
「良し、敵が硬直している。
ここで魔法攻撃下、ブレス攻撃だ!」
「契約者シュバルツ!
了解よ、さあ死ぬが良い! ――アイシクル・レーザーッ!」
「あ、あああっ! アレはヤバい!!」
「誰か対魔結界を張れっ!」
「駄目だ、間に合わん! う、うわあああっ!」
聖龍の口から放たれた氷の光線は、
一直線に放たれて、
その線上に居る者お容赦なく呑み込んだ。
この氷の光線を浴びた者は、
一瞬にして全身が凍りつき、
そして放射状の罅が入るなり、四方八方に砕け散った。
この攻撃だけでまた二百人以上の死傷者が出た。
聖龍がこの場にやって来た途端、
瞬く間に五百名以上の犠牲者を出した。
これには上空で戦況を見据えるリーファ達も
その表情を強張らせて、打開策を得るべく、言葉を交わした。
「……このままじゃ下手すれば全滅しかねないわ。
ラビンソン卿、何か打開策はないですかっ!?」
リーファはいつになく興奮した様子でそう言う。
対するラビンソンは、この状況でも落ち着いていた。
「いくらボクらでも聖龍相手に接近戦は厳しい。
だからここは中、長距離から戦おう。
そこのイケメン剣士、君は魔法剣士だよね?」
「……そうですが?」
少し怪訝な声でそう言うアストロス。
「まず君が皆に炎の付与魔法をかけるピョン!」
「了解です、――エンチャント・オブ・ファイア」
アストロスは言われるがまま、
炎の付与魔法を発動。
これによってアストロス、リーファ、エイシルの武器が炎で覆われた。
「良し、飲み込みが早いね。
流石は戦乙女の盟友」
「いえいえ」
「リーファくん、君は遠距離の剣技をいくつ持ってる?」
「え~と二つですわ。
ライトニング・スティンガー。
それと最近覚えたライトニング・ブレイクがあります」
「その二つなら強化技、あるいは能力を使えば、
聖龍を討つ事も可能だピョンね。
でもその為には聖龍を足止めする必要がある。
エルフのかわい子ちゃん!」
「はい、それとボクの名前はエイシルです」
「うむ、エイシルくん。
ボクと君であの聖龍を足止めしよう。
君はどれだけの属性を使える?」
「水、風、光、念動の四属性です」
「ならばここは無難に核熱攻めで行こうか。
まずはボクが地形変化で、
聖龍を足止めするから、
そこで君は最高の光属性魔法を撃て。
その後にボクが炎属性魔法を合せる」
「……了解です」
「その際にそこのイケメン剣士くんは、
「属性破壊」などで聖龍の耐性を下げるピョン」
「了解! 後、私の名はアストロスです」
「うむ、アストロスくん。 任せたよ。
リーファくんは、ボク達が核熱を起こしたら、
全力で遠距離系の剣技を放つんだ」
「でも向こうにはまだ契約者であるシュバルツ元帥が居ますわ。
聖龍討伐に成功しても、
彼との戦いは避けられないでしょう」
リーファの言葉にラビンソンが一瞬「う~ん」と唸る。
だがすぐにラビンソンは、気を取り直した。
「まあ君の云う事も分かるよ。
でもここは聖龍を倒す事を最優先にすべきピョン。
最悪、その元帥は皆で嬲り殺しするという手もある。
この戦いは騎士同士の決闘じゃない。
紛れもない戦争なんだピョン」
「……そうですね」
「良い返事ピョン。
じゃあ皆で力を合わせて戦おう!」
「「「はい」」」
するとラビンソンは右手を前へ突き出して、
両眼を瞑りながら、全身から魔力を解放した。
「まずここは「超熱風」で相手の動きを止める。
皆はその後にそれぞれの役割を果たしてくれ」
「「「了解です」」」
「ハアァア……アァァァ!
行くピョン! ――超熱風っ!!」
次の瞬間、ラビンソンの両手から激しい熱風が吹き荒れた。
「エレライム、敵の攻撃だ!」
「駄目だわ、間に合わない!
――フロスト・ウォールッ!!」
シュバルツ元帥の言葉で、
完全な不意打ちには失敗したが、
水の聖龍も短縮詠唱で氷の壁を張るのがやっとであった。
「くっ、駄目だ! 耐えきれない」
激しい熱風が氷の壁を綺麗に打ち砕いた。
「行きます、――属性破壊」
アストロスが絶妙のタイミングで「属性破壊」を放つ。
アストロスの左手の平から、
魔力の波動が解き放たれた。
五秒後、その魔力の波動が聖龍に命中した。
「良し、ここで「魔力覚醒」だピョン。
ピョォォォォォォッ……魔力覚醒っ!」
「ま、魔力覚醒っ!!」
ラビンソンとエイシルが「魔力覚醒」を発動。
これで二人の魔力の数値は倍化された。
「では行きます! 我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンよ!
我は大地に祈りを捧げる。 母なる大地よ、我が願いを叶えたまえ!」
エイシルがそう呪文を紡ぐなり、
彼女が持った両手杖の先端の魔石に、
強力な魔力を帯びた光の波動が生じる。
そこからエイシルは呪文を更に唱えた。
「そして天の覇者、光帝よ! 我が身を光帝に捧ぐ!
偉大なる光帝よ。 我に力を与えたまえ!」
そこでエイシルは、両腕を力強く引き絞った。
攻撃する座標地点は、前方の聖龍に狙いを定める。
そしてエイシルは、凜とした声で力強く叫んだ。
「光よ、敵を貫きたまえっ! ――ライトニングバスター!!」
次の瞬間、エイシルの両手杖の先端の魔石から、
目映い光のビームが放たれた。
ここから起死回生の一撃となるか。
いずれにせよ。
水の聖龍との戦いも佳境を迎えていた。
次回の更新は2024年11月27日(水)の予定です。
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